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プレスリリース 発行No.583 平成27年3月10日

東邦大学サイエンスインタープリテーション〔科学解説〕
シリーズ:地震① 
大地震が起こる確率の求め方
~ 地震動予測地図を読み解くための基礎情報 ~

 今年の3月11日は、東日本大震災から4年となり、改めて大震災について振り返る機会となります。各メディアで震災関連の報道が増える中、情報の内容が誤解されていたり、聞き流されていることもあろうかと思います。
 本稿では、地震の発生メカニズムの重要な知見となる「流体の地下での振舞いが岩石や断層の力学特性に与える影響」をテーマに研究を進めている東邦大学理学部生命圏環境科学科 上原真一 准教授(地殻力学・地下水理学研究室)が、大震災の基である地震について、実はよく理解されていないと思われる情報に関して、2回にわたり解説します。
 ニュースなど報道において、「ある地域に30年以内に○○パーセントの確率で震度6以上の地震が起こる」などという話を耳にしたことがあると思います。この“○○パーセント”という数字はどのように導き出されているのでしょうか。ここでは、地震による揺れの中期・長期的な予測の方法について解説します。

そもそも地震とは?

 我々の足元にある地盤には、常に周りから押し付ける力が掛かっています。普段は、地盤はその力に耐えていますが、耐えられなくなると弱いところ、すなわち断層が滑ります。その際、急激に滑りが起きた場合、溜まっていたエネルギー(弾性エネルギー)が短時間で開放されることによって地面が揺れます。この現象が地震です。

地震の揺れの大きさは何で決まるのか?

 地震が起きた時の“ある地域”の揺れの大きさ(震度)は、主に次の3点により決まります(図1)。
図1.地震による揺れの大きさを決める主な要因

・「地震自体の規模」
断層が滑ったときに解放されたときのエネルギーが大きいほど、当然揺れは大きくなります。(地震自体の規模は、マグニチュードという値で表わされます)
 
・「震源断層からの距離」
地震を起こした断層(震源断層)からの距離に関係があり、震源断層から遠いほど揺れは小さくなります。
 
・「地盤の揺れやすさ」
硬い地盤では揺れにくく、軟らかい地盤では揺れやすくなります。さらに、関東平野のような軟らかい地盤が厚くたまっていると、より揺れやすくなることが知られています。

いつ地震が起こりそうなのか?

 ここまで、地震による揺れの大きさを予測する上での材料を示しましたが、地震予測においては、もう1つ重要な要素があります。それは「時間」、すなわち「地震が“いつ”起こりそうなのか?」ということです。 

 一般的な考え方として、地震を起こす断層はほぼ一定の間隔で活動を繰り返すとされています。この考え方に則ると、ある断層が次にいつ活動するかを推定するには、以下の2つのことを調べることが重要になります。
 
  ・ その断層はどれくらいの間隔で活動するか
  ・ 最後に活動したのはいつか

 
 例えば約5000年に一度活動する断層が1000年前に活動していれば、その断層が30年以内に活動する可能性はとても低いと考えられます。一方で、約150年に1度活動してきた断層が160年くらい活動していない場合は、30年以内に活動する可能性は比較的高い、ということになります。

断層が活動する確率の推定方法

 ある断層について、30年以内に活動する確率の推定方法について具体的に説明します。

 先ず、断層について調べた過去の活動履歴から、発生間隔とそのばらつきを求めます。その結果にもとづいて、図2(a)のように、最後に活動した時期からの時間(横軸)と、地震の起こりやすさ(確率密度、縦軸)の関係を求めます。このような地震発生の確率は、Brownian Passage Time分布という確率分布でうまく説明できると考えられており、その考えにもとづいて図2(a)の確率分布は作成されます。ここで、現在から30年以内に地震が発生する確率は、以下のように求められます。

図2.地震発生の確率分布のイメージ図
上:(a)最後の活動時期が明らかな場合
下:(b)最後の活動時期が不明な場合
※2 地震動予測地図「解説編」を元に作成
※3 ここでは、黒色部分の横幅は30年

 (図2(a)の黒色部分の面積)/(黒色の面積+灰色の面積)
 また、断層によっては、最後に活動した時期が不明な場合もあります。その場合は、地震の発生が「ポアソン過程※1」に従うと仮定して確率を計算します。この仮定にもとづいて先ほどと同じように過去の活動履歴から確率分布を求め(図2(b))、30年以内の発生確率を求めます。
 
 (図2(b)の黒色部分の面積)/(黒色の面積+灰色の面積)
 
※1 ポアソン過程:ランダムに発生するが、その間隔の平均値は一定であることがわかっている現象を表す数学的モデルで、例えばバス停に乗客がぽつりぽつりやってくる様子やコールセンターに電話がかかってくる様子をモデル化できると考えられている。

詳細は地震動予測地図の「解説編」をご参照ください(本稿の末尾にウェブサイトのURLが記してあります)。

「30年以内に震度6以上の地震が起こる確率」の求め方

 ここまでの情報から、「ある地域に30年以内に○○パーセントの確率で震度6以上の地震が起こる」の“○○パーセント”を導き出します。
 
(1) これまでの調査で分かっている断層について、活動の間隔と最新の活動の時期を元に30年以内に活動する確率を求める。
(2) 断層の大きさなどから、その断層が動いたときに発生する地震自体の大きさを推定する。
(3) (1)(2)の結果に、「想定地域と震源断層の距離」と「想定地域の地盤の揺れやすさ」の情報を加えることで、その断層によって想定地域がどれくらい揺れるかを推定する。
 
 想定地域の近くにある各断層について、それぞれ上記のような推定を行ってまとめることにより、想定地域における「30年以内に震度6以上の地震が起こる確率」を推定するのです。
 こういった手順で全国各地の「確率」をまとめた図を「確率的地震動※4予測地図」※5と言います。この地図は、地震調査研究推進本部という国の機関が作成しています。
※4 地震動:地震による揺れのこと
※5 地震動予測地図を作成する際には、知られている活断層以外の断層での地震発生も一応考慮されている。全国をいくつかの地域に分類して、そこでの最大の地震の規模を想定し、予測に組み込む。ただし、どちらにしても不確定性は大きい。

「地震動予測地図」の使用上の注意

 ここで大事なことは、ここで述べた手順では様々な不確定要素が含まれているということです。例えば、これまでに見つかっていない活断層が存在する可能性は大いにあります。また、見つかっている断層についても、その規模の推定がきちんと予測できない場合があります。2011年3月の東北沖で発生した地震がまさにその例です。この地域は、地震が頻繁に発生することが知られていましたが、あれほど大規模な地震が起きることを想定した防災対策は十分にされていませんでした。地震という現象についてはまだわかっていないことが多く、例えば天気予報のような精度では揺れの予測ができないというのが現実です。地震に関する研究の今後の発展が、予測の精度を上げるための鍵になってくることでしょう。
 “○○パーセント”という数字が独り歩きして、過剰に安心したり、逆に警戒しすぎたりというのは時に危険です。「地震動予測地図」はここで述べた手順で求めたもので、いろいろと不確定な要素が含まれています。このことを踏まえた上で、この「地震動予測地図」を防災などに利用するのが大事であると思います。
 
 <参考ウェブサイト>
・地震調査研究推進本部ウェブサイト    http://www.jishin.go.jp/main/index.html
 地震動予測地図を作製している機関のサイト。
・全国地震動予測地図 2014年版   http://www.jishin.go.jp/main/chousa/14_yosokuchizu/index.htm
 「地図編」のほか、「手引編」、「解説編」は地図の見方や予測のやり方が詳細に書かれている。
・地震ハザードステーション ウェブサイト  http://www.j-shis.bosai.go.jp/tag/shm
 本稿で書いたことについてのより詳細な説明や、地震動予測地図のオンライン版が見られる。
 

上原 真一 准教授
 所 属 :東邦大学理学部生命圏環境科学科 / 地殻力学・地下水理学研究室
 専門分野:構造地質学・岩石力学・地下水理学

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