雨模様の天気が続くこの季節、すかっと抜けるような夏の青空が待ち遠しいですね。入道雲の沸き立つ真夏に大輪の黄色い花をつけ、空の青との対比がとても美しい花、ヒマワリ。みなさんも小学校などで一度は育てた記憶があると思います。学名はHelianthus annuus。分類は、植物界／被子植物門／双子葉植物綱／キク目／キク科／ヒマワリ属／ヒマワリ、となります。英語で“sunflower”と言われるように花の部分はまさに太陽そっくりですが、その「太陽」１つが１つの花なのではありません。「太陽」の部分は実は多数の花の集合体で、「頭状花序」と呼ばれます。分解してみるとよくわかりますが、それぞれの花弁の根元には雄蕊と雌蕊が存在し、れっきとした花の構造をとっています。先ほどヒマワリはキク科に属すると書きましたが、このような花の特徴はタンポポにも見られるようにキク科植物の大きな特徴です。

このヒマワリ、和名（向日葵）が表すように常に太陽の方向を向いている、と思っている人が多いのではないでしょうか。筆者も小さいとき、そう教わりました。実は、半分はあたっているのですが、半分は外れなのです。どういうことかというと、開花するまでの若いヒマワリは確かに太陽を追いかけますが、開花して茎が硬くなると動かなくなってしまうのです。

ではなぜ若い時期は太陽を追いかけるのでしょう。・・・・太陽に恋しているからです。
またまた冗談を、とお思いかもしれませんが、大真面目です。ギリシア神話に次のような話があります。昔、クリュティエという娘がおりました。クリュティエは太陽神ヘリオス（アポロン）に恋をし、やがて２人は愛し合うようになりました。しかし運命とは皮肉なもので、恋のキューピッドのいたずらでしょうか、ヘリオスは他の女性に心移りしてしまいました。嘆き悲しんだクリュティエは９日９夜立ち続け、ヘリオスが日輪車に乗って空へ昇り天道を走る姿ばかり追い続けました。そしてついには１本のヒマワリとなってしまいました。哀れなヒマワリはそれでもなお、１日中太陽の姿を追い求めているといいます。ヒマワリの属名ヘリアンサス（Helianthus）も、実はこの太陽神ヘリオス（Helios）と花（anthos）に由来するのです。ちなみに“annuus”は「一年草」という意味です。

ここで今回のお話を終わりにしても充分ロマンチックな話として完結するのでよいのですが、それでは生物学科のホームページとしてもの足りません。そこで、少し生物学の面からヒマワリの恋物語を解説してみましょう。植物にも動物と同じように体の調節に働くホルモンがあります。その中の１つにオーキシンと呼ばれる成長ホルモンがあり、このホルモンは光の当たらない側で濃度が高くなるという特徴を持っています。さて、ここで光がヒマワリにあたったときのことを考えてみましょう。光の当たらない側、つまり太陽とは反対側の茎の部分でオーキシン濃度が高くなりますね。するとこの部分がオーキシンによって伸長成長するため、ヒマワリの頭は太陽の方に屈曲するわけです。太陽が移動するとそれにつれてオーキシンの分布も変化しますが常に陰の側で高濃度となるため、ヒマワリは太陽を追いかけて頭をふるわけです。花が咲く頃には成長が止まり茎が硬くなりますので、太陽を追って向きを変えることはなくなるのです。
ではもう１歩進んで、ヒマワリが若い時期に太陽の方を向くことにどのような生存戦略上の意味があるのでしょう？ この問いに対する確たる答えはまだ出ておらず、慎重な議論と検証が必要とされています。答えを出すのは・・・・そう、未来のあなたかもしれません。

筆者が子供の頃は、背が高く黄色い一重の「花」をつけるヒマワリしか見たことがありませんでしたが、最近ではミニヒマワリや八重のヒマワリにとどまらず、赤い花弁を持つ品種も見かけるようになりました。各品種につけられた名前もまた面白く、テディーベアなどという可愛らしい名前のものもあるようです。今年もあと少ししたらまた暑い夏がやってきます。ヒマワリを見かけたら、是非とも今回ご紹介したギリシア神話を思い浮かべてみてください。きっと、これまでとは違った印象で目に映ることでしょう。

※写真のヒマワリはいずれも東邦大学習志野キャンパス内で撮影したものです。

（植物生理学研究室：高橋秀典）