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プレスリリース 発行No.205 平成23年4月12日

東京湾海洋環境研究委員会 編
「 東京湾 -人と自然のかかわりの再生- 」出版

 東京湾海洋環境研究委員会が編集した「東京湾 ‐人と自然のかかわりの再生‐ 」が2011年2月28日に恒星社厚生閣から出版(定価10,500円)されました。参加学会・団体数17団体、執筆者総勢33名による東京湾の過去、現在、未来を様々な角度からとらえた、日本に類のない東京湾研究の集大成とも言える一冊であり、“本当”の東京湾の姿が見えてきます。
「 東京湾 -人と自然のかかわりの再生- 」出版

 構想15年、ついに本書は完成しました。…1996年、東京湾の関係学会を一同に会した東京湾海洋環境シンポジウムが開かれ、複数の学会による連携で東京湾海洋環境研究委員会が結成されました。この委員会は、社会に向けて東京湾の環境再生を提言するために発足しました。風呂田利夫 教授(東邦大学理学部生命圏環境科学科)は1973年から東京湾の環境問題について研究を行っており、本委員会では取りまとめ責任者として委員長を務め、東京湾における活動、研究として環境再生に向けた提言をまとめました。

再生に向けて…Back to the Future

 東京湾は日本で3番目に大きい内湾で、世界最大級の流域人口(約3,000万人)を抱える母なる海です。“江戸前”の海と呼ばれ、青く透き通り、熱帯から寒帯に至る南北の多種多様な魚介類が湧き出るように獲れたと言われる「きれいで豊かな海」でした。しかし、その後の開発に伴う埋め立てによって60年間で約90%もの干潟が消失しました。「いのちのゆりかご」と呼ばれる干潟の激しい減少は、東京湾の生産力を弱め、浄化能力を低下させます。さらに都市から汚濁物質が大量に流れ込み、富栄養化が顕著に進んだ結果、赤潮、青潮と呼ばれる異常事態が起きています。特に青潮は東京湾にとって致命的な影響を及ぼしており、東京湾の生態系における最大の課題です。

 青潮は毎年、夏季に発生します。富栄養化により異常発生したプランクトンの死骸は海底に沈殿してバクテリアに分解されます。この時、酸素が大量に消費され、貧酸素水塊(極端に酸素の少ない水)が形成されると同時に、生物にとって毒である硫化物が大量に生成されます。海流によって貧酸素水塊が表層に上がると空気に触れ、入浴剤のようなエメラルドグリーン色に変色します。きれいな色とは裏腹に独特の腐卵臭を伴って出現する青潮は、貧酸素と毒で多くの生物を死に追いやる死神のようです。青潮によって湾奥に形成される無生物域は約300km 2 にも及び、東京湾では年間に約9万トンもの生物が斃死していると推定されています。斃死した生物は海底に沈殿するため、それがさらなる貧酸素水塊や青潮を生み出す「貧酸素化スパイラル」に陥っていると考えられます。

 この他にも環境と生物の関係や環境負荷に対する生態系全体の応答が全て解明されていないなど未だ課題があります。その解決のためには約90%にも及ぶ立ち入り禁止区域 東京湾沿岸の水際をもっと身近に触れ合えるように解放し、湾岸の行楽を復活させ、東京湾への人々の関心を高めることが重要だと本書では指摘しており、それが再生への第一歩と言えます。

 本書では「汚くて貧しい海」から「きれいで豊かな海」へ、東京湾のBack to the Future という壮大なアドベンチャーを一緒に体感する人材が多く出てくることを望む、としています。

〈 書籍名 〉東京湾-人と自然のかかわりの再生-
〈 編  者 〉東京湾海洋環境研究委員会
〈 出版社 〉恒星社厚生閣 2011年 2月28日 出版 (定価10,500円)

【お問い合わせ先】
 東邦大学 経営企画部 広報担当 / 理学部 東京湾生態系研究センター   森上 需
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 TEL/FAX:047-472-1159    M Phone: 090-8722-8471