プレスリリース 発行No.453 平成25年8月26日
エネルギーロスのない
グリーンな分子性電子デバイス開発に光
~ついに分子性ゼロギャップ伝導体へのキャリア注入に成功~
学校法人 東邦大学
独立行政法人 理化学研究所
自然科学研究機構 分子科学研究所
「ゼロギャップ伝導体として世界で唯一、多層構造を有する分子伝導体 α-(BEDT-TTF)2I3へのキャリア注入に世界で初めて成功し、特徴的な量子輸送現象を低温で実現した」ことを東邦大学理学部物理学科の田嶋尚也 准教授(理化学研究所加藤分子物性研究室客員主幹研究員)、理化学研究所の川椙義高 研究員、加藤礼三 主任研究員、分子科学研究所の須田理行 助教、山本浩史 教授 らの研究グループが明らかにしました。
研究成果概要
現在の携帯電話、PCといった電子機器は、GaAs等の半導体素子デバイス発展により目覚ましく進展してきました。このような半導体は図に示すように伝導帯と価電子帯との間にエネルギーギャップを持つために、電気を流すのは少数のキャリア(電子や正孔)となります。従って、わずかな電子や正孔を注入しただけで、電気的性質が非常に大きく変化するのです。しかし、これら半導体素子は破棄する際には適切な処理が必要です。
ゼロギャップ伝導体とは、半導体の伝導帯と価電子帯が点で接し、エネルギーギャップがゼロの導体を言います。特殊なエネルギー構造をとるために、固体の中で電子があたかも光と同様、質量がゼロであるかのように振る舞い、電気伝導の主役を演じます。そのため、電子デバイスに最も重要な物理量であるキャリア易動度(電子や正孔の動きやすさ)は、低温で信じられないほど高くなります。従って、この物質を舞台にして、エネルギーロスのない高速駆動電子デバイスの実現が期待できます。
しかし、この物質へのキャリア注入方法はまだ確立していませんでした。
これまで研究チームはゼロギャップ伝導体のデバイス化に向けて、Si基板等を利用した通常の電界効果トランジスタを作製し、この物質へのキャリア注入を試みてきました。しかし、基板と試料〔α-(BEDT-TTF)2I3〕の圧力や熱による歪(収縮・膨張率)の違いが問題となり、この物質へのキャリア注入は成功していませんでした。
本研究では、試料の圧力や熱による歪効果がさほど変わらないプラスチック基板(PET: ポリエチレンナフタレート)の上に試料厚さ100nm程度の薄片単結晶試料を固定するだけで正孔キャリアを注入することに初めて成功しました。特徴的な量子効果も観測することに成功しました。このデバイスが非常に良質であることを示します。
今回の成果は、低コストで環境に優しいグリーンな次世代分子性電子デバイス開発に向けた大きな第一歩となります。成果報告は、平成25年9月1日 米国の科学雑誌『Physical Review B』に掲載されるに先立ち、8月26日(日本日付:8月27日)にオンライン版に掲載される予定です。
お問い合わせ先
(研究者)
学校法人東邦大学理学部物理学科
物性物理学教室
准教授 田嶋 尚也
TEL: 047-472-6990
独立行政法人理化学研究所
加藤分子物性研究室
主任研究員 加藤 礼三
TEL: 048-467-4504 FAX: 048-462-4661
自然科学研究機構分子科学研究所
協奏分子システム研究センター
教授 山本 浩史
TEL: 0564-55-7334
(報道担当)
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部 広報担当
TEL: 03-5763-6583 FAX:03-3768-0660
Mail: press@jim.toho-u.ac.jp
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
TEL: 048-467-9272 FAX: 048-462-4715
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自然科学研究機構分子科学研究所 広報室 報道担当
TEL/FAX: 0564-55-7262
Mail: kouhou@ims.ac.jp