理学部生命圏環境科学科

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火と人と植物と

 野原にしゃがみこんで一心不乱に作業をしている若者。。。「あやしい」ですか?じつは、生命圏環境科学科の卒業研究のひとコマです。この学生さんは、「火入れ」をした場所で発芽する植物の実生(ふたば)を探して目印をつける作業をしています。

 場所は茨城県常総市を流れる小貝川の川辺です。ここは、ほんの1ha程度の場所に絶滅危惧種が10種類以上生育する特別な場所なのです。どうしてこの場所が特別なのでしょう。その秘密は。。。

「火入れ」です。

 ここでは、地域にお住まいの方や茨城県立自然博物館のスタッフ、そして東邦大学の教員を含む研究者が連携し、毎年1月に、枯れたヨシやオギを焼く活動(「火入れ」とか「野焼き」と呼んでいます)を行っています。

 ヨシ原の火入れは、昔は日本中で行われるふつうの光景でした。ヨシやオギなどの植物は、屋根の材料に使ったり家畜の餌や敷き草にしたりする「萱」として、様々に活用されていました。冬に残された枯れ草を焼くことは、翌年の萱の生長をよくする意味や、周辺の水田での病害虫の発生を抑制する意味があったそうです。現在は、この地域でも萱は利用されていません。しかし、毎年大勢の人たちが参加し、火入れを行っています。動機は「絶滅危惧植物を残したい」「火入れの文化を残したい」「火入れが楽しい」など様々です。

 冒頭でご紹介した生命圏環境科学科のOさんの卒業研究では、火入れが絶滅危惧植物の一つ「チョウジソウ」の発芽を促進する効果があることが、次のように明らかになりました。火入れの時、植物の種子はすでに地面に落ちています。上で枯れ草が燃えても地面の温度はあまり上がりませんから、火入れによって種子が焼け死ぬことはまずありません。重要なのは、火入れの後の「春の温度」です。Oさんの測定によると、火入れをせずに枯れ草が残っている場所では、昼と夜の温度があまり変わらないのに対し、火入れをした場所では、春の温度差がとても大きくなることがわかりました。枯れ草があると、夜は草が「掛け布団」になって保温され、昼間は直射日光がさえぎられるのに対し、火入れをすると、夜の放射冷却や昼の直射日光による加温の効果で較差が大きくなるのです。

 このような春の温度条件は植物にどのような影響を与えるのでしょうか。Oさんは、インキュベーター(温度を厳密に調整できる実験装置)で様々な温度条件をつくり、チョウジソウの種子の発芽に必要な条件を調べてみました。すると、「夜は8度、昼は25度」のように、最高温度と最低温度の差が大きくならないと発芽しないということがわかりました。火入れがつくる「昼に暑く/夜に寒い」条件は、チョウジソウの発芽にぴったりの条件というわけです。

 火は、人類が手にしたもっとも古くもっとも強力な道具であるといわれます。人類の長い歴史の中で続けられてきた営み-伝統文化-には、「生物多様性の保全」にとって重要な役割をもつものがいろいろありそうです。一方、煙や火の粉はリスクの原因でもあるので、継続的な実施には地域での合意形成が重要です。豊かな自然と文化を後世に引き継ぐためには、どんなデータが、またどんな社会システムが必要だろうか。。。文理融合・問題解決型の科学を目指す生命圏環境科学科の学生と教員は、そんな議論をしながら研究を進めています。

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