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プレスリリース 発行No.480 平成25年12月20日

花と昆虫は邪魔者によって多様化する!?
~多様化のメカニズムをシミュレーションで解明~

「相利共生の関係にある植物と昆虫の多様化は、昆虫を食す捕食者によって促進されている」ことを大学院理学研究科生物学専攻 香川幸太郎さん(博士後期課程2年)と瀧本岳 准教授(理学部生物学科)がコンピュータシミュレーションにより明らかにし、それをまとめた論文がアメリカの科学雑誌 The American Naturalistに受理され、電子版が(2013年12月16日)に掲載されました。

 「植物は花を付け、蜜を作る。すると蜜を採りにハチなどの昆虫が寄ってくる。その際に昆虫の身体には花粉が付き、それが花のめしべに運ばれ受粉する。」 このように植物にも昆虫(以下、送粉者)にも利益があるような相互関係(相利共生:送粉共生系)は、自然界に数多く見られます。本研究では、このような植物と送粉者における送粉共生系の多様化はどのようにして生み出されてきたのかを探るため行われました。

 送粉共生系の関係は互いに利益があることから、その関係は一見安定的に継続すると思われます。しかし、実際にはこの関係の中に入り込んで、一方的に利益だけを得る「邪魔者」がいます。例えば、花に寄ってきた送粉者を待ち伏せし食べてしまうクモなどの生物(以下、捕食者)や植物または送粉者に寄生する生物(寄生者)といったものです。

〔捕食者によって送粉共生系の多様化が促進されるメカニズム〕

植物と送粉者は開花/活動時期を合わせることで共生による利益を得ることができる一方で、送粉者は捕食者と活動時期が重なると捕食リスクが高まってしまう。このため、捕食者がいる場合、送粉者は植物の開花時期を追いかけつつ、捕食者の活動時期から逃げるように活動時期を進化させる。送粉者の活動時期が変化すると、植物と捕食者がそれに合わせてさらなる進化を起こす。このような三つ巴の進化合戦が、活動時期が異なる様々な生物種を生み出す原動力となる。
 そこで、香川さんらはこの「邪魔者」の存在が送粉共生系における多様化の重要な要因になっているのではないかと考え、進化の実験を様々な条件でいくらでも行うことができるコンピュータシミュレーションを用いて検証しました。

 今回のシミュレーションでは、花の咲く時期(開花時期)と送粉者・捕食者の活動時期に焦点を当て、捕食者の存在が植物・送粉者に及ぼしている進化への影響について調べました。植物・昆虫の種の特徴や生息環境の様々な条件設定のもと(全46000パターン)、捕食者を導入する場合としない場合で全500世代の進化をシミュレーションしました。

 その結果、捕食者を導入しない場合は、植物・送粉者の開花時期/活動時期が多様化する進化パターンは稀にしか確認されませんでした。一方、捕食者を導入した場合は、植物・送粉者の開花/活動時期が明確に「早い方にシフト」 「遅い方にシフト」 「早遅それぞれにシフト」するパターンが多く確認できました。すなわち、これは開花/活動時期がもとの種と異なる、新たな植物・昆虫の種が誕生したことを意味しています。従って、捕食者は送粉共生系にとって単なる「邪魔者」ではなく、植物と昆虫の種の分岐を促進し、生物の多様性を生み出す原因にもなっている可能性を示しています。
〈論文タイトル〉Predation on pollinators promotes co-evolutionary divergence in plant-pollinator mutualisms
〈  著 者  〉Kotaro Kagawa and Gaku Takimoto
〈 掲 載 誌 〉The American Naturalist
(URL)http://www.jstor.org/stable/amernatu.ahead-of-print

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