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産科婦人科学講座(佐倉)

所属教員名

高島 明子 / 准教授
石田 洋昭 / 助 教
萬来 めぐみ/ 助 教

運営責任者

講座の概要

平成3年9月に東邦大学医学部付属佐倉病院が開院し同時に当産婦人科も開講しました。初代教授伊藤元博(平成2年~平成17年)、2代教授木下俊彦(平成17年~令和2年)、高島明子准教授(令和2年~)が教室を主宰しています。教室員は開講当時5名で始まり、令和2年5月現在9名の講座員で診療・研究・教育にあたっています。

研究の概要


  1. 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome, PCOS)は生殖年齢の女性の約10%に発症し、月経異常や不妊の原因の一つです。アンドロゲン過剰、LH高値、卵巣の多嚢胞性変化などのほか肥満や男性化など多彩な症状をともないますが、原因は不明です。近年欧米ではインスリン抵抗性の関与を重大視されています。PCOSは広いスペクトラムを持ち、人種的に内分泌的特徴も異なるなど極めて興味深い病態です。我々はPCOSにみられる高テストステロン血症に注目し従来の測定法では明らかにしえなかった本邦PCOS症例の高テストステロン血症をLC-MS/MS法を用いて明らかにしました。また、PCOSにおける糖代謝異常の存在を明らかにしました。
  2. 妊娠中には糖、脂質代謝が生理的かつ合目的に変化します。妊娠中の糖代謝異常によってもたらされる妊娠糖尿病は母児共に影響を与えることから妊娠中にはスクリーニングを行うことが勧められているもののその時期については明確ではありませんでした。このスクリーニングを妊娠中初期に行うことを我々は提唱しその成績をまとめ報告しました。妊娠中には血中中性脂肪の上昇、インスリン抵抗性の発現などメタボリックシンドロームに相同した変化をきたします。メタボリックシンドロームと関連性の深い血中LPLについてその妊娠中の変化について我々はLPL massを用いて検討し世界で初めて妊娠中期に減少することを明らかにしました。CAVIは動脈硬化の指標であることが知られ臨床的に価値の高い検査法であります。妊娠中の血管の硬度についてCAVIを用いて検討したところ、CAVIは妊娠中には変動せず妊娠は血管硬度へ影響しないことが明らかになりました。内臓脂肪はメタボリックシンドロームにおいて蓄積していくことが知られていますが、メタボリックシンドロームと同様な代謝変化をきたす妊娠においての内臓脂肪の変動については知られていません。我々は腹部超音波検査を用いて妊婦の内臓脂肪厚を経時的に測定し妊娠により内臓脂肪厚が厚くなることを発見しました。血中の可溶性LR11が妊娠中に増加し、さらに妊娠高血圧症候群では数倍高値を示すことを明らかにしました。現在、その機序について研究中です。このように妊娠を脂肪・糖代謝の面から解析し妊娠機構の解明に繋げるべく研究を行っています。
  3. 子宮内膜への受精卵の着床に関する研究をマウスを用いてNK細胞の動態から解明しました。妊娠は、母体にとって異物である胚、すなわち胎児が拒絶されずに子宮内で発育するという、免疫学的にきわめて奇妙な現象であることが知られております。妊娠脱落膜では全細胞の約半数までが免疫細胞で占められており、しかも、これら浸潤細胞の中でも最大の細胞集団がnatural killer(NK)細胞であることが知られております。妊娠の早期段階から出産後期まで、子宮に浸潤する免疫細胞の動態を広範囲に調べたところ、妊娠6日目でNK細胞が一過性に消失することを発見しました。しかも、消失後に再び出現するNK細胞は、それまでのものと異なるNK細胞集団でした。このような妊娠日齢に伴うNK細胞の変動やその消失メカズム、そして、その機能について、検討をおこないました。
    1)BALBマウスにおいてCD45+CD11b-及びGr1-細胞は妊娠6日目に著明に減少しました。
    2)この妊娠6日目に著明に減少した白血球は妊娠12日目には再び増殖をしていました。
    3)この妊娠6日目に著明に減少した白血球はCD49b+のNK細胞であり、他のT,Bといったリンパ球やマクロファージ、樹状細胞は妊娠6日目に著明な変化は認めませんでした。
    4)妊娠後増加するNK細胞は非妊娠時と異なるサブセットでした。
    5)IL-15は妊娠時のNK細胞の遊走、増殖に関与している可能性が示唆されました。
    6)妊娠後の子宮NK細胞内にはIL-15及びINFγの産生を認めました。
    以上の結果から非妊娠時にもともと存在するNK細胞は着床期に著明に減少します。その後に子宮に遊走されるNK細胞は非妊娠時とは異なるより成熟したNK細胞であり、INFγを産生し妊娠維持をサポートしていると考えられました。
    このことが受精卵の着床を母体が寛容する機序の一つであることが示唆される結果です。
  4. テストステロンをはじめ性ステロイドホルモンは精巣、卵巣、副腎で産生されていますが、近年になり脳や脂肪組織でも産生されていることを示す知見が得られています。我々は女性脂肪組織中の性ステロイドホルモンをLC-MS/MSを用いて測定しました。病院倫理委員会の承認のもと、婦人科手術患者から皮膚瘢痕部の皮下脂肪と診断的に採取した大網組織の一部を検体として用いたところ、脂肪組織中エストラジオール(E2)濃度は血中濃度よりも高値でありました。テストステロンは脂肪組織と血清中濃度に差がみられず。E2の脂肪組織中濃度と血中濃度の比率をとると非閉経女性では1.5-1.6倍でしたが、卵巣機能が停止した閉経後女性あるいは外科的に両側卵巣を摘出した女性においては3.0-4.3倍でした。このことからE2の脂肪組織中濃度が高いことは血中から脂肪組織へのE2の取り込みの結果ではなく、脂肪組織内で産生された結果である可能性が示唆されます。次に13Cでラベルした前駆物質と脂肪組織をインキュベーションしステロイドホルモンへの転換を検討した。結果、CYP17を介した13C 17ヒドロキシプロゲステロンと13Cアンドロステンジオンの産生が確認されました。CYP19を介した13Cエストロンと13Cエストジオールの産生も確認されましたがエストラジオールの産生量はエストロンの1/100でした。次に脂肪組織中のCYP17とCYP19のactivityについて検討したところ、CYP17のactivityは大網組織よりも皮下脂肪において有意に高く、CYP19においては有意差はみられませんでした。どちらの組織においてもCYP17のactivityがCYP19のactivityよりも高いことが示されました。従って、女性の脂肪組織において特にCYP17を介してのステロイドホルモン産生が行われていることが明になり。卵巣機能が停止している閉経後の女性においても脂肪組織に血中よりも高濃度のエストラジオールが含まれていたことは、閉経後の脂肪組織においてエストラジオールが産生された結果であることが示されました。以上からヒトの脂肪組織はアディポサイトカインばかりでなく性ステロイドを産生する内分泌臓器であるといえます。
  5. 妊娠高血圧腎症は妊娠時に特異的な病態で高血圧と尿蛋白を発症し、さまざまな臓器障害を引き起こします。妊娠高血圧腎症の発症メカニズムは螺旋動脈のリモデリング不全による血管内皮障害が原因であることが明らかになってきており、妊娠高血圧腎症では妊娠初期より、胎盤循環不全の低酸素状態の悪循環を来し、母体血中に炎症基質を放出し、最終的に血管内皮細胞の過剰な炎症状態を介し、高血圧、尿蛋白を引き起こします。LR11(Low-density lipoprotein receptor relative with 11 ligand-binding repeats)はLDL (Low-density lipoprotein)受容体類似タンパクであり正常の血管壁には発現しないが、動脈硬化巣の血管細胞表面に発現します。LR11は切断され可溶性LR11として血中に放出されることから、血中可溶性LR11を測定することで血管細胞の分化程度をあらわす新たなバイオマーカーであることが最近明らかになっています。妊娠高血圧腎症における血管細胞の分化に関わる血中可溶性LR11の病的意義を、血中IL-6、TNF-αと比較して解析検討したところ、 血漿中可溶性LR11値は、妊娠初期と比較して妊娠後期で有意に上昇し、妊娠高血圧腎症患者での可溶性LR11値は妊娠初期、中期、後期の対象者と比較して上昇していました。妊娠高血圧腎症患者での血漿中IL-6値も、妊娠のいずれの時期の値より有意に高く、一方で妊娠高血圧腎症患者のTNF-α値は妊娠中期の値より有意に高かったが、妊娠高血圧腎症患者と妊娠初期、後期の対象者との間の比較では差がありませんでした。このようにして、血中可溶性LR11値は、IL-6値とともに、妊娠高血圧腎症患者において、正常妊娠のどの時期の値と比較しても上昇していており、私たちは、妊娠高血圧腎症の患者と正常妊娠の対象者を判別するための可溶性LR11、IL-6、TNF-αの血漿濃度の効果を調べました。妊娠後期の対象者の中から妊娠高血圧腎症を検出するためのReceiver operating characteristic (ROC) 解析により、可溶性LR11は、感度0.64とカットオフ値23.82ng/mlにおいて、 最大曲線下面積(AUC)は0.84で、IL-6の値と同等であり、TNF-αの値より明らかに優っていました。正常妊娠と妊娠高血圧腎症で可溶性LR11が上昇する病的意義を解明するために、3つの血中バイオマーカーのそれぞれ2つずつ関連があるか否かをピアソンの相関分析で検討したところ、可溶性LR11とIL-6の間では相関を認めなかったが、可溶性LR11とIL-6はTNF-αとの間で正の相関を認めました。重要な点として、妊娠高血圧腎症患者で可溶性LR11とIL-6は、TNF-αとの間の相関を認めませんでした。以上の事より可溶性LR11は妊娠週数が進むにつれ徐々に上昇し、妊娠高血圧腎症でさらに急増する。可溶性LR11の測定は、正常妊娠における血管細胞の適応と妊娠高血圧腎症における病的変化の病態生理をさらによく理解することに貢献する可能性があると考えています。

代表論文

  1. Kinoshita T, Shirai K, Ito M: The Level of Pre-heparin Serum Lipoprotein Lipase Mass at Different Stages of Pregnancy. Clin. Chim. Acta 337:153-156. 2003
  2. Toshihiko Kinoshita, Motohiro Itoh:Longitudinal Variance of Fat Mass Deposition during Pregnancy Evaluated by Ultrasonography: The Ratio of Visceral Fat to Subcutaneous Fat in the Abdomen. Gynecol Obstet Invest 61: 115-118.2006
  3. Toshihiko Kinoshita, Satoru Fukaya, Yutaka Yasuda, Motohiro Itoh : Placental mesenchymal dysplasia. J. Obstet. Gynecol. Res 33: 83-86.2007
  4. Tomohiro Saitoh, Yuichi Tsuchiya, Toshihiko Kinoshita, Motohiro Itoh, Shigeru Yamashita: Inhibition of apoptosis by ascorbic and dehydroascorbic acids in Xenopus egg extracts. Reprod. Med. Biol 8: 3-9. 2009
  5. Saitoh T, Tsuchiya Y, Kinoshita T, Itoh M, Yamashita S: Pro-apoptotic activity and mono-/diubiquitylation of Xenopus Bid in egg extracts. Biochem Biophys Res Commun 384 :491-494.2009
  6. Akiko Takashima, Fumio Ishikawa, Taku Kuwabara,Yuriko Tanaka, Toshihiko Kinoshita, Motohiro Ito, Terutaka Kakiuchi: Uterine Natural Killer Cells Severely Decrease in Number at Gestation Day 6 in Mice, Biology of Reproduction 89: 101,1-8, 2013
  7. Toshihiko Kinoshita, Naoki Takeshita, Akiko Takashima, Yutaka Yasuda, Hiroaki Ishida, Megumi Manrai: A case of life-threatening obstetrical hemorrhage secondary to placental abruption at 17 weeks of gestation, Clin Pract: 4(605):12-14, 2014 doi:10.4081/cp.2014.605
  8. Kinoshita T, Honma S, Shibata Y, Yamashita K, Watanabe Y, Maekubo H, Okuyama M, Takashima A, Takeshita N: An Innovative LC-MS/MS-Based Method for Determining CYP 17 and CYP 19 Activity in the Adipose Tissue of Pre- and Postmenopausal and Ovariectomized Women Using (13)C-Labeled Steroid Substrates. J Clin Endocrinol Metab. 99:1339-1347, 2014
  9. Megumi Manrai, Naoki Takesita, Hiroaki Ishida, Akiko Takashima, Tomohiro Adachi, Izumi Sasaki, Kei Yokokawa, Wataru Tokuyama, Nobuyuki Hiruta, Toshihiko Kinoshita : Primary retroperitoneal mucinous cystic tumors with borderline malignancy: a case report and literature review, Clin Pract: 5(722):14-16 , 2015 DOI: 10.4081/cp.2015.722
  10. Takashima A, Takeshita N, Kinoshita T:Genetic Counseling for a Prenatal Diagnosis of Structural Chromosomal Abnormality with High-Resolution Analysis Using a Single Nucleotide Polymorphism Microarray, Clin Pract:. 8;6(3):852. DOI: 10.4081/cp.2016.852 2016
  11. Ishida H, Jiang M, Ebinuma H, Hiruta N, Schneider WJ, Kinoshita T, Bujo H.  Circulating soluble LR11, a differentiation regulator for vascular cells, is increased during pregnancy and exaggerated in patients with pre-eclampsia. Clin Chim Acta. 2019 Oct;497:172-177. doi: 10.1016/j.cca.2019.07.001. Epub 2019 Jul 9.

教育の概要

学部

医学部4,5年生の臨床実習産婦人科においては東邦大学医療センター佐倉病院産婦人科での3週間の臨床実習を担当しています。
医学部6年生の3月~5月に4週間を1ブロックとした選択制臨床実習(必修)を行っています。

大学院

生体応答系産科・婦人科学の担当をしています。
最近のトピックスをメインに講義を行い、最先端の論文を読み、内容をプレゼンテーションすることでより知識を深めます。これらの習得した知識や実験技術を駆使して、研究テーマを立案して研究を行い、最終的には学位論文を作成します。

診療の概要

産婦人科全般にわたっての疾患に対して対応することを心がけています。各分野における専門医のライセンス取得、認定施設登録は後進を育成し、地域医療に貢献できる大学病院として多様化し目まぐるしくバージョンアップされる情報を適切に更新しつつ、臨床、教育、研究の3本柱を見据えてより良い医療を提供できますよう心がけています。
2019年度診療実績
外来数400件/週
入院数1,400件/年
分娩350件/年
(帝王切開:112件、帝王切開率:32%)
開腹手術192件/年
(緊急手術:50件)
子宮脱手術(子宮全摘・膣閉鎖術)26件/年
内視鏡手術(腹腔鏡・子宮鏡)199件/年
子宮筋腫(子宮全摘・筋腫核出術)87件/年
開腹良性疾患(子宮・付属器)129件/年
悪性腫瘍手術
(子宮内膜癌・子宮頸癌・卵巣癌
102件/年
子宮内膜癌:30件 子宮頸癌:4件 卵巣癌・24件 その他悪性腫瘍手術:2件 円錐切除:43件
化学療法52件/年
放射線治療6件

その他

社会貢献

千葉県周産期医療保健協議会委員

学会活動

木下俊彦教授
日本産婦人科学会代議員
日本内分泌学会評議員
日本生殖学会代議員
日本アンドロロジー学会評議員

竹下直樹准教授
日本人類遺伝学会評議員
日本遺伝カウンセリング学会評議員
胎児遺伝子診断研究会漢字
日本生殖工学会理事
日本生殖再生学会評議員幹事
日本産婦人科医会先天異常委員会委員長
日本IVF学会理事 編集委員
日本産科婦人科遺伝診療学会評議員
お問い合わせ先

東邦大学 医学部

〒143-8540
東京都大田区大森西 5-21-16
TEL:03-3762-4151