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プレスリリース 発行No.195 平成23年2月24日

外来生物が外来生物を食べていた!
~ヒロヘリアオイラガとヨコヅナサシガメの相互作用~

 「ヨコヅナサシガメがヒロヘリアオイラガの天敵(両種とも外来生物)になっており、次世代のヒロヘリアオイラガの発生量を抑制している可能性がある」ことを理学部生物学科 中野貴瑛さん(2010年3月卒業)が卒業研究において明らかにし、これを 瀧本 岳 講師 とともにまとめた論文が日本昆虫学会 学会誌 「昆蟲(ニューシリーズ) 14(1)」(2011年1月25日発行)に掲載されました。これは外来生物同士の相互作用を示したものです。外来生物対策では、安易な駆除ではなく、これらの生物の取り巻く相互作用を十分に理解した上で進めていくべきであるとしています。
~ヒロヘリアオイラガとヨコヅナサシガメの相互作用~01

 いつの頃からかサクラなどの木の上でよく見かけるようになったヒロヘリアオイラガとヨコヅナサシガメは、共に外来生物です。
 ヒロヘリアオイラガは年2化性(年に2世代)で、その幼虫はサクラやカエデ、ケヤキなどの樹木に生息し、営繭期になると幹を伝って地上近くにおりてきて繭をつくり蛹となります。幼虫はその葉を食し食害をもたらし、また体表に毒棘を有し、これに刺されるとひどく痛むため衛生害虫としても問題となっており、日本の侵略的外来種ワースト100に記載されています。
 ヨコヅナサシガメは、ケヤキやサクラ、カキノキなどの樹幹に集団で生息する捕食性昆虫です。営繭期になって樹の上部から降りてきたヒロヘリアオイラガの幼虫も捕食します。本種は見た目の不快感から、不快害虫と認識されている地域があります。

~ヒロヘリアオイラガとヨコヅナサシガメの相互作用~02

 本研究では、ヨコヅナサシガメがヒロヘリアオイラガに与える捕食の影響を定量的に調べることを目的に、両種の生息する桜並木において、「ヨコヅナサシガメの有無」と「ヒロヘリアオイラガの繭の数」の関係を、ヒロヘリアオイラガの第1世代、第2世代の両方について調べました。その結果、主に 第2世代時のヒロヘリアオイラガが成長したヨコヅナサシガメに捕食され、繭数を減らしていることがわかりました。このことは、翌年のヒロヘリアオイラガ第1世代の発生量を抑制するように働いている可能性があることを示しています。

 本論文では、外来生物対策においてヨコヅナサシガメを用いたヒロヘリアオイラガの生物的防除の可能性を検討するには、ヒロヘリアオイラガの個体群動態への影響も考慮する必要性があるとしています。一方、不快害虫と認識されているヨコヅナサシガメを駆除した場合、ヒロヘリアオイラガへの捕食圧がなくなることで、ヒロヘリアオイラガの発生量が増加する可能性があります。さらにヨコヅナサシガメが捕食する外来生物アメリカシロヒトリ(街路樹などの葉を食害する/本調査中に観察された)の発生量が増加する可能性も否定できません。これらのことから、ヒロヘリアオイラガやヨコヅナサシガメへの外来生物対策は、両種とこれらを取り巻く生物間の相互作用を十分に理解した上で進めるべきであると結論づけています。
〈論文タイトル〉ヒロヘリアオイラガとヨコヅナサシガメの外来生物間相互作用
〈 著 者 〉中野貴瑛・瀧本 岳
〈 掲 載 誌 〉昆蟲(ニューシリーズ) 14(1) 2011年1月25日 発行

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