理学部生物分子科学科

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ヒル反応(Hill reaction)

 ヒル反応とは、葉緑体に人工的に電子受容体を加えて光を照射した時に見られる酸素発生反応で、ヒル(Robert Hill)によってはじめて見出された。

 ヒルは、ハコベ(Stellaria media)やオドリコソウ(Lamium album)の葉をショ糖を含む溶液中ですりつぶして葉緑体の懸濁液を作り、これに人工的な酸化剤(最初の実験ではシュウ酸第二鉄)を加えて光を照射すると、加えた酸化剤の還元に伴って酸素が発生することを1938年に発表した。加えた酸化剤がすべて還元された時、さらに酸化剤を加えると酸素発生は回復した。酸素発生速度は、発生した酸素がヘモグロビンと結合したときのわずかな吸収変化を時間ごとに測定して求めた。ヒルは光合成の研究を始めるまでにヘモグロビンやミオグロビンの研究など幅広い研究を行っていた。

 ヒルは発生した酸素が水分子に由来することを直接的に証明することはできなかったが、葉緑体での酸素発生と二酸化炭素の固定とが独立の反応であることを示した。発生する酸素が水分子に由来することは、1941年にルーベンらによって、酸素の同位体を用いた実験で証明された。

 光合成における水の酸化系(酸素発生系)は、水から電子と水素イオンを得るための反応系で、光化学系Ⅱ複合体のチラコイド膜内腔側にある酸素発生複合体で行われる。
        2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
 水からの電子を受け取る電子受容体として人工的に加える酸化剤をヒル酸化剤とよび、これまでにフェリシアン化カリウム、p-ベンゾキノン、インドフェノール色素など多くの試薬が報告されている。無傷の葉緑体では、水からの電子はフェレドキシンそしてNADPなどに渡されている。

 ヒル反応が発見されるまでにも光合成に関して多くの研究があった。エンゲルマンは、顕微鏡を用いた巧妙な装置と運動性の好気性細菌を使って、藻類の葉緑体に光が照射されると酸素が発生すること、光合成色素によって吸収された光が有効であることを証明した。また、モーリッシュは、発光バクテリアを用いて、すりつぶした葉に強い光をあてると酸素がわずかに発生することを発見していた。ヒルは、この酸素発生を定量的に詳しく研究するために、実験に適した植物材料を探し、独自の測定法を改良し、酸化剤の検討を行った。その結果、生きた葉でみられる酸素発生量に比較できる量の酸素を連続的に発生させることに成功した。さらに、ヒル反応の発見に続いて、葉緑体にのみ局在する電子伝達成分のシトクロムfを発見した(1951年)。またチラコイド膜での電子の流れを模式化したZスキームモデルを提唱した(1960年)。Zスキームモデルは、今日でもチラコイド膜を構成する複合体や電子伝達系を図示するときによく下敷きとされている。

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