自然科学同好会
2025年06月27日
本学の歴史は1925年の帝国女子医学専門学校設立に始まります。
創立初期の学校の様子は、残念ながら史料的制約などが大きく、不明な部分が多くあります。
特に生徒の生活に関する事柄は記録が残りづらいため、後世の人間がうかがい知ることが難しい側面となっています。
当時の生徒が何を求めて出来たばかりの学校に集い、何を思いながら日々を過ごしていたのかを知る事は重要な、しかし難しいテーマです。
冒頭に挙げた写真は1929年3月に発行された雑誌の表紙です。
四角く囲んだ表題部には、『自然科学同好会誌』の誌名と「創刊号」の文字、そしてその下に続けて、「帝国女子医学専門学校自然科学同好会」の発行である旨が掲げられています。
自然科学同好会とはどんな集まりだったのでしょう。
創刊号に掲載されている創立趣旨文を見ますと、自分たちが女性として、当時の慣習のもとで、家庭であれ学校であれ今まで「充分な科学的教育を享けて来たとは云ひ得ない」こと、一方で医学薬学という「最も科学的な方面」にこれから進もうとしていることを踏まえ、両者のギャップを埋めるために、「科学的雰囲気の醸成に努め」「自ら楽しんで科学する事を学ぶ」ことを目指して作られた会とのことです。
会則に盛り込まれた活動内容は、動、植、鉱物採集や図書の収集購入、講演会、医学・科学映画の上映見学、会報の発行など、盛沢山なものでした。
創刊号にはさっそく、第一回講演会の講演筆記として教員2名による講演の内容を記した記事、および前年12月に実施した第一回・第二回の植物採集の様子を報告する記事が掲載されています。
残念ながらこの同好会については、現時点ではこの創刊号以外、記録の残存をほとんど確認することができません。
1934年に解散したということが分かっていますが、それまでの間、実際にどのような活動を展開したのか等、詳細は不明です。
現在残されているのはこの1冊の雑誌だけなのですが、創立初期の学校に対する期待として、医師、薬剤師としての職業訓練に加えて、幅広く自然科学を学び、親しみたいという意向が、少なからぬ生徒たちにあったことをここから推測することができます。
幸いこうした意向が否定される環境ではなかったようで、創刊号の記事には、名誉会長となった校長額田晉先生による、「甚だ喜ばしい事」であるという賛同の言葉も記されています。
創刊号の巻頭を飾る創立趣旨文は、会の立ち上げにふさわしく、約2ページにわたる気合の入ったものですが、その中には、次のようにうたった箇所を見出すことができます。
「「女らしさ」と云ふ言葉の内に、非科学的—或る場合には無自覚、無思慮、退嬰感傷的と云ふ事まで抱含せしめて女性の向上を抑圧して来た我が国に於ては、「まこと」を思惟し、真理を主張すると云ふ事は、婦徳を汚すと云ふ一言を以て抹殺されて参りました。
然し、真理を真理として認める、と云ふ事は男性に於けると同様、我々女性にも当然許されなければなりません。」
女性が自然科学の世界に参加することが必ずしも容易ではなかった時代に書かれた、この静かな、しかし力強い旗揚げの言葉は、100年近くの時を経た現在でもなお、読む者の胸に鮮やかな印象を残してくれます。
《史料》
『校報』第9号、帝国女子医学薬学専門学校、1934年5月、p5。
投稿者:スタッフ
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