展示ウラ話—その2 『安價生活法』と額田豊

現在、習志野メディアセンターで出張展示「家庭科学研究所高等部と科学教育—東邦大学理学部の源流」を開催中です。出張展示のため、資料の展示はケース一台のみとなりますが、その中には今回の展示の鍵を握る興味深い資料を並べています。今日は展示中の資料から額田豊の著書『安價生活法』(1915年、政教社)と当時の時代背景についてご紹介します。

この本は、1914年12月から翌年5月にかけて雑誌『日本及日本人』で連載されていたシリーズを単行本化したもので、「一日十銭生活」というフレーズを掲げて中間層の食生活をより効率良いスタイルに変えることを目指した内容となっていました。

そもそも豊は1909年にドイツ留学から帰国して間もなく、胃潰瘍によって危篤に瀕していた夏目漱石を診察するという経験をしています。この一件が新聞で報道された後から、豊は衛生や食に関するテーマを中心として新聞や雑誌(『婦人画報』、『日本及日本人』、『料理の友』など)に登場する機会が増えていきました。

この本は、1922年までに33版を重ねるロングセラーとなり、さらにその間にはシリーズ本が何冊も出版されました。この時期は、ヨーロッパで勃発した第一次世界大戦の影響を受けて、日本では軍需品の輸出が増加し「大戦景気」に沸いていた一方で、物價の急騰にともなって生活難に直面する人々もまた増えていました。

また、第一次世界大戦後に日本は戦勝国となったことで、国際的な水準に合わせた生活のあり方が意識されるようになりました。1920年に文部省の外郭団体「生活改善同盟会」が発足し、衣食住や冠婚葬祭など社会儀礼に関して簡素化などの改善が呼びかけられた時期でもありました。

とりわけ、内科医であった豊は糖尿病に関心を寄せていたため、食と栄養をテーマにした記事を多く書いています。こうした分野における啓蒙は、主に当時の医師らによって担われており、豊もその多くの中の一人として位置づけられます。


※現在、習志野メディアセンターでは学外の方の入館をご遠慮いただいております。学外の方は以下のリンクより展示内容をご覧いただけます。

投稿者:スタッフ

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