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麻酔科学講座(大森)

所属教員名

武田 吉正  / 教 授
里元 麻衣子 / 准教授
川瀬 宏和  / 講 師
サムナロバート/ 助 教
勝井真咲アン / 助 教
中込 尚子  / 助 教

運営責任者

講座の概要

東邦大学麻酔科学講座は、1965年(昭和40年)黒須吉夫先生が開講されました。その後、菊地博達先生が1990年(平成2年)第2代教授に、落合亮一先生が2003年(平成15年)第3代教授に就任され、2020年(令和2年)4月より武田吉正が第4代教授に就任しました。
麻酔科学の分野は最も基礎医学領域の知識を必要とする診療科の一つです。例えば手術中のモニターを見ながら患者の全身状態を最適化するには生理学の知識が必要です。エコーガイド下神経ブロックや中心静脈穿刺を安全確実に施行するには解剖学の知識が必要不可欠です。そしてグルコースの代謝や乳酸値の意味を考えるには生化学の知識が必要です。基礎医学があって初めて麻酔科学が成立します。麻酔科学分野は基礎医学の知識を用いて全身管理をおこなう臨床医学講座です。
全身管理という共通の目標の下、教室員はそれぞれの専門性を向上させています。すなわち、循環管理、呼吸管理、疼痛管理、小児の全身管理、周術期管理、産科麻酔管理、リスク管理、認知機能のそれぞれに専門性を持ったスペシャリストが知識と技術を持ち寄り患者の全身管理を行っています。

研究の概要

2020年より臨床研究に加え基礎研究を開始しています。臨床の現場で生じる疑問や問題点を解決することを目的に研究開発を行っています。

  1. 非侵襲的心拍出量測定
    肺動脈カテーテルを用いた心拍出量測定は侵襲性が高く、非侵襲的モニタリングに関心が集まっています。当教室では心電図と酸素飽和度モニターを用い非侵襲的に心拍出量を測定する方法(esCCO: estimated Continuous Cardiac Output、特許取得)を開発し臨床使用しています.2019年大学院生は2名がesCCOの精度評価 ,追随性評価,輸液応答性評価といった性能評価で学位を取得しています。

  2. 術後急性腎障害の検討
     急性腎障害(AKI)は急性期医療を提供している麻酔科にとって,予後を極めて悪化させる要因の一つであり,早期診断・早期治療が必要な病態です。手術のストレスはゼロにはできませんが、周術期の介入・術中の麻酔管理によりAKIの発生率に差が出る可能性があります。現在、術前術中の因子とAKIの発生について多変量解析を進めています。また、2019年に大学院生が過去10年間における麻酔科管理症例を対象に、術後腎代替療法(RRT:renal replacement therapy)導入症例における術後腎機能予後ならびに死亡率の検討を行いました。術後新規のRRT導入は高い術後死亡のリスク因子であり、術前腎機能障害の存在はRRT離脱困難のリスク因子であることを報告しています。

  3. 分娩時の循環動態評価
    分娩・出産時は母子が同時にリスクに曝されることがあります。しかし、侵襲的なモニターは不適切であり,従来,循環のモニターに関する検討は必ずしも十分に行われてきませんでした.esCCOを用いることで非侵襲的に心拍出量をモニターすることが可能となり,分娩時の循環動態評価を行い研究遂行中です。

  4. 術後せん妄の予測に関する研究
    医学の進歩により高齢者の手術が行われるようになってきました。しかしながら、手術を無事にのり切っても、術後せん妄という病態が生じると、術後の回復遅延や術後死亡率の上昇をもたらします。術後せん妄を手術前もしくは発症前に予測する取り組みを心臓血管外科との共同研究で行っています。

  5. 脊髄神経刺激療法に関する包括的疼痛評価に関する研究
    脊椎手術後疼痛症候群・複合性局所疼痛症候群(CRPS:complex regional pain syndrome)において脊髄神経刺激療法術後にリハビリテーション科・整形外科と連携し、患者の生活活動性の回復状況に関する研究を行っています。

  6. 周術期リスクマネジメントに関する研究
    手術中の体位によっては、下肢が循環不全に陥りコンパートメント症候群を発症することがまれにあります。手術に伴う合併症をゼロに近づけるため、レーザー2次元血流計を用いて低侵襲・連続的に血流を測定しています。
    術後合併症の65%が術前の慢性疾患が原因であると報告されています。そこで、周術期管理外来では慢性疾患の組み合わせによるリスクを分析し、患者の予後予測を行い、適切な術前介入を行うための基礎データを収集しています。

  7. 麻酔科術前外来における患者情報の入力自動化システムの開発
    手術前の患者さんに対し,事前に問診依頼をタブレット端末のモバイルアプリケーション上で実施し,クラウド上の構築システム上で,蓄積したデータに基づいた診察/診断を行います。従来の術前診察と比較し,外来での省力化,患者の個人情報集約精度の向上が図れ,医師の診察時間が削減されることを検討しています。この入力システムを用いることで,従来は文字情報としてのみ保存されている電子カルテの患者情報(既往歴,手術歴,麻酔歴など)をコード化することが可能となります。理想的な電子カルテシステムの開発を目標としています。

代表論文

  1. Terada T, Kessoku S, Suzuki A, Kurosawa A, Nakagomi S, Oiwa A, Arai M, Sakamoto N, Idemitsu W, Ochiai R: Comparison of the Pulse Wave Transit Time Method and an Arterial Pressure-Based Cardiac Output System for Measuring Cardiac Output Trends During Laparotomy Without Postural Change. Asian Journal of Anesthesiology 57 (3) :85 -92 , 2019
  2. Kogawa R, Ochiai R: Assessment of Postoperative Renal Dysfunction Requiring Prolonged Renal Replacement Therapy and the Associated Mortality Rate. Toho Journal of Medicine 5 (4) :173 -178 , 2019
  3. Sakamoto N, Terada T, Ochiai R:Prediction of fluid responsiveness by means of stroke volume variation measured by pulse wave transit time -based cardiac output monitoring. Toho Journal of Medicine 6(1) :41-47 , 2020
  4. Kawase H, Takeda Y, Mizoue R, Sato S, Fushimi M, Murai S, Morimatsu H:Extracellular Glutamate Concentration Increases Linearly in Proportion to Decreases in Residual Cerebral Blood Flow After the Loss of Membrane Potential in a Rat Model of Ischemia. J Neurosurg Anesthesiol. 2019 Dec 4. doi: 10.1097/ANA.0000000000000666. [Epub ahead of print]
  5. Satomoto M: Postoperative Cognitive Function Following General Anesthesia in Children. General Anesthesia Research 159-166. Springer Nature, Germany, 2019
  6. 中込尚子、藤原秀憲、里元麻衣子、落合亮一: 維持量のデクスメデトミジンでMotor-evoked Potential (MEP) の低下を認めた症例. 臨床麻酔 43 (8) :1129 -1130 , 2019
  7. 佐藤暢一: esCCO ~パルスオキシメトリー技術を用いた新たな非侵襲的心拍出量モニタリング~. 循環制御 40 (3) :209 -213 , 2019
  8. 武田吉正:重症病態での脳保護 ~主に脳循躙の管理~.臨床麻酔:43,1578-1582, 2019
  9. 武田吉正:心肺蘇生と脳保護.麻酔科学レビュー PP279-283 総合医学社 東京 2019

教育の概要

学部

M3で講義(12時間)、M4で臨床実習(3日間)が予定されています。2020年度はM5の臨床実習で麻酔科を選択可能です。M3の講義は大橋病院の小竹教授、佐倉病院の北村教授と大森病院麻酔科医師が分担して行います。M4の臨床実習は大森病院で行い、M5の選択臨床実習は大橋病院、佐倉病院、大森病院で行います。
麻酔科の講義は周術期管理、疼痛管理、集中治療と多岐にわたりますが、全身管理というキーワードでつながっています。

大学院

医師になり、初めて臨床を経験すると、数多くの気づきや疑問があります。その気づきを大切にすることがイノベーションの始まりです。若い医師の感性を伸ばし、世界中の人々の役に立つ治療法や治療装置を開発していきます。

診療の概要


  • 手術室
    年間10,000例以上の手術を第1手術室と第2手術室で行っています。
    第1手術室では主に全身麻酔下に手術が行われ、2019年度の麻酔科管理症例は約6,000例です。第1手術室にはハイブリッド手術室(2018年オープン)があり最先端の低侵襲手術(経カテーテル大動脈弁置換術等)が行われています。第2手術室(2015年オープン)では、局所麻酔下に手術が行われています。また、心臓カテーテル検査室や周産期手術室でも麻酔科管理下に手術が実施されることがあります。
  • ペインクリニック
    ペインクリニックでは、難治性の痛みに苦しんでいる方々を対象に、生活の質の向上を目指した痛みの治療を行なっています。
    日本ペインクリニック学会認定施設であり、専門医が在籍しています。他の科と連携し大学病院の特性を生かし、薬物治療、神経ブロック治療(年間約700件)、ニューロモジュレーション治療など、先端医療も積極的に提供しています。
    対象疾患は、三叉神経痛、慢性の術後痛、帯状疱疹後神経痛、脊椎疾患(椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症による痛み等)、糖尿病性神経障害、虚血による四肢の痛み、複合性局所疼痛症候群、がん性疼痛などです。
  • 周術期
    手術を受けるすべての患者に安心して手術を受けていただけるよう、2011年に「周術期センター」を開設しました。当麻酔科をはじめ、各専門外科系診療科や口腔外科、看護部、薬剤部、臨床工学部、中央手術部などのスタッフがひとつのチームとなり、手術前の準備から手術中の全身管理、手術後のフォローアップまできめ細かく行っています。
     手術前には術前外来で動画による麻酔の説明、口腔内チェック、服薬チェックを行い、医師の診察と看護師の面談を行います。術後は術後回診によるフォローアップだけでなく、APS(Acute pain service; 急性期鎮痛サービス)による疼痛管理を行っています。
    もともと麻酔科は手術中の麻酔管理や、手術前後の患者の全身状態の維持・管理に重点を置いた診療を行ってきましたが、周術期センターを中心として手術に携わるスタッフ全員と連携し、よりいっそう適切な評価のもと、安全に手術を行うことが可能となりました。周術期センターがあることで、手術を受ける患者一人ひとりが抱える、どんな小さなリスクも見逃さず、手術後に起こり得るリスクを未然に防ぐための準備が事前にしっかりできます。また、患者が困っていることや抱えている問題などをスタッフ全員で共有できるなど、リスク管理力が確実に向上しています。

その他

社会貢献

手術を中心とした急性期医療は、大学付属病院において根幹に関わる部分を占めています。近年では、手術症例の高齢化に伴い、慢性疾患を有する症例や診療報酬上「麻酔困難者」と呼ばれるハイリスク症例が増えてきています。このような背景の中、当科では安全な医療を提供するために様々な形でアプローチしています。


  1. 周術期管理チーム
    術前から術後にかけて、途切れることなく安全な医療を提供するために、多職種連携による診療を提供しています。
  2. 初期研修医、後期研修医への教育
    当院では「良き臨床医を育成する」を理念に、高度先進医療の研究・開発を推進することにより、患者に優しく安全で質の高い地域医療を提供しています。独自のプログラムで安全で質の高い教育を行うことで、「良き臨床医を育成」し、より安全な医療を提供しています。
  3. 国際支援事業
    新興国の医療支援は、厚生労働省、外務省、経済産業省など複数の省庁が継続的に、そして極めて強力に進めている事業です。我が国においても麻酔科医は充足しているわけではありませんが、新興国では致命的な状況にあります。これまで、当科では、ベトナム麻酔科学会と契約し国際医療センター(NCGM)事業を行なってきました。具体的には、毎月2名の麻酔科医を当病院に招聘し、最新の麻酔管理について再教育を行なっています。

学会活動

 質の高い医師の育成、先進的研究の推進と医療技術の創成、知識の啓発と普及、他領域との協同、国際的医療への寄与を目的として設立されている様々な学会に参加しています。日本麻酔科学会を中心として、様々な分野の学会に積極的に参加し、臨床や研究で得た学術的知見を、学術集会や論文などで国内外に幅広く発表しています。  当病院は日本麻酔科学会以外にも日本集中治療医学会、日本ペインクリニック学会、日本心臓血管麻酔学会の施設認定を受けており、専門医の育成を図っています。さらに、当科では、厚生労働省認定の麻酔科標榜医以外にも、各学会認定資格の積極的な取得に取り組んでいます。 現在、取得している認定資格は、麻酔科指導医、専門医、認定医、日本蘇生学会指導医、日本区域麻酔医認定医、認定試験(J-RACE)認定医、日本集中治療医学会専門医、日本呼吸療法医学会専門医、日本小児麻酔学会認定医、日本ペインクリニック学会専門医、日本老年麻酔学会認定医、日本心臓血管麻酔学会専門医、日本周術期食道新エコー(JB-POT)認定医、日本母体救命システム普及協議会(J-CIMELS)認定インストラクターです。

主催学会

これまで関東甲信越・東京支部合同学術集会、日本呼吸療法医学会学術集会、日本医療ガス学術集会などの学会を主催してきました。
お問い合わせ先

東邦大学 医学部

〒143-8540
東京都大田区大森西 5-21-16
TEL:03-3762-4151