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プレスリリース 発行No.767  平成29年3月24日

- 排尿のしくみと尿トラブル -
~ 泌尿器の病気の予防は生活習慣の改善から ~

 東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科(東京都目黒区大橋2-17-6、教授:関戸哲利)では、泌尿器・男性生殖器系臓器の外科的・内科的疾患を対象とし、その診断から治療までを行っています。近年は、排尿機能外来の開設や尿流動態検査(排尿機能検査)や前立腺肥大症に対する経尿道的レーザー前立腺核出術の導入、尿失禁や骨盤臓器脱の専門外来の開設などによって排尿障害診療の充実を図っています。

人間にとって欠かせない営みの一つである排尿ですが、人には相談しにくいデリケートな部分なので、悩みを抱えている人も多い問題でもあります。当レポートでは、排尿のしくみや起こりやすい病気、そしてその治療法についてわかりやすくお伝えします。

1.排尿のしくみ

腎臓でつくられた尿は膀胱で溜められて(これを「畜尿」という)、尿道を通じて「排出」されます。つまり、排尿とは畜尿と排出の2つの働きの繰り返しであり、畜尿が日常生活の大部分を占め、残りが排出となります。

一般に、生まれたばかりの新生児の排尿の回数は、1日に30回もありますが、その後、徐々に日々の排尿回数が減少し、膀胱充満感が認識され始める1歳から2歳では8~10回になります。排尿コントロールが確立するのは3歳から4歳で、7歳の排尿回数は3~7回、12歳では4~6回といわれます。

交感神経は活動しているときなどに、副交感神経は休息しているときなどに働きますが、畜尿も排出もこれらの神経の働きによってコントロールされています。交感神経が活発化することで尿が蓄えられます。この際、膀胱は緩み、膀胱の出口は閉じられます。そして陰部神経という神経の働きで尿道括約筋という筋肉が活動し、尿道が締めつけられます。一方、尿を排出する際は、副交感神経が活発になり、膀胱が収縮します。

畜尿の働きに伴い、膀胱では尿が徐々に充満してきます。膀胱粘膜から「粘膜が伸びている(尿が溜まってきている)」ことを伝える分泌物が出され、これが知覚神経を刺激し、脊髄や末梢神経を通じて大脳に「充満している」ことが伝達されます。ただ、充満しているという情報のすべてが「尿意」につながるわけではなく、大脳の中で情報が取捨選択されます。膀胱の充満状態が「尿意」を生じるレベルになった場合には、「もう少し我慢しようか、それともトイレに行こうか」が大脳で最終決定されます。このように大脳(あるいは脊髄や末梢神経)の働きと排尿の働きには密接な関係があるため、これらの器官の老化や病気が排尿のトラブルにつながることが少なくありません。

2.年齢が上がるにしたがって増える「過活動膀胱」

急に尿意をもよおして我慢が困難になり、すぐにトイレに行きたくなることを「尿意切迫感」といいます。また、頻繁にトイレに行きたくなる「頻尿」や就寝中にトイレに何度も行きたくなる「夜間頻尿」、そしてトイレに間に合わなくて漏れてしまう「尿失禁」といいますが、「尿意切迫感」に加えてこれらの自覚症状がある場合を「過活動膀胱」といいます。
過活動膀胱の患者さんは全国に約810万人(失禁なし:380万人、失禁あり:430万人)いるといわれます。年齢が上がるにしたがって増える傾向にあり、80歳代以上では、3割以上の人がかかっているといわれます。
「過活動膀胱」の原因としては、膀胱粘膜から「伸びている(尿が溜まってきている)」ことを伝える分泌物の量が過剰になっている状態、あるいは、大脳における「膀胱充満」に対する誤った意思決定伝など、膀胱や大脳の機能異常が想定されています。さらに、近年では、動脈硬化との関係も指摘されています。動脈硬化によって、血流不足による膀胱の酸欠状態が起こり、これが膀胱の過活動を招くというものです。
過活動膀胱の治療には、「生活習慣の改善」、「膀胱訓練」、「骨盤底筋訓練」、「薬物治療」が行われます。

生活習慣の改善では、「禁煙」、「刺激物、人工甘味料、炭酸飲料やアルコールの摂取を抑える」、「水分の過剰摂取を控える」、「便秘改善」、「減量」、「適度な運動」が効果的です。1日の尿の回数は1日の尿の産生量を膀胱容量で割ったものですが、排尿日誌をつけることで、その状態を記録することも治療に役立ちます。

膀胱訓練とは、尿を我慢する練習のことで排尿間隔を少しずつ延ばす治療です。

骨盤底筋とは、骨盤の底で膀胱や子宮を支え、尿道や膣を引き締める役割をする筋肉です。骨盤底筋の収縮する力が弱まると、尿道を引き締める力も弱まります。これによって、咳やくしゃみ、運動などでおなかに力がかかることで、「腹圧性尿失禁」を発症することがあります。肛門、膣、尿道をゆっくり、その時点で一番強く締められるところまで締め、これをゆっくり開くという動作を繰り返す訓練です。過活動膀胱に対しても有効であることが示されています。

抗コリン薬やβ3受容体作動薬を用いた薬物療法は尿意切迫感や切迫性尿失禁に効果がありますが、症状の緩和を目的としたもので、完治を目的としたものではありません。

なお、夜間頻尿が主たる症状の場合、膀胱の機能異常以外の要因、例えば「加齢に伴う尿濃縮ホルモン分泌不全」や「足のむくみを来す心臓や腎臓の機能異常」、「水分や塩分の過剰摂取」などによって起こる場合があり、膀胱の機能異常以外の要因の是正に努めることも大切です。

3.高血圧と前立腺肥大症の関係

前立腺は膀胱の下部にあり、精液を作っている男性の生殖臓器です。尿道が前立腺の中を通っているため、「前立腺肥大症」になると尿道が狭くなり、排尿の際に膀胱の負担が増え、排尿のたびに膀胱が酸欠状態になります。その結果として、膀胱の機能異常が発生します。尿が出にくくなる症状の一方で、過活動膀胱が前立腺肥大症に併発することもあり、その割合は全体の50~75%といわれます。
近年では、高血圧との関係が指摘されています。血管の障害が前立腺の血流不足を招き、これが慢性炎症や前立腺細胞の増殖につながるというものです。ちなみにメタボリック症候群や高血圧が前立腺肥大症の発症に与える影響は、約2倍という調査結果もあります。

前立腺肥大症の治療には、「生活習慣の改善」、「薬物治療」、「手術療法」が行われます。生活習慣の改善では、「適度な運動」、「長時間の座位を避ける」、「水分の過剰摂取を控える」、「刺激性食品や動物性タンパク、カフェイン・アルコールの摂取量を抑える」、「便秘改善」が効果的です。

薬物療法では、即効性のあるα1受容体遮断薬を第一選択の薬として、比較的大きめの肥大症では5α還元酵素阻害薬も用いられます。最近ではホスホジエステラーゼ阻害薬という薬剤が使われる場合もあります。また、手術療法では、電気メスで削る「経尿道的前立腺切除術」とレーザーでくりぬく「経尿道的レーザー前立腺核出術」があります。但し、合併症を発症する場合があるので、手術を選択する場合は担当医と十分相談することが勧められます。

以上

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