理学部生命圏環境科学科

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“きれいなみず”ってどんな水? 「富栄養湖」はきたないの?

「きれい」の捉え方・・・?

突然ですが、質問です。

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Q1: 次のうち、どれがきれいな水だと思いますか?
a. ジュース
b. 工場排水
c. 雨水
d. 水道水
e. 印旛沼の水
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ひとつを選ぶのは難しいでしょうか?

答えは...
A1:どれも正解、もしくはどれも正解ではありません。

 「きれい」の捉え方が人それぞれ異なるため、どれも間違っているとはいえません。皆さんは何に基づいて「水がきれいか、きたないか?」判断しましたか?

 講義で質問しても、意見が分かれます。上記のきれいな水についての質問を、3年生を対象とした講義(保全生態学II)で80名の学生に質問したところ、次のような意見分布になりました。

(a)ジュースを選ぶ学生は、「飲めるから、美味しいから」と言います。
(c)雨水や(d)水道水を選ぶ学生は「不純物が少なそう」「ピュアな水に近い」といった理由を挙げます。
(e)印旛沼の水を選んだ学生は「生き物がいるから」と言います。
(b)工場排水を選んだ学生はいませんでしたが、「処理されているから」という理由を挙げた学生は以前いました。

 人間の視点から見ると、飲む上では成分が分析されている、もしくは安全性の検査が行われている(d)水道水や(a)ジュースが選ばれるのではないでしょうか。
 一方、生き物の視点で見れば、(e)印旛沼の水、が一番すみやすい水といえます。ジュース(a)や水道水(d)ではミジンコや魚は飼えません。水道水は塩素が含まれるため、カルキ抜きをしないと、ミジンコは1日でもすぐに死んでしまいます。

 湖も同様の事がいえます。どんな湖が「きれい」といれるのでしょうか?ある湖を「きれい」にしたい、という時に、どういう状態にしたい、と言っているのでしょうか?「きれいな湖」と一言で言っても、透明な湖なのか、鳥や魚が豊かなのか、飲み水に適した湖なのか、いろんな意味を含むものだと言えるでしょう。

湖沼における「きれいさ」を考える

 現在、湖の「きれいさ」の指標には水質が用いられています。水質にも透明度やリン濃度など色々な指標がありますが、湖の水質ランキングを決める際には、有機物濃度の指標となる化学的酸素要求量(COD, Chemical Oxygen Demand)が用いられます。有機物量が多い水ほど、それを分解するのに必要な酸素量が必要になる、という数値です。つまり、水質ランキング上では、COD値が高いほど水質が悪い、と見なされています。

では、CODに関連して、質問です。
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Q2:「きれいな水」の質問のうち、CODの値が最も高い水はどれだと思いますか?
a. ジュース
b. 工場排水
c. 雨水
d. 水道水
e. 印旛沼の水
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A2: 答えは(a)ジュースです。

 スポーツドリンクで40.000mg/Lを超える値になります。日本で最もCOD値の高い水質ワースト1の印旛沼でもCOD値は11mg/L(平成24年度年間平均値)です。CODの環境基準値は5mg/Lなので、工場排水(b)や(d)はそれ以下に抑えるよう処理されています。


 では、水質ワースト1の印旛沼は「きたない湖」と言い切れるのでしょうか。湖のCOD値が高いのは、主に有機物である植物プランクトンが多いからです。植物プランクトンは湖の基礎生産者であり、動物プランクトンや魚などの餌になります。また光合成によって酸素を生産します。湖の生態系の基盤となる生物です。

 湖で植物プランクトンが増える主な原因は、人間生活や農業等から出される窒素やリンなどの栄養塩類が湖に入ってくるためです。印旛沼や手賀沼など千葉県の湖沼は主に人口が増え始めた1960年代から1970年代の間に急速に富栄養化が進行しました。栄養塩類が湖に流入し植物プランクトンが多くなる事は富栄養化とよばれます。富栄養化は自然の湖沼ではどこでも起こる事なのですが、人間の影響で栄養塩類が過剰に流入し、急速に富栄養化が進む事が問題になります。

富栄養化自体ではなく、“急速な”富栄養化が問題? ~アオコを例に~

 過剰な栄養塩類の流入は、時として植物プランクトンの中でもラン藻類の増加を招き、アオコ現象を引き起こします。アオコ(青粉)とは、ラン細菌(ラン藻)が増加し、湖面が真っ青になる現象を言います。印旛沼では、現在でも夏場にアオコ現象は見られます。
2014.7.31 北印旛沼にて撮影 (4年生 藤信ひかる)

 「アオコは酸素をたくさん発生するのに何が問題なのですか?」と高校生に聞かれた事があります。主に以下の4点がアオコの問題として挙げられるでしょう。

1) 遮光
 アオコの原因となるラン藻類のMicrocystisやAnabaenaはゼラチン膜で細胞が囲まれていたり、ガス胞をもっているため、浮きやすい特性があります。そのため、湖面に分布し、アオコ現象となります。このことにより、水中に光が届かなくなり、日中でも水中の水草や植物プランクトンは光合成が出来なくなります。水中の酸素が不足する状態(貧酸素状態)に至る事もあります。

2) 夜間の呼吸による酸素消費
 植物プランクトンも呼吸します。夜間は光合成が行われないため、呼吸によって酸素が消費されます。そのため酸素が枯渇し、魚が死ぬこともあります。

3) 有機物分解に伴う酸素消費と底泥からのリンの溶出
 過剰に増えた植物プランクトンは動物に食べられずに湖底に沈みます。その植物プランクトン(有機物)をバクテリアなどの微生物が分解する際に酸素が消費されます。湖底の酸素が消費され完全になくなってしまうと、底泥に眠っていたリンが溶出します(酸素がある状態では化学的に鉄と結合しているが、酸素がなくなるとリン酸イオンの状態で水中に溶け出ます)。この状態が起こってしまうと、富栄養化はさらに加速し、負の連鎖が起こり、止められない状態になってしまうのです。

4) アオコ毒
 アオコの原因となるラン細菌の中には毒をもつ種類がいます。MicrocystisやAnabaenaはミクロキスチンという毒を作り、ミジンコや魚は食べる事で死に至る事もあります。肝臓毒活性を示すため、飲料水の安全上は問題視されています。

 アオコ現象だけでなく、海洋で発生する赤潮など特定の植物プランクトンの増加が招く現象は、全て上記の問題が絡んでくるといえるでしょう。

リンの問題とは・・・

 湖の富栄養化を引き起こすのは栄養塩のなかでも主にリンだと言われてきました。リンはDNAやATP、細胞膜の重要な構成元素で人間が生きていく上では欠かせません。富栄養化問題ではリンを減らそうと様々な対策がされてきました。しかし、実はここ数年の間でリンの枯渇が世界的な問題になっています。

 リンは窒素や炭素とは異なり、空気中には存在しません。リンはリン鉱石の存在する鉱床から採取されますが、我々が利用した後に湖や川を経て海に流れれば、海底に沈むのみで、回収はほぼ不可能です(長い歴史の中で海底が再び隆起して陸地になるとようやく利用できる形になりますが・・・)。リン鉱石鉱床が大規模に存在するのはアメリカやモロッコ、中国など限られた国のみで、輸出していた中国やアメリカはリンの輸出を抑えるような状況にあります。実際、リンの価格は2008年に5倍以上上昇しました。富栄養問題の解決のためにリンを流すのではなく、今後は富栄養湖が貴重なリン資源ともなりえるのです。

「利き水」をやってみた

 先日、講義で「利き水」をやりました。5種類の水を名前を隠して飲んでもらい、美味しいと思った水を選んでもらいました。

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Q3 利き水をした5種類の水(a~e)のうち、一番美味しいと思ったのはどれですか?
(利き水をしている時点では品名はわからないようになっています)

a. Evian (フランス,エビアン 硬度304mg/L)
b. 大学の水道水(千葉県船橋市)
c. 財宝(鹿児島県垂水市 硬度4mg/L)
d. Contrex(フランス,コントレックスヴィル 硬度1468mg/L)
e. 森の水だより(山梨県白州町 硬度33.1mg/L)
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結果は、以下のようになりました。これはあくまで好みの問題ですね・・・

ちなみに、5種類の水の名前を全て当てたのは60名中2名だけでした(一流大学生に格付けですね??)

 きれいな水、おいしい水、きれいな湖。一言では言い切れない、色々な意味をもっていること、共感していただけたでしょうか?


みなさんはどんな水や湖を次世代に残していきたいですか?

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