理学部物理学科

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コラム 『ガリレオの部屋』

 このページには、物理学科の教員が主に高校生向けにいろいろなお話を載せることにしました。物理学科の教員がどんなことを考えているのか、物理学の魅力は何なのか、文章の裏側にあるそんなメッセージを受け取っていただけたら幸いです。

第2回  「物の表面しか見ない」

 「物の表面しか見ない」という表現は物の上面(うわっつら)だけを見て、本質を見定めることができないというあまり良い表現ではありません。どのような場合でもそうと言い切れるでしょうか? 私たちが研究している表面物理学の立場からすると、「物の表面だけを見る」という工夫が結構必要になります。
写真は表面観察のための原子間力顕微鏡

 ここでは、特に固体に限って話を進めましょう。たとえば物の表面は片側にはずっと,原子的尺度で言えば, 無限近い数の原子が深さ方向に並んでいて、その反対側は何も無い真空に露出していることになります。そこで、固体内部( 例えば表面から数分の一ミクロンの深さの場所) とは原子の並び方が大きく異なっていることが当然予想され、観察、実証されています。
 では、この表面ごく近く(原子数個分の厚みの範囲)の原子の並び方がどのように決められてきたかを考えてみます。当然細かい物のことなので電子顕微鏡を思いうかべる人がいるでしょう。確かに、ここ20年位のうちでは電子顕微鏡によって非常に特殊な手法を使って固体の表面原子構造を観察できるようにはなってきましたが、それ以前にはできなかったことなのです。(写真は表面を研究するための装置、原子間力顕微鏡)

第2回「物の表面しか見ない」01

 電子顕微鏡で物を観察するには、試料を電子線が透過できるほど薄くする必要があります。普通の透過電子顕微鏡の試料はこのためさまざまな手法を使って以下の厚さにします. この試料に電子線をあてて、透過した電子によって顕微鏡像を作らせ観察します。というわけで電子線はその進行方向に数十個の原子が並んでいる固体中を進み、透過するわけですから、表面の数個の原子の並び方などシカトされてしまうわけです。ちょうど健康診断のX線撮影でうぶ毛やそばかすが写らないのに似ているかもしれません。つまり、物の表面だけでなく奥のほうまで見てしまうために、逆に表面が見えなくなってしまうのです。
 試料を削りに削って数原子分の厚さにできればよいのですが、これはバラバラ事件の結果しか期待できません。そこで次に期待できるのは、固体の数原子分の深さしか侵入せずに反射し再び真空中に戻ってくるような電子線を使う方法です。実際、200電子ボルト(1 電子ボルト(1eV);電子が 1 voltの電位差によって加速されたとき獲得するエネルギー) 程度のエネルギーの低い電子線は、固体の 2~3 個の原子の大きさの厚さ分しか透過することができないために大いに利用され、さまざまな固体の表面原子配列を明らかにしてきました。ところがいくら真空中とはいえ、固体表面にはさまざまな汚れがあります。ここでは空気分子が吸着しているものさえ “ 汚れ“ なのです。この汚れが電子が透過するのを妨げてしまったり、固体表面原子の配列を乱してしまったりするので、清浄な表面を得るにはとてつもなく低い圧力の真空状態を実現する必要があります。また、エネルギーの低い電子線はそれゆえに作り方、扱い方が難しいのです。

第2回「物の表面しか見ない」02

 そこでもっと取り扱いの易しい10~30 keV の電子線を使う方法を最後に紹介しておきましょう。固体の表面数原子分の厚さの中の原子配列を見たいのですから、それ以上の深さのところを見ないように工夫するのです。 10~30 keV のエネルギーの電子線は、例えば固体中で原子100個分進めるとします。この電子線を表面にすれすれの角度 θ で入射させます ( 図参照 )。固体中でもこの角度で進行し、深さdのところで反射することを考えると、電子は固体中をL=d /sinθ の2倍だけ進むことになります。2Lは原子100 個分の長さまでに制限されるので、角度 θ を3°位にすると、dはたかだか3個分程度の深さになり、これ以上のところは見えません。結局、表面近くの原子の並び方を観察することができることになります。この方法を低エネルギーの電子を使った方法 ( Low Energy Electron Diffraction : LEED ) にたいして、RHEED ( Reflection High Energy Electron Diffraction ) と呼んでいます。

(後藤哲二 名誉教授)

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