二つの『安価生活法』

東邦大学の学祖の一人である額田豊先生は、メディアで活躍した医師でもあります。
数多くの著作物を残していますが、中でも著名なのが『安価生活法』です。
第一次世界大戦下での物価高騰を背景に、生活難にあえぐ都市の中流家庭を相手取り、経済的に栄養を採る方法を指南したもので、雑誌連載の終了した翌々月には単行本化され、たちまちベストセラーとなったそうです。

資料室が所蔵している書籍『安価生活法』には複数の版があります。
そのうち最も早い時期のものが1915年7月25日刊行の第4版、その次が同年10月20日の第16版です。
3か月弱の間に12回も版を重ねているあたり、まさに「ベストセラー」というべき状況であったことがうかがわれます。
ちなみに二つの版はともに本文全424ページ、奥付の記載によれば定価も据え置き85銭のままとなっています。

それでは二つは全く同じ本なのかというと、そうではありません。
実は付録の口絵と図譜に差があります。

第4版では付録の口絵や図譜は本の末尾に収録されていたのですが、第16版では書籍の冒頭に移動しています。さらに第16版では第4版には無かった二つの口絵が付録に付け加わっています。
ひとつは「一家族の各人食物所用量図」というタイトルの絵で、家族の構成員ごとに必要な食物量の差を図解したものです。もうひとつは「労働者と非労働者の所用食量比較図」と題し、労働者と非労働者、つまり職種によって必要な食物量が異なることを図示しています。

この二つの口絵が果たして何版から加わったものなのかは不明なのですが、都市の中流家庭という書籍のターゲットをより明瞭にする狙いがあったのかもしれません。

『安価生活法』はさらに版を重ね続け、少なくとも1920年の第33版まで刊行されているそうです。
よく探してみると他にも何か変化が見つかるかもしれませんね。

写真は『安価生活法』とその仲間たちです。
上述のように『安価生活法』は何度も版を重ねているのですが、その一方で類似書も複数出版されてゆきました。
多くの人々の関心を惹いたことがここからもうかがわれます。



《参考文献》
炭山嘉伸『額田豊・晉の生涯 東邦大学のルーツをたどる』中央公論事業出版、2015年6月、p22~25。

投稿者:スタッフ

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