理学部教養科

メニュー

映画へのいざない
『ゴジラ』(1954)と『シン・ゴジラ』(2016)

英語教室 三輪恭子
『ゴジラ』(1954年)と『シン・ゴジラ』(2016年)

 まずゴジラシリーズの第一作、1954年版について。これが戦後10年経たない内に作られたとは、復興のめざましさを感じずにはいられません。特撮技術も現在とは比べものにならないとはいえ、ゴジラは十分恐ろしく見えます。モノクロでこれだけ怖いなんて!(モノクロだからかな) 有名な首都破壊のシーンでは、着ぐるみの中の人間性を若干感じる瞬間もありましたが・・・その程度。2年後の北米公開時も特撮が大絶賛されたそうです。
 本作品で製作陣は、水爆実験から突然変異を起こしたとされるゴジラの姿に、核への抗議というメッセージを込めています。1954年当時とは広島・長崎の原爆投下の傷が生々しい頃。公開の8か月前には、第五福丸(ビキニ環礁水爆実験により射性降下物を浴びたマグロ漁船)の事件がありました。核だけではなく監督・特撮担当の円谷英二は、焼けつくされる東京都下で逃げ惑う人々の姿に東京大空襲を投影しようとしたといいます。
 『ゴジラ』は戦争体験を転化し、一つのエンタテインメントに結実させた作品と言えるのですが、その他にもマッド・サイエンティストのキャラクターや、男女の三角関係といった要素も含まれ、色々な角度から楽しむことができます。伊福部昭の有名すぎるあのテーマ曲もまた、いい。
 最新作の『シン・ゴジラ』は、『エヴァンゲリオン』の庵野秀明を監督に迎えた作品です。観終えての私の感想は、この作品は、過去のゴジラ作品と監督自身の過去の作品への言及から構成されているということ。出現したゴジラを制圧するという基本的なストーリーラインは押さえながら、紛糾する内閣官房、微妙な日米関係、科学者の残した謎の解明、「除染」という言葉が目新しくなくなったポスト3・11の時代といった数々の要素を、過剰と思われるまでに投入してきます。そしてナルシシズムとの境目スレスレで流す『エヴァ』の音楽。詰め込まれた情報の多さのため、「メッセージ性がよくわからないが、特撮はすごかった」という結論になってしまいました。これだけ色々出しておきながら、進みすぎた科学(原子力も含め)への警鐘だの、政府の脆弱さへの批判だのという主張はさほど強烈に感じられないのです。
 たぶん庵野作品に対する一つのとらえ方とは、こういう物なのだと思います。これでもかとばかりに材料をぶち込んで、観客を楽しませ、攪乱する。「皆さんお好きに楽しんでいただければ」というのが監督のメッセージであるような気がします(エヴァと同じで)。
法学筋からは「緊急事態法制の面からは問題だらけ」*、薬学筋からは「血液凝固剤を経口投与しても・・・」という突っ込みが聞かれました。皆さん、それぞれの専門的見地からこの映画を観ると、また別の楽しみが得られるかもしれません。
 細かい話はさておき、シン・ゴジラの破壊っぷりと、人間たちの抵抗(特に東京駅周辺)、CGは一見の価値ありです。これが、庵野監督が一番したかったことなんだろうなあという清々しさを感じました。


*部分については、元東邦大学教授(法学)の長利一先生からコメントをお寄せいただきました。以下、ご意見の抜粋を紹介します。

1. 監督は素人の割によく調べたとは思いますが、緊急事態法制の面からは問題だらけです。憲法9条2項(戦力不保持)からは自衛隊の違憲性問題自体を最高裁がいまだに判断していないので——まして軍事力は国防(自国防衛)以外には使ってならないのが大原則。ドイツ憲法でも国内での、例えば、災害救助等——武力を携えた出動は許されていない。外国との戦争でのに、たとえゴジラ相手でも自衛隊法上軍事力を用いるなら、それは「 超法規(超憲法)的緊急権」になりますから濫用の恐れが極めて強くなります。映画の中では、はっきりと「超法規的措置」という言葉を使っていましたから、たとえ「娯楽映画」にせよ憲法上、また政治上大問題でしょう。殊に、映画は政府部内の、政治家や官僚の動きのみを描き、国会や国民市民の民主主義的動向の面を全く描かないので不見識だと思われます。
 
2. 映画のなかでは、国連安保理の決議に基づき「多国籍軍」が核兵器を使うかもしれないので「超法規的措置」はやむを得ないという理屈になっていましたが。これも大問題。
「多国籍軍」は国連憲章上根拠がないので、2004年のイラク戦争の時には「有志連合」にならざるを得なかったという事情と、その「有志連合」は 国連安保理の決議に基づくものではなかったということです。何れにしましても、国連憲章上認められている例外的な武力行使は51条(自衛権行使)のみで、「国連軍」(41条)は、主権国家同士のいわゆる戦争のために武力ではなく「制裁」のためのものなので(国連軍はこれまで一度も編成されたことはない)、「多国籍軍」も「有志連合」も国連憲章上根拠がない(因みにPKOも国際慣行上のもので国連憲章上のものではない)。
 映画の中では長ったらしい法律の名前がごちゃごちゃ出てくるのですが、憲法や国連憲章という最も大事な根本法規の名前が一度も出てこないのはとても不思議です。とはいえ、娯楽映画のなかで「緊急事態」とか「超法規」という言葉が飛び出てくるような時代になったというのは感慨深いです。9・11、グローバルテロの頻発や3 ・11原発事故以後急速に社会の前面に出てくるようになりました。

長 利一

お問い合わせ先

東邦大学 理学部

〒274-8510
千葉県船橋市三山2-2-1
習志野学事部

【入試広報課】
TEL:047-472-0666

【学事課(教務)】
TEL:047-472-7208

【キャリアセンター(就職)】
TEL:047-472-1823

【学部長室】
TEL:047-472-7110

お問い合わせフォーム