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プレスリリース 発行No.769  平成29年4月20日

手術で改善が期待できる鼻と耳の病気
~ 医療技術の進展で患者さんの身体的な負担が軽減 ~

東邦大学医療センター佐倉病院耳鼻咽喉科(佐倉市下志津、教授:鈴木光也)では、地域中核病院と大学病院という両側面から、一般的な病状から稀な病気や重症感染症に至るまでの様々な疾患の治療にあたっています。当レポートでは、手術によって改善が期待できる鼻と耳の病気についてわかりやすくお伝えします。

耳鼻咽喉科は耳、鼻、のど、頸部など感覚器や呼吸器・消化器の入り口として重要な機能を有する領域を専門にする診療科です。耳鼻咽喉科領域の感覚器の機能としては、いわゆる5感(視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚)のうち嗅覚、聴覚、味覚の3つに加えて平衡覚があり、どれもが生活の質(QOL)を維持するために大変重要なものです。

1.鼻の構造と役割

鼻の中の穴を鼻腔(びくう)といい、そのまわり(頬の裏側、目の間、額の裏側、鼻の奥)にある空洞を副鼻腔といいます。鼻は匂いを感じる嗅覚をはじめ、吸った空気を温めたり加湿したり、また、異物を除去したりする機能を有しますが、これらは鼻腔と副鼻腔の働きのおかげです。

2.手術で改善が期待できる鼻の病気

 鼻の病気は鼻腔に起こるものと副鼻腔に起こるものとに大別できます。
鼻腔の病気には、「鼻中隔彎曲症」、「アレルギー性鼻炎」、「肥厚性鼻炎」などがあります。
 鼻中隔彎曲症は、鼻腔を左右に隔てている中央の仕切り(鼻中隔)が大きく曲がることで、鼻の機能にトラブルが生じるものです。
アレルギー性鼻炎は、水様性の鼻漏(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)、発作的で連発するくしゃみなどの症状を主とします。原因には花粉のような季節性のものと、ハウスダストやダニなどの通年性のものがあります。
肥厚性鼻炎は、鼻腔にある下鼻甲介(かびこうかい)の粘膜組織が増殖、肥大して慢性化したもので、主な症状は鼻づまりですが、多くはアレルギー性鼻炎の悪化によるものです。

 鼻中隔彎曲症やアレルギー性鼻炎の治療では、症状の程度により手術が行われます。
 鼻中隔矯正術では彎曲を矯正し、鼻閉を改善させます。さらに、下鼻甲介の粘膜や骨を切除することで症状を改善させることができます。
 鼻漏の8割、くしゃみの3~5割にこの神経が関わっているとされる後鼻神経を切断する手術もあります。通年性アレルギー性鼻炎の治療で行い、3年以上の術後経過で8割以上の患者さんで効果が持続しています。但し、アレルギー体質そのものを治すことはできないので注意が必要です。

 一方、感染やアレルギーなどにより副鼻腔に炎症が生じ、鼻漏や鼻閉、嗅覚障害などを呈する病気を副鼻腔炎と言います。
感冒などの細菌感染の後に起こる急性副鼻腔炎は、黄色い膿性(のうせい)の鼻水に特徴があり、頭痛や頬部(きょうぶ)痛を伴い、中には炎症が眼窩(がんか)内まで進展し、複視や視力低下などを起こすこともあります。
副鼻腔炎が治らずに慢性化したものが慢性副鼻腔炎です。以前は蓄膿症とも呼ばれていたものです。
 白血球の一種である好酸球が鼻粘膜で増殖し、難治性炎症を起こすのが好酸球性副鼻腔炎です。喘息の合併を起こしやすく、粘りの強い鼻水や鼻茸(はなたけ)といわれる副鼻腔がキノコ状の腫れることに特徴があります。2015年に難病指定されました。

 抗生物質やアレルギーの薬の投与が有効でなかったり、鼻茸が存在したりする場合に副鼻腔手術を行います。副鼻腔間を開放して排泄と換気を確保し、副鼻腔の粘膜を正常化させることを目的としたもので、内視鏡を用いる手術が普及し、以前と比べて身体的負担が少なくなりました。

3.耳の構造

 耳の構造は、外耳、中耳、内耳に大別されます。外に張り出ている耳介(じかい)、外耳道、鼓膜までを外耳といいます。鼓膜の奥に鼓室があります。鼓室には3つの耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)があり、鼓室から鼻の奥につながるのが耳管です。耳管は中耳の状態を正常に保つ役目を担っています。内耳には、かたつむりを意味する渦巻き状の器官である蝸牛(かぎゅう)があり、聴覚をつかさどります。

 蝸牛にはリンパという液体で満たされていますが、音をキャッチするとこのリンパが揺らされます。リンパの振動の情報は、感覚細胞(有毛細胞)から蝸牛神経を通じて脳に伝えられます。感覚細胞は蝸牛の内側に並んでおり、音の周波数によって刺激される感覚細胞が異なります。

4.手術で改善が期待できる耳の病気

 国内で難聴者とされる人の割合は約5%(約600万人)以上とされますが、難聴の程度も原因も様々です。難聴は伝音難聴、感音難聴と両者が混じった混合性難聴に大別されます。鼓膜と耳小骨は音の振動を内耳に伝える役割があり、ここに問題がある場合を伝音難聴といいます。一方、内耳は伝わってきた振動を感覚細胞から蝸牛神経を介して脳に伝え、音として感知させる役割があり、内耳以降に問題がある場合を感音難聴といいます。

 耳科手術も症状に応じて外耳、中耳、内耳の手術があります。伝音難聴のうち、外耳の病気には耳垢栓塞(じこうせんそく)、外耳道真菌症、先天性外耳道閉鎖症などがあります。また、中耳の病気には滲出(しんしゅつ)性中耳炎、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎、耳硬化症などがあります。

 鼓膜の奥に液体がたまるのが滲出性中耳炎で、耳管機能が障害されると生じます。耳管機能が障害された状態が続くと真珠腫性中耳炎が生じます。鼓膜の一部が中耳腔に向かって袋状に入り込み、奥へ進展すると真珠腫になります。病状が進むと周囲の組織を広範囲に破壊します。上方へ進むと硬膜外膿瘍や髄膜炎などが起き、後方へ進んで脳の静脈へ入ると血栓性静脈炎で意識障害が、また、内方へ進むと顔面神経麻痺や外側半規管瘻孔によるめまいが生じます。

 こうした真珠腫の完全除去には手術が必要です。真珠腫の進展状況によっては難聴の改善効果も期待できます。従来は耳介後部や耳前部の切開によって中耳の手術を行っていましたが、身体への負担が少ない「低侵襲手術」が普及し、進行例でなければ耳内の切開のみで行うことも可能となり、入院期間も短縮しました。
 耳硬化症は一番奥の耳小骨が動かなくなる病気で、手術によって聴こえを改善することができます。こちらはほとんどの場合に耳内の切開で行うため、外からは傷は全くわかりません。
 感音難聴は内耳に起因する病気で、伝えられた音を感じる器官である蝸牛や蝸牛神経に問題が生じる病気です。両側の耳に中等度から高度の感音難聴が発症した場合、補聴器や人工内耳が用いられることがあります。人工内耳は基本的には両耳とも平均聴力レベル90dB以上の内耳性難聴で適応されますが、例外もあるため耳鼻咽喉科で詳細な検査が必要です。人工内耳では蝸牛内に挿入された電極を使って聴神経を直接刺激することが可能となりますが、入院と手術が必要です。難聴の程度や原因によって、治療法も大きく異なりますので早めに聴力検査を受け、専門医に相談することをお薦めします。

 聴覚や嗅覚に不安を感じたら、近くの耳鼻咽喉科で早めの受診を心掛けましょう。

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