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プレスリリース 発行No.600 平成27年6月2日

植物プランクトンに寄生する真菌類の新規系統が見つかる

~ 水域生態系における真菌類の役割の解明・有用藻類の大量培養 等に向けた基礎的知見 ~


琵琶湖と印旛沼において採集した大型珪藻類に寄生する真菌類に、今まで記載のない新規の原始的な系統のものが含まれていたことを 理学部生命圏環境科学科 湖沼生態学研究室(鏡味麻衣子 准教授)らの研究チームが明らかにしました。研究チームは、この成果をEnvironmental Microbiology Report に報告し、2015年6月号に掲載されました。
 鞭毛をもった胞子(遊走子)をつくる寄生性の真菌類(※1)は、植物プランクトンの大量発生やその規模をコントロールすることで知られています。つまり、植物プランクトンは、富栄養化が進んだ湖沼などにおいて大量発生し生態系や人間社会に不都合をもたらしますが、真菌類が寄生することで植物プランクトンを死滅させその規模を抑えているのです。このように寄生性の真菌類は生態系の中で重要な役割を果たしているにも関わらず、宿主である植物プランクトンとの間でみられる生態学的な相互作用の詳細はおろか、その多様性のほとんどが知られていないのが現状です。

※1. 真菌類とは、一般にカビ・キノコと呼ばれるもので、菌界に属する生物。細菌や粘菌、ミズカビ、卵菌などとは異なる。

 淡水中には様々な真菌類が存在することが分子生物学的手法により明らかになっています。しかし、これらが生態系の中でどのように振る舞っているのかわかっていません。一方で、珪藻に寄生している真菌類は、光学顕微鏡で観察できますが、真菌類の形態から種名を同定することは不可能です。
そこで研究チームは、琵琶湖・印旛沼から採水した野外サンプルを顕微鏡で観察し、見つけた珪藻の表面に寄生した真菌類から直接DNAを抽出・解析し同定を試みました。

 その結果、ツボカビの他に、Aphelida、クリプト菌、酵母が検出され、ツボカビ門、Aphelidaに属する真菌類の中には、今まで記載のない新規の原始的な系統を含んでいることがわかり、日本の湖沼にこれらの系統の真菌類が存在することが初めて明らかになりました。また、真菌類の種類と胞子嚢の形態、宿主の珪藻の種類に対応関係は見られませんでした(つまり、見た目・宿主が同じであっても異なる系統の種であることがある)。

 本研究の手法を用いることで、植物プランクトンに寄生する個々の真菌類を詳しく特徴付けることが可能となり、水域生態系での真菌類と植物プランクトンとの生態学的な関係性を解明する一助となります。さらに、貝毒を産生するアレキサンドリウムなどといった有害藻類の抑制、近年 オイル産生や食料・サプリメントなどの応用分野において注目を集める有用藻類の継続的な大量培養(※2)への重要な知見になりえます。

※2. 藻類に寄生するツボカビが、有用藻類の大量培養の弊害になっている。

〈タイトル〉 Novel basal, fungal lineages from freshwater phytoplankton and lake samples.
〈 著 者 〉 Seiji Ishida • Daiki Nozaki • Hans-Peter Grossart • Maiko Kagami
〈掲 載 誌〉 Environmental Microbiology Report (Volume 7, Issue 3 / 2015年6月号)
【ONLINE】 http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1758-2229.12268/abstract
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