理学部化学科

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私たちの最近の研究から

 これまで数多くの種類のクラウンエーテルが世界中の研究者によって合成されてきました。私たちはクラウンエーテル分子の酸素原子をイオウと窒素原子に置きかえた化合物1を作ろうと試みました。その合成方法はアメリカ化学会のJournal of Organic Chemistryという有機化学の論文誌に報告されていたので、その方法に従って合成を行いました。
窒素と硫黄原子を含むクラウンエーテルの合成法
 目的物質を分離、精製してその構造をプロトンの核磁気共鳴スペクトルで確認したところ、シグナルが予想していたものよりも多かったので不思議に思い、質量スペクトルで分子量を確認したところ、目的物質のちょうど二倍の大きさの分子2も混じっていることがわかりました。化合物の純度を薄層クロマトグラフィーで確認してもスポットが一つしか見えなかったので純度が高いと思っていたのです。

 そこで卒業研究を行っていた学生はいろいろな方法でこの混合物から2だけを分離しようと試みました。20回以上再結晶を繰り返してようやく混合物から少量の2を分離することに成功しました。しかしながら、多くの時間がかかり分離できる量もごくわずかなこの方法では十分な量の2を得ることができません。

 ちょうど困っている時期に韓国から博士課程の学生が私たちの研究室に留学してきたので彼にこの研究を続けてもらいました。
改良した窒素と硫黄原子を含むクラウンエーテルの合成法
 彼は分離に使うシリカゲルなどに対して吸着性が強い窒素原子上に保護基(ここではBoc(tert-ブチルオキシカルボニルの略)とあらわされている)を導入することによって吸着性を弱め、分離をし易くするという方法を提案しました。その方法で反応をおこなってみると容易に34を分離することが出来ました。これらを分離した後に保護基を除去することによって効率的に12を得ることができるようになり、その後の研究が飛躍的に進みました。


 化合物2に芳香環を導入して5aを合成し銀イオンと錯体をつくらせると2個の銀イオンが同時に一つの環に捕まえることができることがその後の研究でわかりました。
側鎖をもつクラウンエーテルの合成
そのX線結晶構造を示します。
2原子の銀イオンを取り込んだクラウンエーテル
この構造は2006年5月14日発行のイギリスの王立化学会から刊行されているDalton Transactionsという論文誌の表紙を飾ることとなりました(下図)。環の中の二つの銀イオンを、韓国の旗の太極円と日本の旗の日の丸をイメージして表し、日本と韓国の共同研究の成果であることを示しています。この表紙は韓国ではいくつかのメディアによって取り上げられたそうです。

[幅田揚一:有機化学第一教室]
Dalton Transactionsの表紙を飾った錯体

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