フェロセンの性質
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[図2] フェロセンの粉末(顕微鏡写真)
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[図3] フェロセンの反応例(アセチル化)
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[図4] フェロセン誘導体を合成中
フェロセンの大事な性質として、”酸化還元活性”がある。フェロセンを酸化すると電子を放出して+1価のカチオンになり、還元すると電子を受け取って元の中性状態に戻る性質である[図5]。つまりこの分子は”電子のいれもの”として振舞うのである。さらに面白いことに、カチオン状態では分子がスピンを持つようになり、これがこの分子を際立たせてユニークな存在にしている。このカチオンをアニオンと組み合わせるとイオン性結晶(電荷移動錯体)が得られる。[図6]に[デカメチルフェロセン]+[TCNE]-錯体の結晶中での構造を示した。なおデカメチルフェロセンは、フェロセンの水素原子をすべてメチル基に置き換えた分子のことである。これはアメリカのJ.S.Millerによって合成され、4.8 Kで磁石(強磁性体)になることが明らかにされた有名な物質である(1986年)。以来フェロセンを用いた物質開発が盛んに行われ、基礎科学的な観点から興味が持たれてきた。
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[図5] フェロセンの酸化還元過程
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[図6] [デカメチルフェロセン]+[TCNE]-の結晶構造