理学部生命圏環境科学科

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「愛知ターゲット」を知っていますか?

2020年。この年号から何を思い浮かべますか?「東京オリンピック!」という方が多いかもしれません。でもそれだけではありません。2020年は、人間が将来にわたって様々な生き物とともに暮らしていくために定めた「愛知ターゲット」の達成を目指す、約束の年なのです。

生物多様性条約

 人間が豊かな暮らしを送るためには、さまざまな生き物による支えが必要です。「生き物には興味ないなあ・・」という人も、たとえば、きょう食べた野菜や果物がどうやって育ったか考えてみましょう。土壌をつくる微生物、害虫の大発生を防ぐ天敵、花粉を運ぶ昆虫、と、様々な生き物がつくりだす生態系に支えられています。食べ物だけではありません。水や空気をきれいにする働きのように、とても大きな規模での機能も担っています。生物が減少したり種類が減ったりして、生態系の状態が変化すると、人間は大きなコストをかけてその働きを補わなければならなくなります。同時に、大きな健康被害や経済損失、あるいは紛争のリスクも高まります。

 残念なことに、いま、地球上の生物多様性は急速に失われています。それは砂漠の拡大のような大規模な問題から、身近な生物種の減少まで、様々なレベルに及びます。たとえば「秋の七草」のすべてを野原でみたことがある方は少ないのではいでしょうか。それもそのはず、環境省のレッドリスト(現状が続けば日本から絶滅する危険性がある植物のリスト)にはキキョウとフジバカマが、千葉県版のレッドリストにはオミナエシが掲載されています。秋を彩る「身近な植物」だったはずの七草が、「四草」ではさびしいですね。人の心を豊かにし、文化を形作ることも、生き物がもたらしてくれる恩恵の一つですが、それが失われつつあるわけです。
千葉県内に辛うじて残るオミナエシの咲く草原
千葉県内に辛うじて残るオミナエシの咲く草原

 人間が物心ともに豊かな生活を持続するために、地球上の生き物の喪失をストップさせようという目的でつくられた国際条約が「生物多様性条約」です。この条約は地球温暖化防止で知られる「気候変動枠組条約」と同時に、1992年に採択されました。現在では、日本を含む193の国と地域が締結しています。生物多様性条約は①生物多様性の保全、②生物多様性の構成要素の持続可能な利用、③遺伝資源の利用から生じる利益の公正・衡平な配分、を目的としています。「生物多様性」という言葉は、生物の種類の多さ、同種の生物の個体間にみられる遺伝子の違いの大きさ、地域ごとの生態系の個性の豊かさという、「いま地球上から失われつつあり、これから取り戻したいもの」を一言で表すために造られた言葉です。

愛知ターゲット

 生物多様性条約(CBD)に加わっている国は、定期的に会合(COP)を開いています。記念すべき第10回の会合(CBD/COP10と呼ばれます)は、2012年に愛知県名古屋市で開かれました。そこで締約国共通の行動目標として採択されたのが、「愛知ターゲット(愛知目標)」です。実は、愛知ターゲットが定められる以前に、「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という内容を主とする国際目標(「2010年目標」と呼ばれます)が存在しました。しかし、その目標は「達成できなかった」という判断が下されていました。愛知ターゲットはその反省を活かし、より具体的な目標を各国に課し、明確な行動を求めるものになっています。

 愛知ターゲットは戦略目標と呼ばれる20個の具体的な目標から構成されています。代表的なものとして、「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値を、国と地方の開発及び貧困削減のための戦略や計画プロセスに統合し、国家勘定や報告制度に組み込む」(目標2)といった政策・制度に関わるものや、「2020年までに、侵略的外来種の対策の優先順位付けをし、優先度の高い種を制御または根絶する」(目標9)、「2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、沿岸域及び海域の10%を、保護地域システムなどを通して保全する」(目標11)といった具体的な保全対策に関するもの、「2020年までに、劣化した生態系の少なくとも15%以上を回復させ、気候変動の緩和と適応及び砂漠化対処の貢献する」(目標15)といった自然の再生に関わるものなどが挙げられます。

 2020年はもう目の前です。この目標に向け、私たち研究者もいくつかの活動を進めています。たとえば私の研究室では、過去にさまざまな論文や報告書に発表された湖の植物相(湖に生育していた水草の名前のリスト)の情報を統合し、全国各地の湖における変化のパターンと原因を分析し、保全上の重要性が高い湖を見出すとともに、劣化した湖については効果的な回復の方針の解明を目指す研究を進めています。
関東地方の湖における水草の種数変化の例
関東地方の湖における水草の種数変化の例

私たちにできること

 愛知ターゲットを達成し、将来の世代に生き物の豊かな自然を残していくためには、さまざまな視点や立場からの努力が必要です。まずは生物多様性の現状を知ることが第一でしょう。私は学生に「お勧めの本は何ですか?」と聞かれるたびに、「とりあえず図鑑」と答えています。身近な生き物を見分け、それぞれの存在に固有の歴史を感じられるようになることは、生物の変化の実態とその重みを理解する上で、大切なステップだと思うからです。

 また、生物多様性や愛知ターゲットについては、書籍やウェブページから得られる情報も充実してきています。下にURLを乗せた環境省の生物多様性センターのウェブページでは、これらのテーマの標準的な説明を読むことができます。

 さまざまな保全活動に参加することは、実際に役に立ちつつ勉強をする良い機会になると思います。国際自然保護連合日本員会(IUCN-J)が推進する「にじゅうまるプロジェクト」は、愛知ターゲットの達成に向けて活動する人々や団体を結びつける活動で、150を超える団体、200を超える事業が登録されています(ちなみに東邦大学保全生態学研究室も登録されています)。私もささやかながら、オフィスのドアを「保全生態学情報掲示板」として、保全に関わる活動やシンポジウム等の案内を掲示することにしました。絶滅危惧生物の保全や、外来種の駆除管理など、具体的な活動や議論に参加したい方、どうぞ理学部V号館5518のドアを見に来てください。「中の人」がいたら遠慮なく声をかけてくださいね。

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