理学部情報科学科

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インターネットでの放送型通信 4

転送信頼性の確保

 放送型転送のもう1つの問題は、転送信頼性の確保です。転送信頼性というのは、送ったデータが相手に確実に届くか、という問題です。どの通信でも、途中でデータ(の一部)が無くなったり読めなくなったりすることがあります。インターネットの仕組では、途中でデータが無くなると、そのことを送り手に知らせて再送することにしています。この再送の仕組が、放送型転送では成り立たなくなるのです。

 その理由は簡単で、送信者も受信者も1人の1対1通信では、「データが着かなかったからもう一度送れ」と言うのは1人だけですが、放送型転送で受信者が100万人いれば仮に0.1%にうまく届かなかったとしても1000人になります。 1000人から「もう一度送れ」と言ってくると、その処理は大変になるわけです。この大勢から返答が返ってきて送信側が処理しきれなくなる現象をAck Implosionと呼ぶことがあります。受信者の数が100万なのか10億なのか、届かない確率が0.1%で済むのか1%なのかはいずれも環境に依存しており、あらかじめ決まっているわけではありません。できればどういう場合にも対応できる方法が望ましいわけです。
Ack Implosion(応答の爆発)
 多数の受信者に「確実に」データを届ける方法の研究は古く、いろいろな解決策が提案されてきましたが、いずれも帯に短し襷に長しという状況で、決定打はありません。最も簡単な解決策は、ネットワークのデータ落ちを少なくするとともに、少々のデータ落ちは無視する、というものです。前の節で議論した、十分太い土管を用意するというのは、データ落ちを少なくする効果があります。現在のインターネットでデータが届かない最大の原因は、ネットワークが混雑して土管に入りきらないほどのデータが流されるために、入りきらない分が途中でこぼれてしまうことにあります。他の原因、たとえば雑音があって信号が誤って伝わるなどは、光ファイバではかなり希な現象になっています。また、途中の機器の不調によってデータがなくなることもありますが、これもそう頻繁には起こらなくなっています。というわけで、土管の太さをいつも十分に確保できれば、データ落ちをかなり少なく出来ます。その上で、万が一データの一部が届かなくてもそのまま再生してしまえば、一瞬画面がちらつくかも知れないがそこそこ見られる、というシステムを作ることもできます。このアプローチの問題は、前の節でも触れたように、土管つまり通信回線を十分に太くしたり、特定の通信のために土管の一部を予約する仕組を入れることを考えると、そのためのコストがかなり大きくなることにあります。

 異なるアプローチとして、現状の延長線上の太さのままで、でもデータの欠落をある程度補ってやることによって、完全とは言わないまでもまあまあ欠落のないデータを届ける方法が考えられます。上に述べたように、「再送してください」というメッセージを送り返すことはAck Implosionを起こしてしまうので、返事を返さない方法を工夫するわけです。具体的な例としては、送り出す側で少し余分な情報(冗長符号と呼ばれることがあります)を付加し、受信側ではデータの一部が欠けて到着してもそれから元のデータを再現できるようにする、という方法が考えられます。これを誤り訂正符号を用いた転送(FEC, Forward Error Correction, 前方誤り訂正)と呼んでいます。
冗長符号による欠落データの回復(FEC)
 誤り訂正符号の原理や、それをネットワーク通信のデータ欠損の補填に使う方法については細かくなるので触れませんが、イメージとしてはこのようになります。たとえば同じデータを必ず2回送ることにして、どちらか一方でも受信できればOKということにします。データが転送中に失われる確率をα(たとえば1%=0.01)とすれば、2回とも失われて受け取れない確率はαの2乗(0.01%=0.0001)とはるかに少なくなります。2回繰り返して送るのでは1回の上が2回、3回、と飛び飛びにしか出来ませんから、もう少し工夫をした誤り訂正符号という技術を使って余分に送るデータを決めます。

 この前方誤り訂正の技術を用いると、再送の要求を受信側から送信側に送らなくてもデータの欠落をある程度補うことが出来ます。送信側であらかじめデータを余分に送ることによって、一部が失われてもそれを補うことが出来るからです。しかし、この方法にも欠点があります。第1の欠点は、ネットワークがどれだけデータを取りこぼすかによらず、送信側では一定量の余分データ(冗長符号)を追加しなければなりません。もしネットワークがそれほど混雑しておらずデータの取りこぼしが少ないと、余分に付けたデータは無駄だったということになります。つまりネットワークの混み具合が変化するのに関わらず、余分につけるデータ量は(簡単には)変えられないので、どうしても無駄につけることになる、という問題です。

 第2の欠点は逆の場合で、もし予想していたデータ紛失率より紛失がひどいと、それを見越して付けた冗長符号だけでは元のデータが復元できず、失われたままになってしまいます。上記の第1の欠点と考え併せると、もしネットワークの混雑状況が変化してデータの紛失率が変化すると、それに付いていくことが出来ないので、紛失率が想定値を下回ればそれだけ無駄な余分データを付けることになり、上回れば復元できないデータが増える、ということになります。別の見方をすると、紛失率を多めに見積もると無駄につける余分データが増えて土管を無駄遣いし、少なめに見積もると復元に失敗する可能性が増えてそれだけ絵が乱れる、ということです。

 このように、前方誤り訂正による損失データの回復は厄介な性質を持っているので現在は使われていませんが、幾つかの工夫をすることで実用性が生まれるものと考えています。具体的には、前方誤り訂正を行った上で、それで回復できなかった紛失を再転送で回復するような複合手法が考えられます。また、前方誤り訂正の適用法を工夫し、なるべくテレビ画面への影響が大きい部分を優先して回復する手法が考えられます。また、動画の圧縮技術との組合せを工夫して、データの部分紛失の影響がなるべく少なくなるように、また紛失場所による影響の大小があまり変わらなくなるなるようにする手法を考えることが出来ます。

 山内研究室ではこれら様々な工夫をした転送手法の研究を行っています。

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