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プレスリリース 発行No.577 平成27年1月27日

 ビフィズス菌を含む乳酸菌飲料の継続摂取が
機能性消化管障害患者の消化器および心理症状を改善

東邦大学医療センター大森病院 総合診療・急病センター 瓜田純久教授の研究チームは、株式会社ヤクルト本社中央研究所との共同研究として、機能性消化管障害患者を対象に、ビフィズス菌「ビフィドバクテリウム ビフィダム YIT 10347」(以下、B.ビフィダム Y株)を含む乳酸菌飲料の飲用試験を実施した結果、機能性消化管障害患者の消化器症状および心理症状を改善する効果を確認しました。
なお、本研究成果は、科学雑誌「Bioscience of Microbiota, Food and Health」の電子版(1月21日付)に掲載されました。

1.背 景

機能性消化管障害は、炎症などの器質的な異常がないにもかかわらず、胃がもたれる、胃が痛む、下痢や便秘を繰り返すなどの不快な症状が表れる疾患です。2013年には、機能性消化管障害の中でも胃に不快な症状が表れる機能性ディスペプシアが保険病名を獲得するなど、日本においても関心が高まっています。
本疾患は生命への影響はないものの、生活の質(QOL:Quality of Life)の著しい低下を招き、重症者では仕事にも支障をきたすことから、社会的に大きな問題となっています。実際、消化器科を受診する人の約50% は機能性ディスペプシアだと言われています。
機能性消化管障害は、器質的な病変や血液生化学検査において異常が認められないことから、患者が納得・満足し得るような自覚症状の改善が最も重要となります。また、患者の負担軽減、医療費削減という点からも、食品を用いて症状を改善させることは望ましいと考えられます。
株式会社ヤクルト本社が保有するビフィズス菌 B.ビフィダム Y株は胃に効果が期待できるプロバイオティクスとして、これまでにピロリ菌抑制効果、胃粘膜傷害抑制効果、ピロリ菌陽性者における胃不定愁訴改善効果などが報告されています。
そこで、B.ビフィダム Y株を含む乳酸菌飲料の継続摂取が、機能性消化管障害患者の消化器および心理自覚症状に及ぼす影響を調べるため、臨床試験を実施しました。

2.研究の内容

通院・治療しても症状が改善されなかった重症の機能性消化管障害患者37名(男性18名、女性19名、平均年齢52.6±17.5歳)を対象に臨床試験を実施しました。被験者にB.ビフィダム Y株を1本に10億個以上含む乳酸菌飲料を1日1本(100 ml)、4週間飲用してもらい、飲用4週間後および飲用を中止してから4週間後の消化器自覚症状、心理自覚症状およびストレスマーカーの検査を行いました。

3.結 果

(1)消化器自覚症状(腹痛、下痢、便秘、消化不良)
被験者の消化器自覚症状は、「GSRS※1:Gastrointestinal symptom rating scale」および「FSSG※2:Frequency scale for the symptom of GERD(Gastroesophageal reflux disease)」により評価しました。
B.ビフィダム Y株を含む乳酸菌飲料を4週間飲用した後は、飲用前と比較してGSRSの腹痛、下痢、便秘のスコア、FSSGの消化不良スコアが有意に低値を示し、これらの症状が軽減されました(図1、2)。
※1:GSRS(消化器疾患症状尺度)は消化管症状を評価する15項目からなるアンケートであり、スコアが低いほど症状が改善していることを示す。質問項目は酸逆流症状(2項目)、腹痛(3項目)、消化不良症状(4項目)、下痢症状(3項目)および便秘症状(3項目)に関する項目に分類される。
※2:FSSG(胃食道逆流症状尺度)は、消化管症状を評価する12項目からなるアンケートであり、スコアが低いほど症状が改善していることを示す。質問項目には酸逆流症状(7項目)と運動不全(もたれ)症状(5項目)に関する項目に分類される。
(2)心理自覚症状(イライラ(怒り)、活気)
被験者の心理自覚症状は、「POMS※3:Profile of Mood States」短縮版により評価しました。
B.ビフィダム Y株を含む乳酸菌飲料を4週間飲用した後は、飲用前と比較して「イライラ感(怒り)」のスコアが有意に低値を示し、また、「活気」のスコアが高値傾向を示し、これらの症状が改善されました(図3)。
※3:POMS短縮版(気分プロフィール検査)は、気分、心理症状を評価するための30項目からなるアンケートであり、質問項目は「緊張」「抑うつ」「怒り」「活気」「疲労」「混乱」に関する項目(各5項目)に分類される。「活気」に関するスコアは高いほど、それ以外はスコアが低いほど気分、心理状態が良いことを示す。
(3)ストレスマーカー
ストレスにより上昇することが知られている唾液中のコルチゾール濃度を測定したところ、B.ビフィダム Y株を含む乳酸菌飲料を4週間飲用した後は、飲用前と比較して有意に低値を示し、ストレスが軽減された可能性が示されました(図4)。

4.考察および今後の期待

本試験において、B.ビフィダム Y株を含む乳酸菌飲料の継続摂取により、通院・治療しても症状が改善されなかった重症の機能性消化管障害患者の消化器自覚症状、心理自覚症状が改善されると共に、ストレスマーカーである唾液中のコルチゾール濃度が有意に低下しました。
本試験に用いた乳酸菌飲料に含まれるB.ビフィダム Y株は、これまでに胃の防御因子である胃粘液の産生を亢進すること、また、生きて腸にまでとどくことが明らかとなっています。このことから、B.ビフィダム Y株は胃においては防御因子の増強により胃液による胃のダメージを軽減し、腸においては、腸内フローラのバランスを整えて、消化管症状を改善した可能性が考えられます。
機能性消化管障害は様々な要因が複雑に関係して発症するといわれており、その中でも心理ストレスは最も重要な要因の一つと位置づけられています。本試験において、消化管自覚症状に加え、ストレスマーカーや心理自覚症状の改善が認められたことは、脳腸相関※4が伺える大変興味深い結果と考えられます。
今回得られた結果から、B.ビフィダム Y株を含む乳酸菌飲料は、心理ストレスであるイライラ感を軽減し、胃腸の不快感を改善することで、機能性消化管障害患者のQOLの向上に役立つものと期待されます。
※4:脳腸相関とは、生物にとって重要な器官である脳と腸がお互いに密接に影響を及ぼしあうことを示す。
なお、本研究成果は株式会社ヤクルト本社中央研究所との共同研究で行われました。

【研究内容に関するお問い合わせ先】
東邦大学 総合診療救急医学講座(内科)
瓜田純久教授
 〒143-8541 大田区大森西6-11-1
TEL 03-3762-4151 FAX 03-3765-6518
Email: satomitsuko★med.toho-u.ac.jp [★の代わりにアットマーク@]
 

【取材に関するお問い合わせ先】
東邦大学 法人本部 経営企画部
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