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プレスリリース 発行No.422 平成25年3月21日

【研究紹介】 理学部情報科学科 菊地賢一 准教授
日本の大学入試における選抜方法を検証

 今年度の大学入試シーズンも終わりを迎えようとしています。日本の大学において広く行われている入試方法の1つについて、偏差値と素点の関係性を検証した菊地賢一 准教授(東邦大学理学部情報科学科)の研究を紹介します。この成果は論文にまとめられ、日本テスト学会誌(2012年6月発行)で報告しています。

 私たちは、学生時代はもとより社会人となっても幾度となくテストを受ける機会がやってきます。テストは時にストレスを与え、時に大きな喜びや夢を与えます。それは、テストの得点に実体はなくとも、そこには自身の努力や周囲のサポートを映し出すからです。そのため、テストには科学的根拠と教育理念に裏付けられた適切な評価が求められています。
  本研究では、日本の大学において広く行われている入試の1つ、“指定した複数の科目の中から、高得点の何科目かにおける素点の合計により選抜する”方法の偏差値と素点の関係性を検証しました。その結果、「合格者の偏差値の平均」が「受験者全体の素点の平均点」に対応して、上下することが分かりました。
※素点:生の点数。テストの点数そのもの。

①合格者の各科目の学力を、各科目の偏差値の平均で評価すると、素点の平均の値に大きく影響を受ける。
②素点の平均の高い科目は、合格者の学力も高くなる。

 しかし、この結果には一見違和感を覚えます。なぜなら直感的には、平均点の高い科目を受験した受験者は、高得点科目としてその科目が採用されやすくなりますが、採用されても平均点が高いため、偏差値は高くはならず、むしろ低くなるのではないかと考えられるためです。
 この矛盾は、合格者の各科目の学力を評価する際に、高得点科目として採用されていない得点まで用いているために、起こっています。素点の平均の差が極端な場合、この入試方法におけるほとんどの合格者の選抜は、素点の平均が高い科目で行われることとなり、合格者のその科目の学力は、おおよそある一定のレベル(合否判定ライン)以上に保たれます。一方で素点の平均の低い科目に関しては、選抜がほとんど行われないため、素点が低くても(偏差値が低い範囲まで)合格する割合が増えることとなります。その結果、合格者の標準得点の平均は、素点の平均の高低に影響されてしまうと考えられます。
 すなわち、偶然にも素点の平均が高かった科目に関しては、学力が高い合格者が多く得られるという見方がある一方で、不具合が出る可能性もあります。入試実施側は試験そのものを分析するだけではなく、「どの科目を採用されて合格した学生なのか」を認識し、入学後の成績なども注意してみておく必要がある、と菊地准教授は指摘しています。
 なお、菊地准教授は本研究で日本テスト学会『2012年度 論文賞』を受賞しています。

〈論文タイトル〉  高得点科目の採用による選抜における合格者の学力の評価について
〈  著 者  〉  菊地賢一
〈 掲 載 誌 〉  日本テスト学会誌 Vol.8(1),2012年6月

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