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プレスリリース 発行No.741 平成28年11月18日

本学理学部化学科の准教授・山口耕生が、後藤和久(東北大学)、佐藤峰南(海洋研究開発機構、以下「JAMSTEC」)、富岡尚敬(JAMSTEC)と共に国際深海科学堀削計画の研究に参画して、11月16日に東北大学よりプレスリリースが配信されました。

東北大学プレスリリース

内容は以下のとおりです。

 白亜紀末の巨大衝突クレーターの形成過程を解明

研究成果のポイント

恐竜絶滅を引き起こした白亜紀末の天体衝突クレーターをメキシコ沖にて掘削し、物理探査と数値計算によりクレーターの形成過程を詳細に明らかにしました。

概要

メキシコ・ユカタン半島の地下奥深くには、直径約200kmの白亜紀末(約6600万年前)の巨大衝突クレーター(チチュルブ・クレーター)が埋没しています。このクレーターを形成した天体衝突は、恐竜等の大量絶滅の引き金となったと考えられています。しかし、この衝突クレーターは地下約数百mの深さに埋没しているため、これまで構造や形成過程がわかっていませんでした。今回、国際深海科学掘削計画※1(IODP)の第364次研究航海※2“チチュルブ・クレーター掘削計画(別紙参照)”により、ピークリング※3と呼ばれる巨大衝突クレーター特有の構造に狙いを定めて、特定任務掘削船※4を用いて掘削が行われました。その結果、地下約618 mの深度から衝突起源の堆積物が、748 mの深度からは基盤岩(花崗岩)が発見されました。今回、この結果と数値計算を組み合わせることにより、チチュルブ・クレーターのピークリングの形成過程の解明に成功しました。日本からは、日本地球掘削科学コンソーシアム※5の支援を受けた後藤和久(東北大学)、佐藤峰南(海洋研究開発機構、以下「JAMSTEC」)、富岡尚敬(JAMSTEC)、山口耕生(東邦大学)の4名が研究に参画しています。この成果は、米国科学振興協会が発行する科学誌サイエンスに11月18日付(日本時間)で掲載されます。
今回の発見により、衝突の規模や放出エネルギー等を詳細に計算できるようになります。そして、衝突に伴う環境変動の影響を高い精度で推定できるようになり、恐竜をはじめとする生物の大量絶滅を引き起こすメカニズムの解明につながると期待されます。また、巨大天体衝突は太陽系の惑星や衛星の形成初期から頻繁に起きている事象です。今回世界で初めて巨大衝突クレーターの形成過程が物証を伴って明らかになったことにより、地球初期生命の進化、金星や火星、月等の形成史の理解にもつながると考えられます。
掲載誌:Science
論文名:The formation of peak rings in large impact craters
著者名:Joanna Morgan(主著者), Sean Gulick, Timothy Bralower, Elise Chenot, Gail Christeson, Philippe Claeys, Charles Cockell, Gareth S. Collins, Marco J. L. Coolen, Ludovic Ferrière, Catalina Gebhardt, Kazuhisa Goto, Heather Jones, David A. Kring, Erwan Le Ber, Johanna Lofi, Xiao Long, Christopher Lowery, Claire Mellett, Rubén Ocampo-Torres, Gordon R. Osinski, Ligia Perez-Cruz, Annemarie Pickersgill, Michael Pölchau, Auriol Rae, Cornelia Rasmussen, Mario Rebolledo-Vieyra, Ulrich Riller, Honami Sato, Douglas R. Schmitt, Jan Smit, Sonia Tikoo, Naotaka Tomioka, Jaime Urrutia-Fucugauchi, Michael Whalen, Axel Wittmann, Kosei Yamaguchi, William Zylberman

用語解説

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)
平成25年(2013年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、日本、米国、欧州(17ヶ国)、中国、韓国、豪州、インド、ニュージーランド、ブラジルの25ヶ国が参加。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行います。

※2 第364次研究航海
本年4月から5月にかけて、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、「チチュルブ・クレーター掘削計画」(別紙参照)が実施されました。掘削コアはドイツ・ブレーメン大学に輸送され、9月から10月にかけて本格的な記載・分析が行われました。 恐竜の絶滅は生命史の中でも大きな事件ですが、今回の航海ではその原因となった天体衝突の現場を掘削しました。この天体衝突の跡はチチュルブ・クレーター(図1)とよばれ、海底下に存在しています。このクレーターを掘削し、衝突現場でどのようにクレーターが形成されたか、地表がどのように破壊されたのか、どのくらいの期間で環境が回復したのかなど、この破局事件の実態を解明する予定です。今回の成果は、その第一弾と言えます。航海では、衝突起源の堆積物(図2)だけでなく、基盤の地層に達するコア試料を得ることができました。9月—10月にかけてはこれらのコア試料から個別試料の分取が行われ、これから本格的に天体衝突の「現場検証」が開始されます。この研究計画には日本の4名を含め、米国、欧州、中国、 豪州、メキシコ から計31名の研究者が参加しています。

※3 ピークリング
天体衝突クレーターは、小規模であればお椀型の形状となりますが、約30km以上の巨大クレーターは内部にピークリングと呼ばれる特有の環状構造を持つことが知られています。しかし、ピークリングがどのように形成されるかはよくわかっていませんでした。地震波探査により、チチュルブ・クレーターには金星や火星のものと類似したピークリングと思われる構造が指摘されていました。そのため、チチュルブ・クレーターのピークリングの形成過程が解明できれば、巨大衝突過程を理解することができると考えられます。

※4 特定任務掘削船
IODPに用いる科学掘削船のうち、欧州が提供する特定任務掘削船は研究テーマや掘削海域に適した掘削船を傭船し、運用しています。通常、傭船される掘削船に搭載されるのは最低限の研究設備のみのため、掘削されたコア試料のうち、船上ですぐに分析が必要なコア試料以外はそのままの状態でブレーメン大学にあるコア保管庫に移送され、航海終了後、ブレーメン(ドイツ)のコア保管庫においてコア試料の基礎的な記載・分析やサンプリングを行われます。そのため、特定任務掘削船の航海には船上で分析を行う一部の研究者のみが参加しています。

※5 日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC: Japan Drilling Earth Science Consortium)
地球掘削科学の推進や各組織・研究者の連携強化を目的として、国内の大学や研究機関が中心となって2003年に設立されたコンソーシアム。現在、53組織が加盟。国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)に日本人研究者が参加する際の公式窓口となっています。

<別紙>

国際深海科学掘削計画 第364次研究航海
 チチュルブ・クレーター掘削計画

1. 日程(現地時間)
   平成28年4月5日   プログレソ(メキシコ)より出港
             メキシコ湾沖を掘削
   平成28年5月29日   プログレソ(メキシコ)に入港   
   平成28年9月21日~10月15日
             ブレーメン(ドイツ)において掘削試料の基礎分析を実施
 
2. 日本から参加する研究者 
氏名 所属/役職 担当研究分野
 後藤 和久  東北大学/准教授  堆積学
 佐藤 峰南  海洋研究開発機構/JSPS特別研究員  地球化学
 富岡 尚敬  海洋研究開発機構/主任技術研究員  鉱物学
 山口 耕生  東邦大学/准教授  地球化学
 
 
3. 研究の背景・目的
メキシコ・ユカタン半島北部に位置するチチュルブ・クレーターは、約6600万年前の白亜紀末の天体衝突により形成されました。この衝突により、恐竜を含む生物の大量絶滅を引き起こしたと考えられています。しかしながら、このクレーターは直径約200kmと巨大であり、さらに白亜紀末ごろの地層は地下数百mに埋没しているため、その実態はほとんど明らかにされていません。どの程度の規模の天体衝突だったのか、衝突によりどのような環境変動が引き起こされ、どのように大量絶滅が引き起こされたのか、そしてどのように環境や生態系が復元していったのか、を解明することが、今回の航海の主目的と言えます。
2016年4月から5月にかけて約1.3kmの深度まで掘削され、約800m のコアが採取されました。船上でのレポートによると、約600m の深度から砂岩~角礫岩層が堆積しており衝突起源の堆積物である可能性が考えられます 。その下位には基盤岩の花崗岩層が確認されています。掘削されたコアはドイツ・ブレーメンの研究所に8月に到着し、9月中旬から10月中旬にかけて、日本人を含む研究チームにより詳細な記載・分析が実施されました。
 図1 本研究航海の掘削サイトの位置(ECORDウェブサイト より引用)
図1 本研究航海の掘削サイトの位置(ECORDウェブサイト より引用)
図2 衝突メルト角礫岩(J. Morgan氏提供)
図2 衝突メルト角礫岩(J. Morgan氏提供)

「本発表資料のお問い合わせ先」
東邦大学理学部 准教授 山口耕生(やまぐちこうせい)
メール:kosei[@]chem.sci.toho-u.ac.jp、電話:047-472-1210
※E-mailはアドレスの[@]を@に替えてお送り下さい。