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プレスリリース 発行No.584 平成27年3月10日

東邦大学サイエンスインタープリテーション〔科学解説〕
シリーズ:地震② 
地震と水の関係
~ 地震波で見えてきた地下の姿と、それを読み解くカギ ~

  今年の3月11日は、東日本大震災から4年となり、改めて大震災について振り返る機会となります。各メディアで震災関連の報道が増える中、情報の内容が誤解されていたり、聞き流されていることもあろうかと思います。
 本稿では、地震の発生メカニズムの重要な知見となる「流体の地下での振舞いが岩石や断層の力学特性に与える影響」をテーマに研究を進めている東邦大学理学部生命圏環境科学科 上原真一 准教授(地殻力学・地下水理学研究室)が、大震災の基である地震について、実はよく理解されていないと思われる情報に関して、2回にわたり解説します。
 地震の発生は、言うまでもなく地球内部の構造とその活動に起因しています。近年、地球内部の構造を調べる観測データを地球内部の岩石の特性や環境などと合わせ詳しく読み解くことで、巨大地震の発生メカニズムを解明する試みがなされています。そこには、地球内部に存在する水(流体)が関係していることがわかってきました。

地球内部の調べ方

 地球は、中心部から外側に向かって、固体の金属(内核)、液体の金属(外核)、固体の岩石部分(マントル・地殻)で構成されています。この地球内部の構成は、どのようにして知ることが出来るのでしょうか。
 最も直接的な方法としては、「地下に穴を掘って直接行って観察する」、または「少しだけくりぬいてみて何があるかを調べてみる」ということになりますが、これまで人類は、地殻を通り越してマントルに到達する穴すら掘れたことがなく(地殻の厚さは数km~数10km)、現実的ではありません。

・体の中を調べることを考えてみる
 現代の医療では、いきなりメスをいれて直接中身を見るようなことはせず、レントゲン写真やX線CTなどの手法で体の中を調べるのが一般的です。これらの手法は、エックス線(X線)という光(波)の性質を利用します。
 波が物体の中を通り抜けるとき、そのエネルギーは少しずつ失われていきますが、その程度は物質の性質(例えば密度)によります。したがって、通り抜けた波のエネルギーの減り方から、その波が通過した部分の物質の性質を推定することができます。この原理を利用して、体の中のX線吸収率の分布を調べることができ、それから体の中の構造を推定できるのです。

・地球内部を調べる現実的な方法
 地球の内部を調べるときも、波の性質を利用するのが極めて有効です。良く使われるのは地震波(弾性波)です。地震波のいろいろな性質を利用して、地球の内部のことが調べられています。例えば、波は速度が急にかわるところ(異なる物質の境界)で反射したり屈折したりする性質がありますが、これを利用することで、地殻とマントルの境界(モホ面)の位置を推定することができます。また、地下に液体があった場合、縦波であるP波※1は透過することができますが、横波であるS波※2は透過できません。この性質から、外核が液体であることがわかりました。
 また、地震波の伝わる速度もとても重要な情報で、物質の種類や密度、温度などに関係しています。したがって、物質の異なる「地殻」「マントル」「核」はその速度から分けることができます。また、同じ物質でも、温度が高いと地震波は遅くなる性質があることから、まわりより熱いところ、冷たいところを調べることもできます。
※1 P波:地震波の1つ。地震発生時に最初に到達する地震波で初期微動(最初の「カタカタ」という揺れ)を引き起こす。伝わる速度は秒速6~7kmと早く、固体・液体・気体、どの状態においても伝わる(透過する)。
※2 S波:地震波の1つ。地震発生時に初期微動の後の大きな揺れ(主要動)を引き起こす。伝わる速度は秒速3~4kmで、固体においてのみ伝わる(透過する)。

地震と間隙水圧の関係?

・地震波を利用した観測でわかったこと
 このような地震波速度に関する観測技術やデータの解析技術が進み、地球内部の速度分布が詳しくみえてくるにつれ、様々なことが分かってきました。そのひとつが、「プレートの沈み込み帯の地下での、周辺と異なる地震波速度の性質が見られる領域の発見」です。
この領域では、
    「P波の速度Vp」と「S波の速度Vs」の比率(Vp/Vs比)が周りより高い
のです。
注目すべき点は、この領域がスロースリップ(通常の地震とは異なる断層すべり)が起きている場所に近いことです。スロースリップは、プレート境界の巨大地震との関係性が指摘されており、そのメカニズムを解明することは重要です。日本でも、例えば東海地方などの地域でスロースリップが観測されていますが、その発生領域でVp/Vs比が高くなっている様子がみられます。
 
・Vp/Vs比が意味すること
 では、Vp/Vs比が周りより高いということは、何を意味するのでしょうか?
 このような、観測で得られた地震波速度の性質の意味を解読するときには、室内実験が重要な役割を果たします。観測される地震波速度は、上記した物質の種類や密度、温度の条件の他、地下にある岩石に掛かる圧力(応力)※3、さらに岩石の隙間に存在する水など流体の圧力(間隙圧:流体が水の場合、間隙水圧)にも影響を受けます。これらの環境を実験室で再現して地震波速度を測定することで、各条件と速度の関係を知ることができます。その結果をカギとして、地震波速度分布の結果を解き明かすのです。
※3 圧力の原因は、水圧の場合はのしかかっているのは「水の重さ」だが、地下にある岩石への応力の場合は「岩石の重さ」。
 
 こうした室内実験の研究結果から、
    Vp/Vs比が高い理由は、「間隙圧が高い」ことを意味している
と解釈するのが現時点での有力な考え方です。高Vp/Vs比を示す領域は、プレート境界だけでなく、内陸地震の震源付近でも見つかっています。このことは、内陸地震の発生も間隙圧に関係していることを示しているのかもしれません。
 
・間隙圧が高い所と地震現象との関係
 「間隙圧が高い所と地震現象との間に関係ある」ということは、受け入れられやすい解釈です。というのは、
    地震のもとである断層は、一般に間隙圧が高いほど、滑りやすくなる
からです。

 断層が滑るときの抵抗力は摩擦力と呼ばれますが、この摩擦力は摩擦面(断層)に垂直に働く力(垂直荷重)に比例します。すなわち、垂直荷重が大きいほど摩擦力が大きく(滑りにくく)なるのです。
 ここで、断層面が水などの流体で満たされている状態を考えると、その間隙圧は断層を押し広げるように働き、断層に働く垂直荷重の効果を軽減します。その結果、断層の摩擦力は下がり、滑りやすくなるのです。そのため、間隙圧が断層の滑り方や地震の発生に関係していると考えられているのです。

今後の課題

 このように、地震波に関する観測の精度が上がるにつれ、地下の様々なことが分かってきました。しかし、その結果を解釈するためのカギも、より精度を上げていく必要があります。例えば、Vp/Vs比の値と間隙圧との関係について、あるVp/Vs比の値がどれくらいの間隙圧に相当するのかということが、まだはっきりとは分かっていないのが現状です。
 このような地球内部や地震が起きる領域のより詳細な情報を、地震波速度から得るためのカギをつくるため、われわれの研究室でも研究を進めています。

<参考文献>
・川崎一朗 (2006), スロー地震とは何か-巨大地震予知の可能性を探る, NHKブックス.
・笠原順三・鳥海光弘・河村雄行 編 (2003), 地震発生と水-地球と水のダイナミクス, 東京大学出版会.


上原 真一 准教授
 所 属 :東邦大学理学部生命圏環境科学科 / 地殻力学・地下水理学研究室
 専門分野:構造地質学・岩石力学・地下水理学

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