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プレスリリース 発行No.659 平成28年1月29日

東邦大学サイエンスインタープリテーション〔科学解説〕
暗黒物質 ダークマター
~宇宙進化の解明のカギとなる正体不明の物質~

2016年2月12日にX線天文衛星 ASTRO-Hの打ち上げが予定されています。宇宙の成り立ちの解明のため、日本はこれまでも5機のX線天文衛星を打ち上げていますが、ASTRO-Hは最大規模のX線天文衛星で、X線からガンマ線まで、これまでにない非常に広い波長域において高感度での観測を可能にします。これにより飛躍的に宇宙の謎の解明に迫ることができると期待されます。
 本稿では、サイエンスアドバイザーとしてASTRO-Hプロジェクトに関わる理学部物理学科の北山哲 教授が、宇宙進化の解明のカギとなる 「ダークマター(暗黒物質)」 について解説します。

そもそもX線で宇宙を見るとは?

 私たちが普段 「光」という言葉を使うときには、「目に見える光(可視光)」を指すことが多いと思います。しかし、実は光には可視光の他にも、波長(あるいはエネルギー)によって、電波や赤外線、紫外線、X線、ガンマ線といったさまざまな種類があり、これらはまとめて電磁波とも呼ばれます。つまり、私たちの目では直接捉えることのできない、さまざまな光(電磁波)が存在するのです。
 私たちの身の周りにある物質は、原子で構成されています。原子は光を放ちますが、どの種類の光を出すのかは温度に依存しており、温度が高くなればなるほど波長の短い光を放ちます。例えば、人間の体温では赤外線が放出され、太陽の表面は約6千度で可視光を放ちます。そして、宇宙の原子のほとんどは、温度が数百万度~数億度という非常に高温なガスとして存在し、X線を放出していると考えられます。
 そのため、宇宙を観測するにはX線を特殊な機器で捉える必要があるのです。そうすることで、高温ガスが生み出されるような激しい環境(超新星残骸、ブラックホールの周辺、銀河団 など)が宇宙のどこにあり、どのような性質なのかなど、可視光では見ることの出来ない宇宙の核心を探ることができるのです。

ダークマターとは、どんな光でも捉えることのできないナゾの物質

しかし、光(電磁波)で捉えることのできる原子だけでは、宇宙の観測を全て説明しきれません。その他のなにか、「未知の物質」の存在を認めることで初めて説明できることが多くあります。それが本稿でキーワードとしている「ダークマター(暗黒物質)」なのです。
ダークマターとは、光を出さず、それにも関わらず質量は持っていて、周囲に重力を及ぼしている物質のことです。可視光に限らず、電波やX線など、どのような波長の光でも直接捉えられていないため、ダーク(暗黒)マター(物質)と呼ばれています。その正体については、様々な候補が提案されていますが、現在のところまだはっきりと分かっていません。

ダークマターについて驚くべきことは、その量の多さです。星がたくさん集まった集団が銀河で、さらに銀河が数十個から数千個集まった天体が銀河団ですが、その銀河団の全質量の約80%は、未知の物質であるダークマターが占めています。すなわち、正体不明の物質が宇宙のほとんどを占めているのです。

ダークマターの存在を裏付ける3つの証拠

 では、ダークマターは光を放出しないのに、どうしてその存在がわかるのでしょうか?少なくとも、以下の3つの証拠から、銀河団に大量のダークマターが存在することが裏づけられています。

・【高温ガスの存在】
銀河団に非常に高温のガスが留まっている、という事実です。重力が十分に強くなければ、高温ガスは拡散して銀河団の外に逃げてしまうはずですが、そうでないことから、大量のダークマターが存在して、ガスを引き寄せていることがわかります。

・【銀河の運動】
銀河団に含まれる銀河は、静止してはおらず、毎秒 数百~1千 kmという高速で動き回っています。 このような速さで運動する銀河を引き寄せておくためにも、ダークマターの重力が必要になります。

・【重力レンズ効果】
重力が発生している所を光が通過する際に、光があたかもレンズを通過したときのように曲げられるなどの現象がみられ、重力レンズ効果と呼ばれています。我々から見て銀河団の向こう側にある天体が放出している光が、ダークマターによる重力レンズ効果を受けていることが観測されています。

宇宙進化の解明に向け ASTRO-H がもたらすもの

 ダークマターは宇宙の成り立ちに大きく関わっていると考えられ、今日得られているさまざまな観測データをダークマターの存在なしに説明することはできません。

 ASTRO-Hは、これまでのX線天文衛星よりもはるかに正確にX線の波長を測ることができる「軟X線分光検出器」や、波長の短い(エネルギーの高い)X線を観測できる「硬X線撮像検出器」を 搭載しています。これらにより、銀河団中の高温ガスの温度や組成をこれまでよりも高精度で測定できます。さらに、今回初めてガスの運動速度を測定すること も可能となります。そのため、銀河団の重力を支配するダークマターの分布を正確に知ることができると期待されます。また、ダークマターの正体は未だに謎で すが、候補とされている粒子の中には、ごくまれにX線を放出すると予想されているものもありますので、もしそれが検出されれば、ダークマターの正体にさらに迫ることができると考えられます。
 このようにASTRO-Hによる観測データからは、宇宙の成り立ちや進化の解明に直結する情報がもたらされると期待されます。

関連ウェブサイト

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)

・X線天文衛星 「ASTRO-H」 特設サイト
http://fanfun.jaxa.jp/countdown/astro_h/

・X線天文衛星 「ASTRO-H」 プロジェクトサイト
http://astro-h.isas.jaxa.jp/
http://www.jaxa.jp/projects/sat/astro_h/index_j.html

・次期X線天文衛星 「ASTRO-H」 特集サイト
http://www.jaxa.jp/article/special/astro_h/index_j.html



北山 哲 教授
所 属 :東邦大学理学部物理学科 / 宇宙・素粒子教室
専門分野:宇宙物理学 ・ 観測的宇宙論 ・ 銀河・銀河団の形成
http://www.toho-u.ac.jp/sci/ph/lab/particle/kitayama.html

【お問い合わせ先】
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