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プレスリリース 発行No.217 平成23年5月18日

印旛沼のバクテリアが増える(減る)ワケ!?
~湖沼におけるバクテリアの役割の解明に向けて~

 「印旛沼におけるバクテリアの季節変動は、「粒子状リンの濃度」と「捕食者の鞭毛虫の量」の影響を受けている」ことを理学部生命圏環境科学科 石鍋順子さん(2010年3月卒業)が卒業研究で明らかにし、その内容を 鏡味麻衣子 講師が再検討してまとめた論文が日本陸水学会 学会誌「陸水学雑誌 72(2011年4月発行)」に掲載されました。これは湖沼において非常に重要な役割をもつバクテリアの動態を明らかにしたもので、印旛沼全体の “有機物分解の過程” と “物質の流れ” の解明につながる成果といえます。
~湖沼におけるバクテリアの役割の解明に向けて~

 湖沼において、バクテリアは非常に高い密度(通常、湖沼の水1mL辺り100万個体程度)で存在することが知られており、原生動物やワムシ類、甲殻類など幅広い生物が豊富な餌資源として利用しています。また、バクテリアは有機物を分解する重要な生物であり、湖沼の水質浄化や物質循環を支えている一方、分解する有機物が増え過ぎると湖水の貧酸素化を招きます。このように重要なふるまいをする生物にもかかわらず、生態研究はほとんど行われていませんでした。
 本研究では、バクテリアの季節変動パターンとその変動要因を明らかにするため、富栄養の湖沼で知られる印旛沼で2009年4月から10月にかけて調査を行いました。その結果、バクテリアの季節変動は、「粒子状リンの濃度」と「捕食者である鞭毛虫の量」に影響を受けていることが分かりました。

※粒子状リン(懸濁態リン):水に溶けずに粒子状で浮遊している状態のリン。植物プランクトンに含まれるリンも含む。⇔ 溶存態リン

 一般にバクテリアの密度は、植物プランクトンの密度や生産量と正の相関があるといわれますが、本研究ではそれはみられず、粒子状リンの濃度とバクテリアの密度に正の相関が見られました。生物由来の有機物には基本的にリンを含みます。このことから、有機物量によってバクテリアの密度が制限されていることが示唆されました。また、粒子状リンのうち植物プランクトンに含まれるリンの量は、10%程度と非常に少ないものでした。このことは、植物プランクトンだけでなく陸上から流入する有機物もバクテリアの重要な有機物源であり、むしろ陸上から流入した有機物の方が多く占めている可能性があることを示しています。

 一方、鞭毛虫の数が増えるとバクテリアの密度が低下する負の相関が見られたことから、鞭毛虫の捕食によって密度が制限されていることが示唆されました。バクテリアの密度が捕食者である鞭毛虫に制限されるかどうかは、動物プランクトンが鞭毛虫を捕食する程度によると考えられます。実際には、印旛沼では捕食スピードの早い大型の動物プランクトンはほとんど出現せず、捕食スピードの遅い小型の動物プランクトンが優占していました。このことから鞭毛虫は(多く捕食されず)比較的高い密度を保ち、バクテリアの主要な捕食者として機能していた可能性があります。
 今後は、DNA解析によるバクテリアの種組成の把握や培養実験による成長特性の解明により、印旛沼全体の有機物分解過程と物質の流れをより詳細に明らかにする予定です。

〈 論文タイトル 〉印旛沼におけるバクテリアの季節変動パターン及び変動要因の解明
〈 著    者 〉鏡味麻衣子・石鍋順子
〈 掲 載 誌 〉陸水学雑誌 72:65‐70(2011)

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