理学部生物学科

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「水の華」 【2006年8月号】

水の華

水の華
 「水の華」涼しげな感じがしますが、実はあまり愉快なものではありません。水中で特定の種類のプランクトンが大量に増殖して水の色が変わってしまうことを水の華と呼んでいます。海でこの現象が起こると赤潮と呼ばれます。湖やダム湖で起きたときには淡水赤潮とも呼びます。赤潮と呼ばれるように海では水面が赤く見える場合が多いのですが、淡水赤潮では赤、赤紫、茶褐色、黄褐色、緑色、青緑色など様々な色が見られます。プランクトンの種類によって、また増殖の最盛期か、末期かによっても色は異なります。夏によく発生するのは青緑色の水の華で、藍藻類の植物プランクトン「ミクロキスティス」の大増殖が原因です。このプランクトンは単細胞で細胞の直径は1000分の5mmほどしかありませんが、たくさんの細胞が集まって群体を作ると肉眼でも見えるほどの固まりになるためアオコ(青粉)と呼ばれます。夏の水の華、アオコをのぞいてみましょう。

アオコだけがなぜ増える

 アオコは窒素やリンなどの栄養塩類が多い水域に見られます。しかし、これらの塩類があれば他の植物プランクトンも増殖可能なのに、なぜアオコだけが増えるのでしょうか。
 実はアオコは他の植物プランクトンとの競争にとっていくつかの有利な性質を持っています。まず光の利用面では強い光を受けても光合成が続けられることが挙げられます。多くの植物プランクトンは光が強くなると強光阻害を起こし光合成量が低下しますが、アオコでは強光阻害を起こす光の強さが他のプランクトンよりも大きいので、真夏の強い光を無駄なく利用できます。また、ガス胞と呼ばれる浮き袋を細胞内に持っていて、それを使って水中を上下に移動し仲間同士でうまく光を分け合っています。
 栄養塩類の利用ではリンを吸収する速度が速く、しかも必要以上にたくさん取り込み、水中のリンが少なくなってもため込んだリンを使って増殖できます。窒素も他のプランクトンがあまり使わない硝酸態の窒素を好んで利用します。
 植物プランクトンを餌とする植食性の動物プランクトンは体長に応じて一定の大きさまでの植物プランクトンを濾しとって食べますが、アオコは群体を作るため動物プランクトンには大きすぎて飲み込むことができません。また、動物プランクトンの食欲を低下させる毒性のある物質を作ることも知られています。動物による捕食が少ないこともアオコが増える原因のひとつでしょう。

アオコが増えると

アオコが増えると
 アオコは光合成をする植物で強い光を利用し大量の酸素を供給してくれますが、一方でいろいろと面倒なことも起きています。その中でも注目されているのがアオコの作る毒による被害です。ミクロキスティスが作る毒はミクロキスチンと呼ばれ、いくつかの種類が知られています。被害は主にアオコの発生している池の水を飲んだ牧場の家畜類で、世界中の広い地域にわたって起きています。アオコが発生している貯水池の水を飲んだ人にも発熱、吐き気、下痢などの症状が見られたとの報告もあります。しかし、安心してください。アオコの発生している水域にはミクロキスチンを分解するバクテリアが存在し、アオコの細胞外に放出されたミクロキスチンを速やかに分解していることが分かってきました。

アオコの防除法は

 必須アミノ酸の一つであるリジンが、アオコの塩類吸収を阻害することが見つかりアオコを除去できる可能性が高くなりました。実験ではリジンの溶液を湖水に撒くと2日間ほどでアオコが消滅したそうです。しかし、アオコが増殖に利用する窒素やリンといった栄養塩類の流入が続くならば再びアオコが発生する可能性があります。アオコの発生を防ぐには、発生原因である栄養塩類の流入を減らすことが基本的な方法です。

(陸水生態学研究室:磯部吉章 )

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