理学部物理学科

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コラム 『ガリレオの部屋』

 このページには、物理学科の教員が主に高校生向けにいろいろなお話を載せることにしました。物理学科の教員がどんなことを考えているのか、物理学の魅力は何なのか、文章の裏側にあるそんなメッセージを受け取っていただけたら幸いです。

第4回  「アメンボ電子」その1

第4回 「アメンボ電子」その1-01

最近あまり見かけなくなりましたが、水たまりに浮かんですいすい動くアメンボという虫がいます。私はむかし、摂氏マイナス270度の液体ヘリウムの上をアメンボのように動きまわる電子の研究をしたことがあります。この研究の対象となったアメンボ電子の性質は非常に単純で、電磁気学と、初等量子力学が分かればかなりの部分が理解できます。そこでここでは、アメンボ電子を材料にして、この研究が、大学の講義とどう関係しているかをお話ししたいと思います。

第4回 「アメンボ電子」その1-02

アメンボ電子は容器に液体ヘリウムを入れておいて、上から電子をばらまいて作ります。図2のように、液面の上方にフィラメントを設置してこれに電流を流しますと、赤熱したフィラメントから光と一緒に電子が出てきます。これが電子の供給源です。フィラメントを出た電子は液体の方に向かって落ちてきます。これには、重力の影響もありますが、それは極僅かで、大部分はヘリウムと電子の間に働く電気的な引力のせいです。(ヘリウム原子は中性なのになぜ電子を引っ張ることができるかという疑問には大学の講義が答えてくれます。)

さて、電子が液体ヘリウムの表面に到着しました。この後、電子はどうなるでしょうか。電子とヘリウムの間には引力が働くと言いました。これから考えると、電子は、ヘリウムに引かれて液体の中に飛び込んでしまいそうに思われます。が、実はそうはなりません。電子とヘリウムは離れているときは引き合うのですが、近寄りすぎると相手を押し離そうとする性質があるのです。(どうしてそうなるのかは量子力学の講義の中で明らかにされます。) 電子は表面に近づくと押し上げられ、離れると引き戻され、結果として、表面から少し浮いていると予想されます。この時、電子が液面からどれくらいの高さにいるかを計算することができます。それには、電子とヘリウムとの間に働く力が電子の液面からの高さによってどう変わるかの知識が必要です。それは、電磁気学で勉強します。これが分かると、後は、量子力学の演習問題を解く程度の計算によって、電子がどんな風にヘリウム面上に捕らえられているかが分かります。計算の結果、電子は液体ヘリウムの表面から8nm(ナノメートル)程度浮いていることが分かりました。
アメンボ電子は液体の上を動き回ることができます。このように、1つの面に張りついて動く電子を二次元電子と言います。(二次元電子は固体の中にも作ることができます。固体中の二次元電子はコンピューターなどで大活躍をしています。)私の研究テーマは、アメンボ二次元電子が液面上を動く様子を調べることでした。特に、電子の間に働く、クーロン反発力が電子の運動に及ぼす影響に興味がありました。アメンボ電子の数が少ないうちは、電子は他の電子の影響をあまり受けずそれぞれ勝手に動いています。しかし、クーロン反発力は電子間距離の二乗に反比例しますから、電子の数が増えて混み合ってくると、その効果が強くなるはずです。そこで、反発力が強くなった時何が起こるかを実験で調べてみました。その結果、アメンボ電子が増えるに従って、動きが鈍くなってきてついには殆ど動かなくなってしまうことがわかりました。この現象は、次のように理解されました。
第4回 「アメンボ電子」その1-03

電子の密度が低いときは、電子間の距離が大きいので、電子はクーロン反発力をあまり感じることなく自由に動けます(図3左)。密度が濃くなると、電子は他の電子のそばを通らないように進路を変えますから動きが複雑になります(図3中)。さらに電子の密度が高くなると、お互いにできるだけ離れた配置をとろうとする結果、電子は動き回ることをやめて,図3右のような結晶になってしまいます。アメンボ電子が動かなくなったのはそのせいだったのです。電子の結晶が図のような正三角形の格子を組むことは実験でも明らかになっていますが、なぜ正三角形なのかは、電磁気学の勉強をするとある程度納得できます。

これでアメンボ電子の話はおしまいです。ついでに電子が液体の中に入ったらどうなるのかを考えてみたいのですが、長くなりましたので次回にしましょう。
(梶田晃示 名誉教授)

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