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東洋医学研究室(大森)

所属教員名

田中 耕一郎 / 准教授
奈良 和彦  / 助 教

運営責任者

研究室概要

本学の東洋医学科は、総合診療部の一角として平成17年2月に開設されました。初代教授三浦於莵(2005年4月~2013年3月)、より、東洋医学研究室として独立後、田中耕一郎講師(2014年4月より)が診療部長として着任し、伝統を守りながら、それを深化させる努力を日々続けております。

研究の概要と展望

概要

伝統的な東洋医学の病態生理、生薬の効能は、経験上有用とされているが、現代医学の枠組の中では説明しがたい抽象的なものを多く含んでいる。そこで、本講座では科学的検証のフィルターを通し、現代医学的な“翻訳”を行い、現代医学で解釈可能なモデルの作成を行ってきている。本邦における東洋医学の位置は、現代医学の医師免許を有した医師が標準治療を行いながら、必要に応じて漢方薬を処方している。そのため、症例集積に際しても客観的な検査データなどの裏付けがあり、信憑性の高いものが多くある。
現在、漢方薬、そして東洋医学的な体系に対する科学的検証は、安全性の確保、適正使用の点からも、今後の発展にも不可欠な要素となってきている。(評価論文5,7)
  1. 漢方薬の科学的検証
    ①-1 漢方薬の糖脂質代謝・性ホルモンの分野における効果
     今までの研究において、六君子湯、防已黄耆湯、柴胡加竜骨牡蛎湯の消化管運動と糖、脂質代謝との関係を健常人に対して検討した。
     六君子湯は、伝統的には“消化機能を高め、倦怠感を取る。”とされており、栄養代謝に密接に係る可能性を考え、健常人に対して、試みたところ、GLP-1を介さない有意なインスリン増加と血中遊離脂肪酸の低下を認めた。(論文1)
     防己黄耆湯は、伝統的には“肥満女性の浮腫”に用いられてき、脂質代謝に関係することが考えられてきた。現在、腹部CTにおける内臓脂肪面積を減少させるという複数の報告はあるが、作用機序は研究途上であり、反応群、非反応群が存在することも課題であった。食後の糖酸化を呼気テスト上で測定したところ、健常男性には有意な変化がなく、健常女性のみ食後の糖酸化の遅延という有意な知見を得た。(国際学会一般発表:○Tanaka K,Uchino H,Irie Y,Nara K,Nishimura T,Serizawa K,Hirose T,Urita Y: The Japanese Herbal medicine Boiogito (Fang-Yi-Huang-Qi-Tang) Decelerates Postprandial Oxidation of Ingested Glucose in Women. 17th international congress of oriental medicine,Taipei, Taiwan, 2014. 11)
     柴胡加竜骨牡蛎湯は伝統的には“加齢と精神的ストレスによる性機能低下改善”にも用いられてきた。動物実験では、柴胡加竜骨牡蛎湯低下したテストステロンを正常化するという報告されている。糖尿病境界型でテストステロン低下を認める男性に用いて、性ホルモンと糖脂質代謝への変化を見る症例集積を行っている。

    ①-2 甘草に含まれるグリチルリチンのピロリ除菌への関与
     甘草に含まれるグリチルリチンはインドなどではピロリに対する殺菌作用の報告があり、除菌にも用いられている。一次除菌時、二次除菌の際の補助として用い、除菌率の向上が図れるか検討中している。

    ②症例報告から症例集積、RCTへのデータ集積と実践
     現代医学の各専門領域の専門医の協力のもと、奏功する漢方薬の使用目標をより客観化し、反応群を特定できるようなデータ蓄積と整理を行っている。
     不明熱の奏功例については、現時点で測定できる炎症マーカーなど血液検査データを測定している。(論文3)また、外科分野で膿瘍に用いられてきた漢方薬もあり、抗生剤のみで完治しない難治性の膿瘍などにも応用できるものがある。(論文4)
  2. 生薬の剤形における効率的な抽出方法の検討
     現在の製法では、分子量の小さいモノテルペンなどの揮発成分が回収できず,また熱処理で分解しやすい一部のアルカロイドなどの本来の生薬の薬効をエキス顆粒中に反映出来ないでいる。粉剤として、短時間での抽出方法を試み、成分分析と安全性の確認を行っている。(参考論文8)
  3. 各地域で用いられる生薬とその使用法・効能の調査と将来の生薬資源の確保
     現代の植物分類学は、リンネに始まり、形態からDNAに基づいた系統分類が行われいる。そのようにして分類された科は、それぞれ特徴的な代謝系を有している。そのため、同一の科の中には、類似薬効を有するグループがある。一方、東洋医学の生薬は薬効で分類されている。分類方法は違うものの、東洋医学の薬効分類を現代の植物分類学に照らし合わせると、多くの共通点がみられることが分かる。(論文6)多様な生薬の効能分類を、科の特性に応じて考察することで、植物界の持っている種々の代謝系の特徴を鳥瞰して、類縁種などから代用生薬候補も探すことができる。  同一の生薬や類縁生薬は、東アジアの伝統医学だけではなく、インドなど他の複数の伝統医学で使用されている。その使用目標には類似点と相違点がある。一つには、それぞれの地域の有する医学体系というフィルターの違いがある。他に、気候、植生の違いにより、同一成分の多少が生じ、他の有効成分を合わせもっている場合がある。(評価論文2)複数の伝統医学の体系、使用法を踏まえると、共通点はその生薬のもつ普遍的な薬効と関係しており、相違点は比較的緩徐な薬効と関係している。 生薬の使用状況を調査しながら、現在本邦では使用されていない地域からの生薬、またはその類縁種が生薬資源として使用できる可能性がある。(参考論文9)
  4. 土壌とアレルギーの機序についての解明
     東洋医学からの観点を加えて、アレルギー・免疫を別の角度から検討している。土壌と人体の免疫が深く相関することは、東洋医学では2000年前にすでに述べられてきた見識で、古来の叡智を、現代の医学に生かしていこうという試みである。 土壌及び土壌微生物との接触機会の減少がアレルギー疾患発症の原因であるとの仮説を立て、アレルギーモデルマウス(アトピー性皮膚炎モデル、気管支喘息モデル、食物アレルギーモデル)を使用し、土壌希釈液、土壌微生物画分(細菌画分、糸状菌画分)を投与し、それぞれのアレルギー発症抑制効果の検討を行う。
  5. 漢方における医学教育研究
     現在、東洋医学は医学部教育において必修化されているが、各大学とも、内容、評価法とも統一性がなく、習熟度の評価も十分ではない。そのために全国の医学部の東洋医学講義担当者間による話し合いの場として、日本漢方医学教育協議会が設けられ、卒前教育の基盤カリキュラムの統一など、講義内容については一定のガイドラインが出来つつある。そして、今後、評価法が課題となっている。当科では定期試験の中で識別率の高い問題をプールしていくこと、それを他大学とも共有して、一定の教育の評価法を形成する研究を進めていく。

展望

  1. 漢方薬の科学的検証
    ①-1 漢方薬の糖脂質代謝・性ホルモンの分野における効果
     今後、六君子湯については、糖尿病境界型の患者に対して対象数を増やして行い、消化管運動の変化が糖脂質代謝に与える影響を検討する。
    防己黄耆湯については、栄養代謝の中で、糖質から脂質への利用を高める可能性がある。また、女性のみに作用したことに関しては、閉経前、閉経後の女性を対象にすることで、女性ホルモンの関与を検討していきたい。
    漢方薬の反応群、非反応群を分けるものとして、腸内細菌叢の違いを視野にして、内服前後の腸内細菌叢の検索をもとに研究を進めていく。

    ①-2 甘草に含まれるグリチルリチンのピロリ除菌への関与
    症例が集積されてきており、結果の解析の段階である。

    ②症例報告から症例集積、RCTへのデータ集積と実践
     パイロットスタディで候補になる処方を集積している。
    不眠: 睡眠学会の専門家(山寺博史先生: 元杏林大学精神神経科学教室准教授、他数名)と不眠研究会を立ちあげて、東洋医学で使用される使用目標、病態の現代医学的解釈を進めている。
    咽喉頭異常感症: 臨床症例の中から、カルテマイニングにより、感度の高い所見を統計処理中である。
    将来的に症例集積からRCTを行う体制を作っていきたい。
  2. 生薬の剤形における効率的な抽出方法の検討
     東邦大学薬学部生薬学講座と協力しての共同の臨床研究を開始し、抽出法に関して2本の原著論文として掲載された。(参考論文182, 183)
  3. 各地域で用いられる生薬とその使用法・効能の調査と将来の生薬資源の確保
     桂皮は重要生薬の一つであるが、日本では中国南部とベトナム産を主に扱っている。
    他の中国の地域やミャンマーなど東南アジア諸国の種で研究されていないものが、依然として多く存在する。大規模な研究であるが、台湾の生薬の専門家と薬学部と共同で現地調査と生薬の成分と安全性の解析を行いながら、日本の局方で使用可能なものかを検討する。
     本学と交流関係のあるモンゴル国の生薬調査において、アコニチンを含むトリカブトの種が多く存在する。一方、本邦では、トリカブトを附子という生薬として塊根を用いている。生薬資源の将来的な確保から、地上部を生薬として使用しているモンゴル国での使用法と、成分分析による安全性の確保などの基礎的研究が必要となっている。トリカブトの類縁種の調査については、本学と交流関係のあるモンゴル国での生薬調査を開始し、本学医学部薬理学講座と共同で生薬採取の段階は終了し、成分分析と安全性の確認を開始予定である。
  4. 土壌とアレルギーの機序についての解明
     北里大学農学部名誉教授、陽捷行先生(現在: 公益財団法人農業環境健康研究所、副理事長)、東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命科学専攻、土壌圏科学研究室教授、妹尾啓史先生、東邦大学薬学部生薬学講座、小池一男教授などの協力を得てすでに構想から、研究開始に至っている。
  5. 漢方における医学教育研究
     東洋医学の評価についての研究には先行研究があり、それを踏まえながら、本学でおパイロットスタディとして、東洋医学講義の試験結果について多変量解析を行い、正答率と総合点から、評価の精度を上げる教育研究を行う。
     東洋医学は、臨床医学の各専門領域、学部間、大学間の境界を超えた大きな可能性を秘めた研究分野と多くの先生方との協力関係を築き、一つ一つ実行に移していきたい。そして、本学の建学精神である、自然・生命・人間について、現代の科学を用いて明らかにしていきたい。

代表論文

  1. (学)Tanaka K, Urita Y, Nara K, Miura O, Sugimoto M: Effects of the traditional Japanese medicine, Rikkunshito on postpondial glucose and lipid metabolism. Hepato-gastroenterology 58: 1112-1118, 2011 (IF:0. 792, CI:2)
  2. (総)Tanaka K, Miura O: The developmental integration between Phytotherapy and Oriental Medicine. Clinical and Functional Nutriology 5: 22-25, 2013
  3. (原)Tanaka K, Nara K, Nishimura T, Serizawa K, Urita Y, Miura O: Fever of unknown origin successfully treated by oren-gedoku-to (huanglian-jie-du-tang). Int J Gen Med. 6: 829-832, 2013 (IF:1. 88, CI:29)
  4. (原)田中耕一郎, 西村鉄也, 芹澤敬子, 吉田和裕, 奈良和彦, 植松海雲,板倉英俊,河野吉成,三浦於菟:膿瘍形成を伴う乳腺炎に加味逍遙散、腸癰湯が奏功した症例. 漢方研究494: 8-11,2013
  5. (総)Tanaka K: The scientific investigation may advance medicine,6,7, International Journal of Pharmacy and Pharmaceutical Science, 2014 (IF:0. 49, CI:0)
  6. (総)田中耕一郎, 三浦於菟;植物分類学より見た生薬についての考察⑭-aショウガ科. 漢方の臨床 61: 839-844,2014
  7. (総)田中耕一郎,日本东方医学的现剰余发添趋势. 中医药导报22: 1-3, 2016
  8. (原)Fueki T, Chiba K, Makino T, Matsuoka T, Satou T, Koike K, Tanaka K, Sumino M, Namiki T: Quick and easy preparation method for Kampo formula decoctions (part 4): IPCD method for rhubarb and aconite root. Traditional & Kampo Medicine 3: 170-173, 2016
  9. (総)田中耕一郎;ウコギ科トチバニンジン属の分布地域の特殊性と植物の進化における一考察. 漢方の臨床 63: 981-990, 2016
  10. (原)Fueki T, Chiba K, Makino T, Matsuoka T, Satou T, Koike K, Tanaka K, Sumino M, Namiki T: Quick and easy preparation method for Kampo formula decoctions (part 4): IPCD method for rhubarb and aconite root. Traditional & Kampo Medicine 3: 170-173, 2016

教育の概要

学部

  1. 医学部選択科目 東洋医学講義 26時限/年(前期13/後期13: 時限/年)
  2. 医学部2年生 東洋医学講義(基礎編) 6時限/年
  3. 医学部4年生 東洋医学講義(臨床篇) 6時限/年
概要
  1. 学部学生に対して
    医学部、薬学部の学生に対しては基礎理論、生薬学、臨床治療学について講義を担当している。現代医学で知見のある分野については、積極的に講義内容に盛り込み、その専門の基礎医学、薬学の研究者をお招きして講演して頂いている。
  2. 6年生および研修希望者に対して
    医学部6年生から毎年3名程度のローテートの希望があり、一か月程度の期間で基礎的な診断、治療について教育している。
  3. 研修医、レジデントに対して
    研修医、レジデントの中で、毎年数名ローテート希望がおり、1、2か月程度の期間で基礎的な診断、治療について教育している。
  4. 専門医取得希望者に対して
    東洋医学漢方専門医の取得のため、現時点で外部の医療機関より、数名の専攻生を受け入れ、外来陪席と講義での教育システムを設けている。3年で4名の専門医が生まれている。
  5. 医師・薬剤師に対して
    全国の医師、薬剤師に対して、創立以来実践東洋医学講座を実施しており、第12期となる年間90名程度の参加者が基礎から実践まで学べる講座として定着してきている。
    当科に3年以上在籍した医師については、全員が東洋医学漢方専門医または認定医を取得済である。
展望
  1. 学部学生に対して
    今後、東洋医学理論、診断、治療など全体像の年間教育計画を作り、東洋医学としては、本学の建学理念である「自然、生命、人間」に沿って、国内有数の学生教育施設として一層充実したものにしたい。東洋医学的な病態生理に関して、科学的検証に明らかになった知見を紹介しながら、将来、自然界の化学物質の複合的な作用への好奇心、探究心を喚起するような内容を含めたい。他大学からの第一線の研究者にも学生講義をお願いしていく。
  2. 6年生および研修希望者に対して
    本学のディプロマポリシーである「より良き臨床医」という教育目標に対して、東洋医学は医学知識の面でも独自の体系を有しており、臨床力の幅を広げ、患者の健康に総合的に貢献できる可能性がある。また、問診内容も現代医学と異なる角度から個々の患者の訴えをそのまま受け取りながら、診断していく過程があり、臨床実習では、実践能力や患者対応能力を深めるよう教育していきたい。
  3. 研修医、レジデントに対して
    積極的に学びたい意志をもつ医師を、入局先、所属医局の専門性に応じ、標準治療を前提としつつ、臨床の幅を広げるように教育していきたい。
  4. 専門医取得希望者に対して
    積極的に学びたい意志をもつ医師を外部からも受け入れて、陪席を通じて毎年2、3名の専門医取得者を出せる施設にしたい。
  5. 医師・薬剤師に対して
    すでに開始されている大田区医師会、大森赤十字病院での定期講演を通じて、他施設との関係を強化し、地域に貢献する東洋医学科を目指したい。実践東洋医学講座は基礎から実践まで学べる講座として、東邦大学が東洋医学の分野では第一線を走る教育機関としていきたい。

診療の概要

 他科の診断基準に当てはまらない症状、東洋医学的な治療またはその併用が有効である領域、また東洋医学的治療を望まれる方々に対して、東洋医学的診断治療を行い、病院全体に対する患者満足度の向上に努めている。同時に他科との良好な連携を築くことで質の高い医療の提供に努めている。
 当科の医局員、客員講師が全体として、現代医学の各分野の専門医を有する体制とすることで、患者様に対する安全性も担保し、現代医学も東洋医学も深めながら、診療の質の向上を図っている。現在、内科、精神科、産婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻科の専門医が在籍している。
 また、大橋病院の月曜日午後の外来を当科で担当している。

 展望 大森病院の他科に加え、地域の医療施設との連携を強化し、紹介数、総患者数の増加とともに、より専門的で質の高い治療を目指したい。
 午前は一般外来、午後は専門外来として、より特化した大学における漢方外来のモデルを構築したい。客員講師の先生方とも協力し、本学東洋医学科の特色を打ち出していきたい。

その他

著書

  1. 田中耕一郎(分担): 世界薬用植物百科事典,52-53p,104-131p,154-171p,182-195p,216-281p. 誠文堂新光社,東京, 2000
  2. 田中耕一郎(分担): ドイツ植物療法,362-407p. 産調出版,東京, 2012
  3. 田中耕一郎(分担): 地域包括診療・介護・医療現場のための新・統合医療学,24-28P,公益社団法人生命科学振興会 東京,2014
  4. 入江祥史、田中耕一郎(分担): 漢方処方 定石処方と次の一手,154-167p, 214-238p,中外医学社 東京, 2016

社会貢献

実践東洋医学講座(医師・薬剤師・鍼灸師)現在、第14期開催中
東邦大学市民公開講座
お問い合わせ先

東邦大学 医学部

〒143-8540
東京都大田区大森西 5-21-16
TEL:03-3762-4151