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プレスリリース 発行No.042 平成21年3月20日

相模湾で新種のゲンゲ 発見
~進化医学研究の中で~

 「相模湾の深海で採集されたゲンゲ(スズキ目)が新種である」ことが、東邦大学薬学部薬学総合教育センター・薬学総合実験部門 西口慶一 客員講師・同大理学部 岡田光正 名誉教授らの研究グループが報告し、これが平成21年2月20日、極限環境微生物学会誌「Journal of Japanese Society for Extremophiles」に受理されました。
ナツシマチョウジャゲンゲ

 今回発見されたゲンゲは、円口類の乳酸脱水素酵素(LDH)の構造と機能の研究における生物採集の際に発見されたものです。本種は、相模湾 初島南東沖 深さ855mで海洋研究開発機構の三輪哲也博士により採取されました。外見の特徴と遺伝子配列(16S rRNAの配列)から新種であることがわかり、これをナツシマチョウジャゲンゲ Andriashevia natsushimae と命名しました。この標本は、千葉県立中央博物館 宮正樹上席研究員によって保管されています。

 本研究では、生物がエネルギーを作り出す過程で必要な乳酸脱水素酵素の構造の違いによってその機能が異なることに注目し、脊椎動物の祖先である円口類3種を材料にそれぞれの持つ耐圧性と乳酸脱水素酵素の構造の違いを明らかにすることを目的としています。
 円口類の3種(ヌタウナギ・クロヌタウナギ・ムラサキヌタウナギ)では、乳酸脱水素酵素において構成するアミノ酸が6カ所しか違いがないにも関わらず、耐圧性に大きな違いがあります(この円口類3種では、それぞれ生息している深さが異なっています)。乳酸脱水素酵素は、ある圧力によって構造が崩壊もしくは変形し、その機能を失います。これまでの研究では、その構造を維持する強度(すなわち、耐圧性)を支配しているのが、アミノ酸に違いのある6カ所のうち2カ所にまで絞られてきました。これらの部位はヒトの乳酸脱水素酵素疾患の部位と近いため、その構造形成メカニズムを解明することが、ヒトの乳酸脱水素酵素に関係する疾患を解明する上で重要な情報になる可能性がでてきました。今回発見されたナツシマチョウジャゲンゲについても、乳酸脱水素酵素の働きを調べていく予定です。

 西口博士は、進化医学の観点から乳酸脱水素酵素の研究を行っています。進化医学とは、進化の過程を踏まえてヒトの病気を考えるという学問です。先に記した円口類3種における乳酸脱水素酵素の耐圧性の違いは、進化の過程で起きています。遺伝子のある部位の変化によって、生息できる空間が変わるなどといった進化を引き起こしており、これら進化を引き起こす遺伝子部位は、もともと変化しやすくなっていると思われます。その変化しやすい遺伝子部位が何かの拍子に突然変化すると、発病すると西口博士は考えています。
〈論文タイトル〉
Characterization of Andriashevia natsushimae, a new species of eelpout (Pisces, Perciformes: Zoarcidae) from Sagami Bay,Japan,and its phylogenic status as inferred from 16S rRNA.
〈著者〉
Yoshikazu Nishiguchi, Souichirou Kubota, Tetsuya Miwa, Mitsumasa Okada

【お問い合わせ先】
東邦大学 経営企画部 広報担当   森上 需
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