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プレスリリース 発行No.241 平成23年7月28日

ツボカビの宝湖!?印旛沼
~湖の奇妙なキノコたち~

 「印旛沼はツボカビなどの菌類の多様性が高い」ことを東邦大学 理学部 生命圏環境科学科の鏡味麻衣子 講師がまとめた論文が微生物関連の著名な国際学術雑誌「Microbial Ecology」に受理されました。これは今まで解明されていなかった湖沼の菌類の多様性を報告したもので、富栄養化が進む湖沼において多様性が特に高く、物質循環に大きく関わっていることを明らかにしました。
~湖の奇妙なキノコたち~

 カビやキノコなどの菌類は陸上において主要な分解者として知られており、物質循環を知る手掛かりとして様々な研究成果が報告されています。その一方で、湖沼においては菌類はこれまで注目されず、その群集構造や多様性はほとんど明らかになっていませんでした。しかし近年、鏡味講師らグループの研究から菌類、中でも寄生性のツボカビが湖沼食物網において重要な役割を果たす可能性が浮かび上がってきました。

 本研究では、印旛沼のツボカビを含めた菌類群集の種組成、および植物プランクトンに寄生するツボカビの季節変動パターンを調べることを目的としました。2008年から2009年の間、千葉県の西印旛沼の湖水を採取し、湖水中に含まれる菌類の18SrRNA(遺伝子の一部)をターゲットにし、DGGE法(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)により、菌類群集の種組成を調べました。また2006年から2008年に採集した湖水を染色液(Calcofluor white)で染色し、蛍光顕微鏡下でツボカビが寄生する植物プランクトンの種類とツボカビの密度(胞子体数)を調べました。 
 その結果、DGGE法により14種の菌類が検出され、そのうち10種がツボカビであることが確認されました。その中には、植物プランクトンに寄生する種類だけでなく、有機物を分解する種類も認められ、印旛沼には多様なツボカビが存在する可能性が示されました。また蛍光顕微鏡下での観察では、ツボカビは様々な種類の植物プランクトンに寄生しており、特に印旛沼の優占種である珪藻2種に高い密度で寄生していることが明らかになりました(1mL中に胞子体:約1800個 ※遊走子に換算すると約18000~36000個)。
 ツボカビはミジンコが捕食できないような大型植物プランクトンに胞子体のかたちで寄生し、栄養を吸い取り 遊走子を放出します。その遊走子をミジンコが捕食することで、大型植物プランクトンもツボカビを介した物質循環経路(Mycoloop)に組み込まれます。このMycoloopは湖沼の食物網、物質循環において重要な経路と考えられています。本論文ではより多くの湖沼を調査することによって湖沼における菌類群集の多様性が明らかになるであろうと指摘しています。
 鏡味(湖沼生態学)研究室では引き続き、菌類を考慮に入れた湖沼の物質循環の解明に取り組みます。

講演会

〈論文タイトル〉Community structure of planktonic fungi and the impact of parasitic
         chytrids on phytoplankton in Lake Inba, Japan.
〈著者〉Maiko Kagami, Yosuke Amano, Nobuyoshi Ishii
〈掲載誌〉Microbial Ecology 【掲載号 未定】

【お問い合わせ先】
東邦大学 経営企画部 広報担当 / 理学部 東京湾生態系研究センター   森上 需
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