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プレスリリース 発行No.570 平成27年1月5日

東日本大震災

津波によって生み出された生物多様性

~津波が海岸林にもたらした生態学的な影響~

東日本大震災の影響を受けた仙台湾の海岸林の植生を研究した理学部卒業生の遠座なつみ(生命圏環境科学科:2014年3月卒業)らの論文、および西廣淳 准教授(生命圏環境科学科)らによる災害復興事業と自然環境保全の両立についての意見論文が、日本生態学会が発行する研究誌「保全生態学研究」(Vol.19 No.2:2014年11月発行)の特集「東日本大震災と砂浜海岸エコトーン植生:津波による攪乱とその後の回復」に掲載されました。
津波により倒木した場所(倒木林)。
両側に残存した林が残る。

 2011年3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震に伴う巨大津波により、仙台湾沿岸の海岸林の植生は大規模な撹乱を受けました。この災害からの復興に向け、仙台湾湾岸部では2m以上の盛土をした植林事業が進められています。

  遠座、西廣准教授らは、2013年7月及び10月に津波による撹乱を受けた海岸林の管理方針の検討に資することを目的として、津波の影響を受けた海岸林において植生調査を実施しました※1。
※1. 2013年の時点で植林事業が行われていない場所を対象とした。

撹乱跡地に生育する
イヌセンブリ(絶滅危惧種)。

 その結果、津波は海岸林の植物の多様性を壊滅させておらず、「津波によって生み出された多様性」があることが明らかとなりました。
 津波により〔倒木した場所:倒木林〕と倒木せずに〔残存した場所:残存林〕が50m程度の幅で交互に成立しており、〔倒木した場所〕では草原の植物が、〔残存した場所〕では撹乱以前と共通した樹林の植物が生育していました。また、津波以前から存在した後背湿地※2は、ほとんどダメージを受けずに残存していました。このように、海岸林として環境が均質であった場所において、撹乱により環境の異なる場ができたことにより、全体として多様な種の生育が可能になっていることがわかりました。さらに、主に海岸林を構成していたクロマツが
津波により倒れたことで生じた窪地が、絶滅危惧種であるイヌセンブリやタコノアシの生育場所になっていることがわかりました。
※2. 河口や干潟の陸側にある湿地のこと。泥が堆積してヨシなどの植物が生えている。

調査地と隣接する植林事業地。
多様な動植物が生息する海岸林
を伐採・盛土し、新たな植林が進
められている。
 このように倒木林・残存林・後背湿地といった多様な環境が成立し、植生が回復しつつあった海岸林では、現在、一様に2-3m程度の盛土をし、新たにクロマツを植林する事業が急速に進められています。本研究の結果は、盛土による植林事業は、生物多様性保全の観点からは問題が大きいことを示しています。
〈対象論文〉
 遠座なつみ・石田糸絵・富田瑞樹・原慶太郎・平吹喜彦・西廣淳(2014)
  「津波を受けた海岸林における環境不均質性と植物の多様性」
  保全生態学研究 19: 177-188.
 西廣淳・原慶太郎・平吹喜彦(2014)
  「大規模災害からの復興事業と生物多様性保全:仙台湾南部海岸域の教訓」
  保全生態学研究 19: 221-226.
掲載された論文を含むこの特集は、植物がつくりだす構造的な複雑性が動物も含めた生物多様性の根幹をなすことから、植物・植生分野に特化した内容となっており、これまで3年にわたる東日本大震災の復興事業のあり方に課題を提示するものとなっています。

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