理学部化学科

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40数年間の研究結果から

火山性酸性泉の初期の温泉である大沸泉中のCl,SO42-等の経年変動を図5に示します。マグマ発散物由来のCl,SO42-の経年濃度変化は,1960年代には両成分ともに大きな変化は認められませんでした。ところが70年代にはSO42-が一時期約3倍にまで増加し,その後減少して1990年頃には元の濃度に戻りました。温泉中に含まれるSO42-は,下に示したようにS,H2S,  SO2 等からの自己酸化還元反応によって,生成すると考えられます.1970年代のSO42-濃度の変化は,この過程に何らかの変化が起きたことを示唆しています。(反応式の⇔は平衡反応を表します)

 1. 3S + 3H2O ⇔ H2SO3 + 2H2S
 2. H2S + 2O2 ⇔ H2SO4
   2H2S + O⇔ 2S + 2H2O
 3. SO2 + H2O ⇔ H2SO3
   2H2SO3 + O2  2H2SO4
   3H2SO⇔ 2H2SO4 + S + H2O

Cl,SO42-の供給源に起った,変化に富んだ発散物を供給する第二の供給源の一時的な出現であれば化学的に無理なく説明できます.残念ながら大沸と密接な関係をもつ焼山には,対応する火山活動の変化は観測されていません.SO42-の放出量は最大増加で1日33 トン,1972~90年の積算では10万トン強程度と見積もられ,火山活動としてはそれ程大きな活動ではありません.時間的にも緩やかな変化なので,温泉水以外の観測測定にかからなかったのかもしれません。なお1997年8月に起こった焼山の数日間の水蒸気爆発が温泉水の成分に変化を与えたかどうかは,見出せていません。

2002年以降にはCl成分が年々増加をして2004年には4.57g/Lになる値を示しました.この値はこの温泉の観測を始めて以来の最高値で,この変動が何に起因するものかは充分な説明がまだつきませんが,温泉の生成機構に変化が起きていることは確かでしょう。
図5
強酸性となった熱い地下水が地表面に湧出するときに,水がその湧出通路付近の岩石と反応して金属イオンを溶出するので,金属イオンが温泉水中に導入されていきます。ClとSO42-の濃度(mmol/L)の合量と金属の濃度変化を図示したものが図6です。温泉水中に含まれる金属成分(鉄とアルミニウム)はClとSO42-の和が大きくなると(pHは低くなります)高くなっていて,この成分間には正の相関があります。

長い年月の観測測定によって,変動がないように思われていた玉川温泉の温泉水にいろいろな変動が起こっていることがわかってきました.そしてその原因もわずかずつですが理解できそうです。火山と火山性酸性温泉との関係はまだ多くのわからないことがあるので,今後とも観測・測定を続けて検討する必要があります。
図6

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