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プレスリリース 発行No.669 平成28年4月19日

 脳震盪の知識とその対処法
~ 女子のスポーツで起こる脳震盪について正しい知識を ~

 東邦大学医療センター大橋病院脳神経外科(東京都目黒区大橋2-17-6、診療部長:岩渕 聡)では、スポーツ頭部外傷の多くの診療例・治療例から、スポーツを通じて起こる頭部へのダメージについての様々な知見蓄積に努めています。
脳震盪はラグビーや柔道など体を激しくぶつけ合う競技で起こりやすいことから、一般的に男子に目が向きがちです。しかし近年、武道や格闘技、またサッカーやラグビーなどでも女子の競技人口が増加しており、それらを中心に女子の脳震盪が増加しています。
スポーツの現場での脳震盪に対する認識や対処法などの知識は十分とはいえず、重篤な結果を招くことも少なからずあるのが現状です。

当レポートでは、女子に広がるスポーツジャンルとそこでの脳震盪のリスク、および脳震盪の正しい知識とその対処法について、医療機関の立場からまとめてお知らせします。

女子のスポーツで脳震盪のリスクが高い訳は

脳震盪は、激しい接触などによって脳に強い衝撃が加わったことによって起こりますが、その衝撃が脳に伝わらないようにするためには、体全体や衝撃を受け止めたり緩和したりすること、加えて、首の筋肉の力で衝撃が頭部に及ぶのを食い止めたりしなければなりません。
しかし、一般的に女子は体の骨格が男子よりは弱く、また頭部を支える頸部の筋力も強くはありません。
そのため、接触や転倒、あるいは飛び込みや殴打の機会の多いスポーツでは女子の脳震盪が多くなり、かつ、発症後の様々なリスクも男子に比べて高くなります。
因みに、統計のあるスポーツによる脳震盪の発症率では、柔道では男女で発症率に差はなく、バスケットボールでは男子より女子のほうが高くなっています。
また、従来から頭痛もちである場合には脳震盪を起こすリスクが高いといわれており、スポーツのジャンルにかかわらず、注意が必要です。

女子で脳震盪発症の危険の高いスポーツは

オリンピックの競技が女子にも広がる中で、様々なスポーツで女子の競技者が増えており、それに伴って脳震盪発症のリスクも広がっています。
・武道、格闘技
 柔道、空手、相撲、テコンドー、レスリング、ボクシング
・体と体の接触の多いスポーツ
 サッカー、ラグビー、バスケットボール、ホッケー、アイスホッケー、ラクロス
・飛び込みや落下により殴打する恐れのあるスポーツ
 バレーボール、チアリーディング、乗馬

参考資料

女子がスポーツでの脳震盪のリスクを減らすためにはどうすればよいか

本人、保護者及び指導者が以下のようなことに留意することが大切です。
・スポーツをやるための体幹(フレーム)づくりを行うこと。
・体に、行うスポーツに必要な強さをつけ、同時に柔軟性を養うこと。
・トレーニングを通じて、けがをしない動作を体に覚えさせること。

脳震盪の症状とは

脳震盪の主な症状は、頭痛、めまい、ふらつき、力が出ない、集中できない等です。

意識の消失は重要な自覚症状ですが、脳震盪の9割以上は発症していても実際には意識を失っておらず、そのため、本人や周囲が脳震盪であると自覚・認識することなく、引き続き運動を行うことも多く、このことが繰り返して脳震盪を発症する危険を大きくすることに繋がっています。

発症の程度には個人差があります。症状が軽いからといって脳震盪を発症していないとは限りません。個々人の普段の状態との差がどの程度あるかをよく見極めこと、及びその変化を見逃さないことが重要です。

脳震盪の怖さ

脳震盪は繰り返す“癖”がつきやすく、3回以上繰り返した場合には癖がついている可能性が考えられます。
脳震盪を繰り返すことで、軽い衝撃で頭痛やふらつきを自覚するようになったり、若くして認知症や怒りやすくなるなどの性格変化を呈したり、ひどい場合は重い障害が残ったり、さらには頭蓋内の出血などが原因で死に至ることもあります。
多くの場合外見だけでは異常が確認できないため、病院でCTやMRIを取るなどの適切な処置を受けずに、そのままやり過ごしてしまうことに起因しています。

脳震盪を起こしたらどう対処するべきか

まずは、練習や試合からすぐに外れ、当日は競技を行わないことが一番です。
その上で、できるだけ早く専門の医療機関で診断を受け、脳震盪が起こる原因を見つけ出すことが大切です。
一方で、頭痛やめまいが治ってもすぐに運動を再開するのは危険です。
再開するためには適切な回復期間を置くとともに、脳震盪発症のリスクが高い練習メニューを避けるなどの適切な対策を講じた上で、徐々に運動負荷を上げていく段階的復帰を行っていくことが必要です。

学校体育や運動部、クラブ関係者が留意するべき点について

脳震盪の9割以上は意識を失わないことでもわかるように、外見では判断がつかないことも多く、また個々人の身体能力や、その時々の健康状態によっても差が生じるということを認識する必要があります。
脳震盪の疑いを見極めるためには、ひとり一人の日頃の状態をよく把握しておき、通常の状態とどの程度差が出ているかを把握することが重要です。
万一のために、普段から受診する医療機関を決めておくことも大切です。
過去に脳震盪に対処した経験を持つ指導者や関係者は知見を有していますが、多くの場合はそのような経験がないままに症状の見極めや判断を迫られることとなります。
そのような時には楽観的な判断をせずに、できるだけ早く専門の脳神経外科で受診することが大切です。

東邦大学医療センター大橋病院では、脳震盪をはじめとしたスポーツ頭部外傷に関し、脳神経外科の中山晴雄講師を中心としたチームが専門的な診療にあたっています。

参考サイト

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