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プレスリリース 発行No.768  平成29年4月10日

アルツハイマー病と女性ホルモン、BMIの関係について報告
~ やせすぎは脳内エストロゲン濃度低下につながる ~

 東邦大学医学部の本間尚子准教授らの研究グループは、アルツハイマー病女性患者の脳では、女性ホルモンの代表であるエストロゲンの受け手が減少している部位があることを示しました。また、やせすぎが脳内のエストロゲン濃度低値と関係していることもわかりました。脳の健康維持に、エストロゲンと適切な食生活が重要である可能性を示すもので、健康長寿達成に役立つことが期待されます。この成果は4月7日18時(日本時間)に 雑誌Scientific Reportsにて発表されました。

発表者名

本間尚子(東邦大学医学部病理学講座・准教授)
三上哲夫(東邦大学医学部病理学講座・教授)

発表のポイント

  • アルツハイマー病女性の前頭葉白質組織ではエストロゲン受容体の一つであるER-βが減少していることがわかりました。また、やせすぎ(body mass index=BMI 17.5未満)は脳内のエストロゲン濃度維持に不利であることもわかりました。
  • アルツハイマー病とエストロゲンの関係について、脳組織を用いた研究はこれまで限られていました。今回初めて前頭葉白質組織でのエストロゲン作用低下がアルツハイマー病と関係する可能性を示し、また、BMIが脳内エストロゲン濃度と密接に関係することを示しました。
  • 超高齢社会の日本においては、健康長寿達成、とりわけ、脳の健康維持は国民的課題です。アルツハイマー病とエストロゲン、BMIの関係性が示されたことは、やせすぎへの警鐘など健全な食生活の推進につながるかもしれません。
  • 発表概要

     エストロゲンは女性の健康維持に重要で、脳においても重要な働きをすると考えられています。エストロゲンがアルツハイマー病予防に働く可能性は指摘されていますが、これまでの研究は疫学的あるいは実験的なものが多く、ヒトの脳組織、特に凍結組織を使った研究はとても限られていました。またエストロゲンが関係した研究では、目的とする臓器でのエストロゲンの濃度、代謝動態、受容体の解析が重要ですが、これらをまとめて解析したアルツハイマー病研究はありませんでした。東邦大学の本間尚子准教授らの研究グループが、解剖例から得られた大脳前頭葉組織についてこれらを調べたところ、アルツハイマー病の白質組織ではエストロゲン受容体βが減少しており、白質でのエストロゲン作用低下がアルツハイマー病に関係する可能性が示されました。また、閉経後は体内の脂肪組織でエストロゲンが多くつくられるため、BMIと血中エストロゲン濃度は正に相関することが知られています。今回の解析で、脳内エストロゲン濃度にはBMIが強く影響しており、過度のやせは脳のエストロゲン濃度維持という点で好ましくないことがわかりました。超高齢社会の日本においては、健康長寿達成、とりわけ、脳の健康維持は国民的課題です。エストロゲンは食生活とも密接に関係しています。本研究結果はやせすぎへの警鐘となるかもしれません。

    発表内容

     エストロゲンは全身臓器の生理的機能維持に重要で、脳も例外ではない。認知症の最大の原因であるアルツハイマー病は、超高齢社会の日本では増え続けており社会問題ともなっている。アルツハイマー病は男性よりも女性に優位に多いが、閉経後に増えること、また閉経後女性の血中エストロゲンレベルは男性以下になることなどから、血中エストロゲンレベルの低下がアルツハイマー病につながる可能性が指摘されている。エストロゲンによるアルツハイマー病予防効果も多数報告されているが、これまでの研究は疫学的あるいは実験的なものがほとんどで、ヒトの脳組織、特に凍結組織を使った研究はとても少なかった。さらに、エストロゲンが関係した研究では、目的臓器でのエストロゲンの濃度、代謝動態、受容体の解析が重要だが、これらを包括的・系統的に解析したアルツハイマー病研究はこれまでなかった。そこで今回、解剖で得られたアルツハイマー病女性患者13例の大脳前頭葉組織についてこれらを調べ対照群12例と比較した。性ステロイドホルモン(エストロゲン2種estroneとestradiolおよびアンドロゲン1種androstenedione)の濃度は液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法で解析した。アンドロゲンからエストロゲンを合成するアロマターゼなど各種エストロゲン代謝酵素群のmRNA発現は定量的real-time RT-PCR法で解析した。エストロゲン受容体 (ER-αおよびER-β) の発現は免疫組織化学法で調べた。アルツハイマー病群と対照群の間には、性ステロイドホルモン濃度、代謝酵素群発現、ER-α発現には有意な差がなかったが、アルツハイマー病の白質組織においては対照群に比しER-βの発現が有意に低下していた(図1)。白質でのER-βを通じたエストロゲン作用の伝達障害がアルツハイマー病に関係している可能性を示唆するものである。白質は脳においては下支え的な組織であるため、従来、アルツハイマー病研究では重視されてこなかったが、今後、白質に注目した研究も必要と考えられる。
     今回もう一つ重要なのは、脳内エストロゲン濃度についての結果である。閉経後は、アロマターゼが豊富な脂肪組織でエストロゲンが多くつくられるため、BMIと血中エストロゲン濃度は正に相関することが知られている。そこでBMIも併せて解析したところ、BMIは脳内エストロゲン濃度と、特に対照群で強い正の相関関係にあることがわかった。一方、BMIと脳内アンドロゲン濃度には関係が見られなかった(図2)。性ステロイドホルモンは脂溶性のため、脂質の多い脳組織に血中から容易に移行し蓄積されやすいと推察される。BMIと血中エストロゲン濃度の正の相関関係が、より強調された形で脳にあらわれると考えられる。
     アルツハイマー病患者では明らかな認知症症状発症前から体重が減少することが知られている。やせとアルツハイマー病の関係については、アルツハイマー病発症前段階からの摂食障害がやせにつながるという説と、やせによる体内エストロゲン濃度低下がアルツハイマー病の原因となるという説などがある。いずれが正しいかは現時点ではわからないが、いずれにしても過度のやせは脳のエストロゲン濃度維持という点では好ましくないことが本研究で示された。
     超高齢社会の日本においては、健康長寿達成、とりわけ、脳の健康維持は国民的課題である。BMI以外にも、イソフラボンはER-βに結合してエストロゲン作用を発揮するなど、エストロゲンは食生活とも密接に関係する。今回は比較的少数例についての検討で、解明されていない点も多いが、今後、より多くの研究によりエストロゲンとアルツハイマー病の関係が明らかとなれば、食生活改善を通じた草の根レベルでの予防も可能となっていくかもしれない。

    発表雑誌

    雑誌名:「Scientific Reports」(オンライン版:2017年4月7日、日本時間18時発表)
    論文タイトル:Estrogen-Related Factors in the Frontal Lobe of Alzheimer’s Disease Patients and Importance of Body Mass Index
    著者:Naoko Honma*, Shigehira Saji, Tetuo Mikami, Noriko Yoshimura, Seijiro Mori, Yuko Saito, Shigeo Murayama, Nobuhiro Harada
    DOI番号:10.1038/s41598-017-00815-3
    アブストラクトURL:PMID:28389656

    添付資料

    図1 前頭葉白質のER-β発現(左:アルツハイマー病例、右:対照例)
    図2 前頭葉組織中のestradiol(左)およびandrostenedione(右)の濃度(×:アルツハイマー病例、○:対照例)。点線はBMI 17.5に相当。

    問い合わせ先

    【本発表資料のお問い合わせ先】

    東邦大学医学部病理学講座
    本間尚子・准教授
    TEL:03-3762-4151 (内線2382)
    FAX:03-5493-5414

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