プレスリリース 発行No.533 平成26年9月1日
ヒシの分布に影響する要因を三方湖で解明
~種子の性質が決める湖の植生~
全国各地の湖沼で急激な繁茂により様々な問題を引き起こしている水草 ヒシ(Trapa japonica)。ヒシが急増している湖沼のひとつである福井県の三方湖(みかたこ)において、ヒシの「増加パターン」と「湖の中での分布範囲に影響する要因」を東邦大学理学部生命圏環境科学科の西廣淳 准教授と東京大学の研究グループが明らかにし、日本生態学会の国際誌 Ecological Reseach に発表しました。 |

ヒシTrapa japonicaは、水面に浮かぶ葉を持つ一年生の水生植物で、葉から湖底に続く長い茎を持つのが特徴です。ヒシの急増は、三方湖をはじめ達古武沼(北海道)や諏訪湖(長野県)など、全国のいくつかの湖で確認されています。千葉県では、印旛沼において近縁種であるオニビシが異常繁茂しており、県・大学・地元漁協などが対策に乗り出しています。ヒシの急増は、湖での漁業や船の運航への弊害のほか、景観の悪化、枯れた植物体の沈積・分解による水質の悪化、生態系の変化など様々な問題をもたらします。

三方湖は、景勝地「三方五湖」を構成する湖沼の一つであるとともに、平成17年にはラムサール条約(※1)にも指定された自然環境の保全上、重要な湖沼です。ここでのヒシの生息状況は、観光資源としての価値や生物の生息環境に大きく影響します。本研究は、平成21年から3年間の環境省環境研究総合推進費による総合研究(「福井県三方湖の自然再生に向けたウナギとコイ科魚類を指標とした総合的環境研究」代表:東京大学 吉田丈人)の一環として行われました。
※1〔ラムサール条約〕:「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」1971年に採択された国際条約。生物多様性に富んだ重要な湿地を保全し、湿地の恵みを賢明に利用していくことを目的とする。 |

※黒い部分は水面、白い部分はヒシが生育している場所を示す
このようにヒシが大面積を占めるようになった近年でも、ヒシが生育しない部分が三方湖の下流域にあります。そこで、研究グループは三方湖の下流にある汽水湖(※2)である水月湖(すいげつこ)からの“水の逆流”に注目しました。塩分濃度の高い水がヒシの分布を抑制しているのではないかと考え、一年を通して塩分濃度の測定を行いました。
※2〔汽水湖〕:湖水(淡水)に海水(塩水)が混じっている湖。 |
こうして、三方湖内の塩分濃度の分布がヒシの分布を決める重要な要因となっていることが示されました。同時にこの研究成果は、種子からの発芽や実生の定着といった植物の成長の初期を把握することで、人工衛星からでも把握できるような大きなスケールの現象を制御できる重要な知見であることも示しています。

三方湖のように海や汽水湖に繋がっている湖の塩分環境は、海水面の高さ、風の向きと強さ,流入してくる河川の流量などの微妙なバランスの上に成り立っています。今後、これらの要因を他の環境要因と同時に考慮することで、湖内のヒシの分布範囲を予測できるようになると考えられます。
〈タイトル〉A Heterogeneous distribution of a floating-leaved plant, Trapa japonica, in Lake Mikata, Japan, is determined by limitations on seed dispersal and harmful salinity levels. 〈 著 者 〉Jun Nishihiro • Yoshikazu Kato • Takehito Yoshida • Izumi Washitani 〈掲 載 誌〉Ecological Research (Volume29 Issue5 / 9月号 掲載予定) 【ONLINE】 |
【お問い合わせ先】
東邦大学 経営企画部 広報担当 森上 需
〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1 E-mail: press@toho-u.ac.jp
TEL/FAX:047-494-8571 M Phone: 090-8722-8471