プレスリリース 発行No.427 平成25年4月19日
磁気の波を用いた熱エネルギー移動に成功
- 次世代電子情報・マイクロ波デバイスの省エネルギー技術開発に道 -
東北大学原子分子材料科学高等研究機構
東北大学金属材料研究所
独立行政法人日本原子力研究開発機構
学校法人東邦大学
独立行政法人科学技術振興機構
【発表のポイント】
磁気の波(スピン波)を用いて熱エネルギーを望みの方向に移動させる基本原理を実証
新しい熱エネルギー輸送法として、次世代電子情報・マイクロ波デバイスの省エネルギー技術への応用に期待
本研究成果は、英国科学誌「Nature Materials(ネイチャーマテリアルズ)」のオンライン版(4月21日付:日本時間4月22日)に掲載されます。
成果概要
近年、持続可能な社会の実現に向けた環境・エネルギー問題への取り組みが活発化する中で、クリーンで信頼性の高いエネルギー源の開発や、電子・マイクロ波デバイスの省電力化が求められています。これまでデバイスに情報を入出力する方法として電流やマイクロ波が用いられてきましたが、多くのエネルギーが熱として浪費され、この発熱によりデバイスの動作が不安定となる問題があるため、効率的な排熱方法の開発が望まれていました。
今回、安助教、齊藤教授らは、磁気の波(スピン波)を利用することで、熱エネルギーを望みの方向に移動させることができる基本原理を考案し、これを実証しました。この手法により、熱エネルギーを制御して熱源から離れた場所へ運び、デバイスからの排熱効率を上げることが可能となりました。今後、この手法を用いることで電子デバイス・マイクロ波デバイス中の発熱の問題が解決され、次世代省エネルギーデバイス技術の開発に貢献することが期待されます。
本研究の一部は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として、東北大学原子分子材料科学高等研究機構、日本原子力研究開発機構、東北大学大学院工学研究科、東邦大学、カイザースラウテルン工科大学(ドイツ)との共同で行われました。
【背景と経緯】
本研究ではスピン流の一種である、磁気の波(スピン波)を起源とするスピン波スピン流を用いて熱エネルギーを移動する新しい基本原理を見出し、実験・理論の両面で実証しました。 その基本原理とは、通常のマイクロ波加熱(図1(a))とは逆に、磁性体中に吸収されたマイクロ波エネルギーがスピン波によって試料中で運ばれ試料端で熱エネルギーに変換されるというものです(図1(b))。これは外部磁場の方向を調節する事で起こり、通常のマイクロ波加熱とは逆方向に温度勾配が生成されます。熱流から磁気の波を生成する現象として「スピンゼーベック効果注3)」が知られていますが、今回の実証はその逆過程に相当する、磁気の波で熱流を操作する現象を実現する原理の一つとなり得るものです。この原理によれば、熱エネルギーを望みの方向に移動してデバイスからの排熱効率をあげることができるため、スピントロニクスの次世代省エネルギーデバイス開発への応用が期待されます。
【研究の内容】
【原理の説明】
3
で逆向きに反射することができません(図3)。十分な厚みの試料中では、上面と下面の表面スピン波間の飛び移りも抑制することができ、結果として、試料端でスピン波の持つエネルギーが熱エネルギーとして放出されます。この原理を用いて、今回、望みの方向に熱エネルギーを移送できることが明らかになりました。
【今後の展開】
また、本研究で明らかになった物理原理は、磁気の波(スピン波)と熱との相互作用を利用するもので、近年、スピンと熱との相互作用に基づく新現象を開拓し注目を集めているスピンカロリトロニクス注7)の分野にも深く関連し、今後の進展が期待される研究成果です。
脚注:
【論文名・著者名】
T. An, V. I. Vasyuchka, K. Uchida, A. V. Chumak, K. Yamaguchi, K. Harii, J. Ohe, M. B. Jungfleisch, Y. Kajiwara, H. Adachi, B. Hillebrands, S. Maekawa, and E. Saitoh,
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
安 東秀 (アン トウシュウ)
東北大学金属材料研究所 助教
〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1
Tel: 022-215-2023, E-mail: an@imr.tohoku.ac.jp
齊藤 英治 (サイトウ エイジ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構主任研究者
東北大学金属材料研究所 教授
〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1
Tel: 022-215-2021, E-mail: saitoheiji@imr.tohoku.ac.jp
前川 禎通 (マエカワ サダミチ) 日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター センター長
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2−4
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大江 純一郎 (オオエ ジュンイチロウ)
東邦大学 理学部物理学科物性理論教室 講師
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