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プレスリリース 発行No.121 平成22年4月12日

人工水路って希少干潟ベントスの楽園 !?
~千葉県にある人工水路が、干潟生物の多様性保全に貢献を示唆~

 東京湾沿岸部(千葉県側)にある人工水路が、希少干潟ベントス(ベントス=底生生物)の個体群維持にとって重要な空間になっていることが、理学研究科環境科学専攻の大学院生 柚原 剛さんらにより示唆されました。この研究成果は、先月行われた第57回 日本生態学会において発表(ポスター形式)されポスター優秀賞を受賞しました。
~千葉県にある人工水路が、干潟生物の多様性保全に貢献を示唆~

 東京湾内湾部では、主に昭和30年代から40年代にかけて埋め立てが行われました。ほとんどの干潟ベントスは、プランクトン幼生による分散を前提としているため、この埋立により干潟ベントスの生活空間が消失するとともにプランクトン幼生が着底する場が消失しました。このことにより、東京湾内湾部において干潟ベントスの絶滅や大幅な減少を引き起こしました。
 千葉県側では埋め立ての際、既成市街地と工業地域を分離および背後地の排水機能維持を目的として、旧海岸線と埋立部の境界部に水路が造られており、その後ほぼ放置されている状態でした。その一部では、土砂などがたまり時間の経過とともに、非意図的に小規模な塩性湿地や泥干潟が形成されて現在に至っています。
 
〔写真〕(上)柚原さん・受賞ポスター (中)人工水路 (下)アリアケモドキ

 本研究では、2008年から2009年にかけて千葉市から富津市の人工水路に形成された塩性湿地・泥干潟 13ヶ所(日本生態学会での発表ではこの内、5ヶ所を抽出して評価)を対象に調査(生物採集、環境測量・分析)を行いました。この結果、出現したベントスは68種確認され、その中には東京湾内湾部では30年ぶりに確認されたアリアケモドキ(公式な場〔論文・報告書・学会 等〕での発表として)をはじめとしてウミニナ、フトヘナタリ、サザナミツボ、ヒメアシハラガニ、ウモレベンケイガニなど東京湾での希少種※が12種含まれていました。これら希少種が塩性湿地(主にヨシ群落)や泥干潟を含む水路の多くで確認されていること、三番瀬や葛西沖のような開放的な前浜干潟のみの場所では確認されないことから、小規模であっても生物の生息基質として、塩性湿地や泥干潟などの多様な地形構造が希少種の個体群維持に貢献していることが示唆されました。柚原さんは結論として「塩性湿地を含む干潟の消失が著しい東京湾において、人工水路内干潟が局所的に散在することは、市街地の身近に希少種が存在する環境として、また東京湾干潟ベントス地域群集の多様性保全の場として評価する必要がある」としています。
※本研究において希少種とは、「千葉県の保護上重要な生物—千葉県レッドデータブック—動物編」(千葉県,2000)において〔要保護生物〕以上の保護の必要度である種、および「浅海域生態系調査(干潟調査) 業務報告」(環境省自然環境局生物多様性センター,2007)において「減少が著しい・減少傾向にある」以上の危険度を示す表現がある種のことを指している。

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 東邦大学 経営企画部 広報担当/ 理学部 東京湾生態系研究センター   森上 需
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