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プレスリリース 発行No.557 平成26年11月25日

忘年会・新年会シーズンの健康管理について

~ お酒を飲む機会の増える時期を楽しく健康に乗り切るために ~

 

 東邦大学医療センター大森病院 総合診療科、消化器内科(大田区大森西6-11-1病院長:
小原 明)では、多くの診療例・治療例から日常生活での健康管理の在り方についての知見蓄積に努めています。
12月から1月は、忘年会や新年会でお酒を飲む機会が増える時期です。
昔から「酒は百薬の長」と言われるように、適度な飲酒は健康に良いとされていますが、継続的な過度の飲酒は肝障害や膵炎、高血圧、糖尿病、動脈硬化やそれに伴う心臓病や脳血管障害、食道がん、頭頸部がんなど様々な病気を引き起こす原因となります。
また、暴飲暴食は胃食道逆流症を引き起こす危険性もあります。
 この時期の上手なお酒の飲み方と健康管理について、総合診療・急病科 渡邉利康医師のコメントを含めお伝えします。

●アルコールの吸収と代謝について
アルコールは口から直腸にいたる全ての消化管から吸収されますが、約20%が胃で、約80%が小腸で吸収されます。アルコールは分解されるとアセトアルデヒドになり、頭痛や吐き気、動悸や悪酔いなどを生じさせます。アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素という酵素で分解されますが、この働きには個人差があり、分解能力が低いと「お酒が弱い」ということになります。
一般的に、飲んですぐ顔が赤くなる人はアセトアルデヒドの害を受けやすく、また逆にお酒に強い人は飲み過ぎてしまう傾向があるため、両者とも注意が必要です。

●お酒を飲む前のポイント
▼飲酒前には何かを食べておくようにしましょう。
アルコールの吸収は食前の空腹時に比べ、食後には大きく低下することが報告されています。これは、胃内の食物が胃からのアルコール吸収を遅らせ、かつアルコールの小腸への移行も遅らせることによります。特に、牛乳やヨーグルトなどの乳製品はその効果が高いと言われています。
なお、飲酒前に水を飲むと胃粘膜が洗い流され、アルコールの吸収が速くなるので注意が必要です。

▼ウコン飲料やお茶飲料を活用するのも効果的です。
ウコンに含まれるクルクミンという成分は、アルコールの分解を速めたり、肝臓の働きを活発にする作用があると言われています。大森病院総合診療科でのラットを用いた研究ではクルクミン含有量の多いウコン飲料ではアルコールの呼気排出の低下(血中アルコール濃度上昇の抑制)が認められました。同様にお茶で割ってアルコールを摂取させると、呼気排出が低下することも明らかとなりました。ウコン飲料の過剰な摂取はかえって肝障害を引き起こす可能性もあるのでほどほどにしましょう。

●飲酒中~飲酒後のポイント
▼酒席ではなるべく食べながら飲むように心がけましょう。
空腹の状態で酒席に駆けつけ、何も食べないまま乾杯をしても、その後すぐに何かを食べることでアルコールの吸収を抑制することができます。胃内に食物があることでアルコールの吸収が遅くなるため、悪酔い防止にもなります。
「枝豆や豆腐など、良質なタンパク質はアルコールの処理能力を高めるので、意識的に食べることをおすすめします」(渡邉医師)

▼水分を積極的に摂取しましょう。
飲酒時は水分も摂るように心がけましょう。アルコール摂取量と同量以上の水分摂取をおすすめします。

▼お酒が飲めない体質の人は、周りにその旨を伝えておきましょう。
お酒が飲めない体質の人にとっては、アルコールは有害です。
飲めない人は、周囲の人にその旨を伝えたうえで、場の雰囲気を盛り上げるような役割をするなどして、酒席を乗り切るようにしましょう。
また、お酒の飲めない人に強要する行為はアルコールハラスメントにもなりますので、控える必要があります。

▼〆のラーメンは控えましょう。
ラーメンのような高脂肪食は、食道に胃酸が逆流し胸焼けなどの不快な症状を起こす胃食道逆流症の原因となることがあります。実際に年末年始は胃食道逆流症の患者数が増える傾向があり、飲酒量の増加と過食が胃食道逆流症に関連性を持つと考えられます。

(参考)胃食道逆流症(GERD)について

胃食道逆流は健康な人でも食後に見られる現象ですが、胸焼けなどの酸逆流症状や食道粘膜傷害が現れるのが、胃食道逆流症です。これは胃液や十二指腸液が食道内に流入することにより、食道粘膜に炎症と知覚神経刺激が引き起こされる病気です。
食事とともに飲酒をすると、アルコール摂取量の増加に伴って、胃の噴門を締める下部食道括約筋の圧が低くなり、また食べ物を胃に送り込む食道の蠕動運動(せんどううんどう)が低下し、食道の清掃機能が落ちてしまいます。さらに高濃度のアルコールで胃から内容物が排出されにくくなり、胃食道逆流が助長されます。
習慣的な過度の飲酒は、胃食道逆流症の発症要因のひとつとなると考えられています。
月別胃食道逆流症(GERD)陽性率(2005年9月~2006年8月調査)

2005年9月から2006年8月の一年間、当院総合診療科を受診した初診患者6493名を対象に行ったアンケート調査(F-scale)でGERDと診断された患者数グラフです。アルコールの出荷量との関連を見ると、出荷量の多い月の翌月は、GERD症状を訴える患者が増えており、年末年始、納涼会などでの飲酒量の増加、過食、高脂肪・高蛋白食がGERDを誘発していると考えられます。

「胃食道逆流症は私達に身近な病気になりつつあります。また胃食道逆流症の症状の一つである逆流性食道炎の結果として、食道粘膜(扁平上皮粘膜)の一部が胃粘膜(円柱上皮粘膜)に置き換わった『バレット食道』が生じる可能性があります。このバレット食道は『食道腺がん(バレット腺がん)』の発生母地として注目されています。欧州では1980年頃から食道腺がんが急速に増加しており、日本もそうなるのではないかと危惧されています」(渡邉医師)


●翌日の食事の心がけ

お酒を飲んだ翌日は、消化に時間がかからない炭水化物などの体に優しい食事を摂るようにしましょう。また、飲酒で脱水傾向になる一方で、軟便で量が多くなるので、水分(スポーツ飲料など)を積極的に摂るようにしましょう。

「炭水化物は食後2時間程度で消化吸収されますが、たんぱく質や脂肪は吸収にもっと時間がかかります。お酒を飲んだ翌日の食事には、消化の良いうどんなどをおすすめします。ただ、天ぷらなどの油っぽいトッピングは胃酸の分泌や下部食道括約筋の弛緩を引き起こしますし、わかめなども消化に時間がかかるため、なるべくなら素うどんが良いでしょう。また、唐辛子などの刺激物や酸度の高い柑橘類、酢の物などは食品そのものが食道粘膜を刺激し、不快な症状を感じる場合がありますので避けましょう」(渡邉医師)


●忘年会・新年会シーズンを乗り切るために
適度な飲酒量の目安は、一日平均のアルコール摂取量(100%換算)が20g程度(ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン200ml程度まで)とされており、連日の飲酒で週に300gを超えるようなアルコール摂取は総死亡リスクが増加すると報告されています。これは一日に換算すると42g、ビールなら中瓶2本、日本酒なら2合程度となります。
ただ、週4日未満の飲酒であれば、週300gのアルコール摂取でもリスクは増加しないということもわかっています。
このシーズンを楽しく健康に過ごすためには、上記のポイントを踏まえつつ、休肝日をつくりながら、節度ある飲酒量を守ることが大切です。

以上

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