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プレスリリース 発行No.736 平成28年11月7日

理学部化学科の研究グループが糖を精密につなぐ新しい手法を開発
~アメリカ化学会誌が研究成果を受理~

東邦大学理学部化学科の佐々木要講師及び大学院生橋本悠介氏らのグループは、単糖が鎖状に連結した分子である「糖鎖」を従来にない高効率で合成する手法を開発し、研究成果は、アメリカ化学会誌Journal of the American Chemical Societyに2016年10月26日に受理されました。

生命機能の維持や疾病治療に大きく寄与していることが知られている「糖鎖」は、自然界からの入手が難しく人工的に合成する方法に期待が寄せられてきましたが、糖と糖が連結するときの2通りの繋がり方であるα-結合(下向き)とβ-結合(上向き)のうち、糖鎖の重要な構成成分であるマンノースのβ-結合を構築する効率的な手法が極めて限られており、研究に必要な十分量を合成する上でのハードルとなっていました。

本研究は、この構築困難だった上向きのマンノースを合成することを可能にする新手法を開発したもので、これによって、糖鎖の機能研究に必要な純粋な糖鎖を高効率に合成することが可能となりました。

発表者名

東邦大学理学部化学科講師 佐々木 要

発表のポイント

  • マンノースにβ-結合で糖を連結する新手法を開発した。
  • 従来構築困難であった結合を、糖骨格を歪めるという新戦略で構築可能にした。
  • 糖鎖の精密合成により初めて生命維持や疾病に関与する糖鎖の研究が可能になる。

発表概要

単糖が鎖状に連結した分子である糖鎖は、生命機能の維持や疾病に大きく寄与していることが知られています。糖鎖の機能を研究する際に、最初のハードルとなるのは、純粋な糖鎖を十分量入手することですが、自然界から入手するのは困難なので、人工的に合成する方法に期待が寄せられています。糖と糖が連結するとき、その繋がり方には2通り、β-結合(下向き)とα-結合(上向き)がありますが、特にマンノースのα-結合を構築する効率的な手法は極めて限られていました。東邦大学理学部化学科佐々木要講師と大学院生橋本悠介氏らの研究グループは、この構築困難だったα-マンノシド結合を、従来にない高効率で合成することを可能にする新手法を開発しました。化学的には構築が困難なこの結合を、生体内では、糖骨格を歪めることで非常に効果的に構築しています。本研究では、従来になかった歪んだ2,6-ラクトン糖を用いることで、α-マンノシド結合を選択的に構築できることを明らかにしました。α-マンノシド結合は、地球上のすべての動植物がその細胞表面に共通して有する糖鎖に含まれるなど、生体機能の維持に重要な役割を果たしていることが予想されます。このような糖鎖を本手法で精密に合成し供給することを基盤として、その糖鎖の役割を明らかにしていければ、生命の化学的理解が進み、健康増進などに寄与できることが期待できます。

発表内容

 糖質はエネルギー源としてのみならず、単糖が鎖状に連結した糖鎖という形で地球上のすべての生物の生体中、特に細胞表層に見られます。そしてこの糖鎖は、生命機能の維持や疾病に大きく寄与していることが知られています。糖鎖の機能には、どの単糖が、どの位置に、どの向きに結合しているかが重要です。未だ機能が不明な糖鎖の研究する際に、最初のハードルとなるのは、研究対象となる糖鎖を純粋にかつ十分量入手することですが、自然界から入手すると純物質に選り分けるのが極めて困難です。したがって、人工的に合成し供給する方法に期待が寄せられています。糖鎖の化学合成で特に問題となるのは、結合の向きです。糖と糖が連結するとき、その繋がり方には2通り、α-結合(下向き)とβ-結合(上向き)がありますが、特にマンノースという単糖をβ-結合で連結する効率的な手法は限られおり、化学的に糖鎖を供給するためには、β-マンノシド結合の構築が関門のひとつになっています。
 一般的にマンノースと糖やアルコールを連結する反応は、下向きに結合したα-マンノシドが優先し、上向きに結合したβ-マンノシドはほとんど生成しません。しかし、地球上のすべての動植物が細胞表面にβ-マンノシドを有しており、生体内ではβ-マンノシドが合成されています。東邦大学理学部化学科佐々木要講師と大学院生橋本悠介氏らの研究グループは、生体内では、酵素が糖の骨格を巧みに歪めながらβ-マンノシド結合が形成されていることに着目しました。マンノースは通常椅子型配座ですが、マンノースに2,6-位に分子内エステル(ラクトン)構造を導入すると、大きく歪んだ舟型配座になります(註1)。そして、α-マンノシドを優先して与える椅子型配座とは異なり、2,6-ラクトンを導入した舟形のマンノースでは、従来法で構築困難だったβ-マンノシド結合が極めて高効率で選択的に構築可能であることが明らかとなりました。
 さらに佐々木講師らは、この選択性が発現するメカニズムについても詳細に検討しました。グリコシル化反応の反応機構は2つに大別されます。ひとつは脱離基が脱離して生成したグリコシルカチオンに対して糖やアルコールが反応するSN1反応、もうひとつは、脱離基を糖やアルコールが直接置換するSN2反応です(註2)。通常の椅子型配座のマンノースでは、SN1反応が優先して起こりα-マンノシドを与える一方、2,6-ラクトンを有するマンノースでは、SN2反応が優先して起こり、下向きの脱離基を上向きのグリコシド結合に置換できることが分かりました。さらに、SN1反応が起こってもβ-マンノシドを与えることが明らかとなりました。
 佐々木講師らは今後、本法を活用しこのような有用糖鎖を精密に合成し供給することで、糖鎖機能の化学的理解に向けた研究へと展開していく予定です。

発表雑誌

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
    (校正前Web公開)2016年10月26日
    (Web公開)2016年11月5日

論文タイトル:β‑Stereoselective Mannosylation Using 2,6-Lactones
著者:Yusuke Hashimoto, Saki Tanikawa, Ryota Saito, Kaname Sasaki*
DOI番号:10.1021/jacs.6b08874
アブストラクトURL:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.6b08874

用語解説

註1:
マンノースの通常の椅子型(左)と舟形(右)。赤で示すのが分子内エステル(ラクトン)。黒で示す糖骨格がラクトンの導入によって歪んでいるのが分かります。
註1
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註2:
通常の椅子型配座のマンノースでは、グリコシルカチオンを経由してα-グリコシドが生成します(SN1反応)。一方、2,6-ラクトンを有するマンノースでは、下向きの脱離基を上向きのグリコシド結合に置換するSN2反応が優先して起こりました。さらに、SN1反応が起こってもβ-マンノシドを与えることを明らかにしました。
註2
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以上

問い合わせ先

本発表資料のお問い合わせ先

東邦大学理学部化学科
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