医学部

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耳鼻咽喉科学講座(大橋)

所属教員名

吉川 衛   / 教 授
穐山 直太郎 / 講 師
山口 宗太  / 助 教
波多野 瑛太 / 助 教

運営責任者

講座の概要

東邦大学医学部耳鼻咽喉科学講座は、第7代主任教授の名越好古先生の後任の岡田諄先生が急逝された後、小松崎篤教授の耳鼻咽喉科学第1講座(大森病院)と、臼井信郎教授の耳鼻咽喉科学第2講座(大橋病院)に分かれました。
私どもの耳鼻咽喉科学第2講座においては、2002年より大越俊夫先生が講座運営を引き継ぎ、2014年からは吉川衛が講座担当教授として運営を行っております。なお、耳鼻咽喉科学第2講座は、2012年に行われた東邦大学の機構改革に伴い、耳鼻咽喉科学講座(大橋)と名称が変更されております。現在、東邦大学医学部のほぼすべての診療科において、大森病院、大橋病院、佐倉病院にそれぞれ独立した講座を有しております。耳鼻咽喉科においても、各病院に大学院教授を兼務した講座担当教授がおり、お互いに切磋琢磨しながら耳鼻咽喉科学講座全体の発展を目指しております。
その中でも耳鼻咽喉科学講座(大橋)は、渋谷に隣接する好立地にあることから、医局員は広く全国から集まってきており、出身大学も北は北海道から南は九州まで多岐にわたることが特徴の一つです。また、専門研修プログラムの連携施設である、国立成育医療研究センター、がん研究会有明病院、国立国際医療研究センター、河北総合病院、東京慈恵会医科大学附属病院などはすべて30分圏内にあり、専門施設の多い都心で充実した卒後教育を受ける機会にも恵まれております。

研究の概要

慢性副鼻腔炎の予後解析
治癒寛解が困難な病態をもつ慢性副鼻腔炎患者の多くには鼻腔ポリープ(鼻茸)が認められ、手術を行っても再発を繰り返します。このような難治例においては気管支喘息を合併している症例が多く、末梢血中の好酸球増多や、鼻腔ポリープを含む鼻副鼻腔粘膜組織に著しい好酸球浸潤が認められることがわかってきました。現在本邦では、そのような病態を「好酸球性副鼻腔炎」と呼んでいます。また、欧米の病態分類において重要視されている鼻茸の有無よりも、鼻副鼻腔粘膜組織中の好酸球浸潤の方が、統計学的に術後の予後との相関があることも報告されています。
そこで、東邦大学医療センター大橋病院において、慢性副鼻腔炎患者に対し内視鏡下鼻内副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery: ESS)を施行し、術後3ヶ月以上経過観察し得た361例を対象として、術後の予後について解析を行いました。全例においてESSによる篩骨蜂巣の単洞化を行い、術後に好酸球性副鼻腔炎と診断された症例には、鼻洗浄と鼻噴霧用ステロイドによる局所治療を必ず行ったうえで、予後に関わるリスク因子を統計学的に同定しました。その結果、従来から予後に影響を及ぼすと言われている末梢血中の好酸球増多や鼻副鼻腔粘膜組織中の好酸球浸潤などは、再発例や、適切な治療を行っても再発をくりかえす難治例において、リスク因子とはなりませんでした。それでも、気管支喘息を合併する症例においては術後早期から有意に再発を認めたことから、鼻洗浄やステロイドによる局所治療では制御できない何らかの難治化因子が存在することが推測されました。このことから、適切な手術と術後管理を行うと、好酸球に関連する因子は制御できる可能性が示唆されました。すなわち、術式や術者の技量、そして術後の管理を高いレベルで統一することによって、慢性副鼻腔炎患者の予後は大きく変わることを示しています。

好酸球性副鼻腔炎のバイオマーカー
好酸球性副鼻腔炎における疾患特異的なバイオマーカーや治療標的を探索することを目的として、好酸球性副鼻腔炎患者と非好酸球性副鼻腔炎患者の鼻腔ポリープを含む鼻副鼻腔粘膜組織、および正常ドナーの鼻組織からtotal RNAを抽出し、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現プロファイルの検討を行いました。クラスター解析や主成分分析で検討した結果、好酸球性副鼻腔炎に特徴的な発現プロファイルが存在することを同定し、5つのサブクラスター(E1~5)に分類しました。すると、E1およびE2クラスターには、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(chronic rhinosinusitis with nasal polyps: CRSwNP)における解析でも多数報告されている、好酸球や2型炎症に関連する遺伝子(CLC、 CCR3、CCL26、CST1など) が多く含まれていました。その一方で、興味深いことに、E3クラスターにはリンパ球関連の遺伝子(IL2RA、CD209など)、E4クラスターには細胞外マトリックス関連の遺伝子(POSTN、FN1など)、E5クラスターには細胞増殖やcell cycle関連の遺伝子(KRT6A、MKI67など)が多く含まれていました。
さらに、好酸球性副鼻腔炎の病態をさらに明らかにするため、各サブクラスターの構成遺伝子の上流因子をパスウェイ解析で予測したところ、E3クラスターの上流因子はBTK、 IL4、IL5などであり、E4クラスターの上流因子は、TGFB1、IL1B、TNFなどであり、E5クラスター の上流因子は、CCND1、ERBB2などでした。
将来的には、このような好酸球性副鼻腔炎における分子病態の解析をもとにバイオマーカーが明らかになれば、抗体医薬などによる分子標的治療の効果を予測することが可能となり、的確な治療が行えるようになると思われます。

公的研究費の受入状況
  • 文部科学省科学研究費助成事業 基盤研究(C)
    研究課題:慢性副鼻腔炎におけるTGF-βが誘導する治療抵抗性メカニズムの解明
    (研究代表者:吉川 衛)
  • 文部科学省科学研究費助成事業 若手研究
    研究課題:癌生存シグナルを標的とした外耳道癌に対する新規保存的治療法の開発
     (研究代表者:穐山 直太郎)

代表論文

  1. Nakayama T, Hirota T, Asaka D, Sakashita M, Ninomiya T, Morikawa T, Okano M, Haruna S, Yoshida N, Takeno S, Tanaka Y, Yoshikawa M, Ishitoya J, Hizawa N, Isogai S, Mitsui C, Taniguchi M, Kojima H, Fujieda S, Tamari M. A genetic variant near TSLP is associated with chronic rhinosinusitis with nasal polyps and aspirin-exacerbated respiratory disease in Japanese populations. Allergol Int. 2020; 69: 138-140.
  2. Yamamoto-Fukuda T, Akiyama N, Kojima H. L1CAM-ILK-YAP mechanotransductiondrives proliferative activity of epithelial cells in middle ear cholesteatoma. Am J Pathol. 2020.
  3. Akiyama N, Yamamoto-Fukuda T, Yoshikawa M, Kojima H. Regulation of DNA methylation levels in the process of oral mucosal regeneration in a rat oral ulcer model. Histol Histopathol. 2020; 35: 247-256.
  4. Yamamoto-Fukuda T, Akiyama N, Kojima H. Keratinocyte growth factor (KGF) induces stem/progenitor cell growth in middle ear mucosa. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2020; 128: 109699.
  5. Nakayama T, Sugimoto N, Okada N, Tsurumoto T, Mitsuyoshi R, Takaishi S, Asaka D, Kojima H, Yoshikawa M, Tanaka Y, Haruna SI. JESREC score and mucosal eosinophilia can predict endotypes of chronic rhinosinusitis with nasal polyps. Auris Nasus Larynx. 2019; 46: 374-383.
  6. 井上 なつき, 浅香 大也, 横井 佑一郎, 青木 由香, 両角 尚子, 坂口 雄介, 久保田 俊輝, 穐山 直太郎, 吉川 衛. アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎の臨床的検討. 日耳鼻会報. 2019; 122: 1528-1535.
  7. Takahashi M, Yamamoto-Fukuda T, Akiyama N, Motegi M, Yamamoto K, Tanaka Y, Yamamoto Y, Kojima H. Partial Epithelial-Mesenchymal Transition Was Observed Under p63 Expression in Acquired Middle Ear Cholesteatoma and Congenital Cholesteatoma. Otol Neurotol. 2019; 40: e803-e811.
  8. Okada N, Nakayama T, Asaka D, Inoue N, Tsurumoto T, Takaishi S, Otori N, Kojima H, Matsuda A, Oboki K, Saito H, Matsumoto K, Yoshikawa M. Distinct gene expression profiles and regulation networks of nasal polyps in eosinophilic and non-eosinophilic chronic rhinosinusitis. Int Forum Allergy Rhinol. 2018; 8: 592-604.
  9. Nakayama T, Okada N, Yoshikawa M, Asaka D, Kuboki A, Kojima H, Tanaka Y, Haruna SI. Assessment of suitable reference genes for RT-qPCR studies in chronic rhinosinusitis. Sci Rep. 2018; 8: 1568.
  10. Yamamoto-Fukuda T, Akiyama N, Takahashi M, Kojima H. Keratinocyte Growth Factor (KGF) Modulates Epidermal Progenitor Cell Kinetics through Activation of p63 in Middle Ear Cholesteatoma. J Assoc Res Otolaryngol. 2018; 19: 223-241.

教育の概要

学部

<教育目標>
東邦大学は、「自然・生命・人間」を建学の精神とした自然科学系総合大学で、医学部は1925年に創立された帝国女子医学専門学校が前身となります。このような伝統をもとに、医学部では医学の基本である知識、技術、医の心を学ぶことによって医学を深く理解し、豊かな人間性と科学的判断力を身につけることを目標としております。

<講義・実習の内容>
当講座が担当する耳鼻咽喉科学は、一見狭い領域を診る分野と思われがちですが、実際には脳、眼球、頸椎をのぞく頭頸部のすべてをあつかう学問であり、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の患者が対象となります。また、耳鼻咽喉科の診療は「外科系」「内科系」の両方の領域にまたがるため、医学部生の興味や適正に合わせて、将来的には医師としての豊富な選択肢が用意されています。まだ診療経験のない医学部生に、講義や臨床実習を通じて耳鼻咽喉科学の興味深さを伝えることによって医学全般に対する意欲を掻き立て、社会に貢献できる医師を養成するとともに、東邦大学の将来を担う人材の育成を目指します。

大学院

<教育目標>
耳鼻咽喉科学に関する専門的知識を修得するとともに、自立して研究活動を行うための高度な研究能力を身に付けることを目標とします。さらに、医学研究指導者としての教育力、社会的・倫理的な配慮、豊かな学識をもった耳鼻咽喉科医の育成を目指しております。

<講義・実習の内容>
耳鼻咽喉科学に包括される領域のうち、当講座の最も得意とする鼻科学、免疫アレルギー学の専門的知識を教育するとともに、病態解明や新規の治療法の開発などに関する研究を行います。基礎研究を重ねて見つけ出した新しい医療の種(シーズ)を、臨床医学としての耳鼻咽喉科学にどのように応用するか、すなわちトランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)による社会貢献を最終的な目標とした講義や実習を行います。

<学位授与までの過程>
大学院生としての4年間に、博士課程(医学専攻)の必修科目26単位以上と選択科目4単位以上を修得するとともに、新しい知見に関する研究成果を学位論文として発表します。提出された学位論文をもとに、専門的知識、研究能力などが審査され、最終試験に合格すると博士(医学)の学位が授与されます。詳しくは、「医学研究科のご案内」https://www.toho-u.ac.jp/med/graduate/index.htmlをご覧ください。

診療の概要

東邦大学医療センター大橋病院は、多くのIT企業が集まる渋谷に隣接し、近隣には目黒、世田谷の閑静な住宅地が広がっております。また、1964年に開院してから60年近い歴史がありますが、2018年には最新鋭の設備を整えた新たな都市型モデル病院へと生まれ変わりました。私たちは、都内でも有数の恵まれた環境にある最新鋭の大学病院の耳鼻咽喉科として、高度な専門性に基づく、手術治療を中心とした診療を行っております。
特に、厚生労働省の指定難病である「好酸球性副鼻腔炎」を含む慢性副鼻腔炎や、副鼻腔真菌症、鼻副鼻腔腫瘍などの鼻副鼻腔疾患や、下垂体腫瘍などの頭蓋底疾患を対象とした内視鏡手術については、全国でも有数の手術件数を誇ります。この手術に関しては充実した設備を有し、手術支援機器として高解像度(4K、フルHD)の内視鏡システム、マイクロデブリッダーおよび内視鏡用ドリル、手術用ナビゲーションシステムを備えており、高度な医療を提供しております。さらに、手術研修会において指導を行う技量と、豊富な経験をもつ指導医による管理のもと、低侵襲で安全な手術を行っております。そのため、全国でも数少ない、日本鼻科学会認定手術指導医制度における認可施設にもなっております。
また、アレルギー指導医や専門医の資格をもつ医師によるアレルギー専門外来では、アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法や手術治療にも精力的に取り組んでおります。睡眠時無呼吸に関する専門的な診療も行っており、他施設ではあまり行われていない小児例の診断や治療にも力を入れております。

その他

社会貢献

主なメディア掲載:吉川 衛

  1. これでスッキリ!鼻詰まり解消法SP.NHKテレビ「あさイチ」,2020.3/16放送
  2. 後鼻漏.毎日新聞.2017.2/14
  3. つら~い慢性副鼻腔炎.日本経済新聞.2016.9/3
  4. 侮るなかれ!鼻づまり.NHKテレビ「あさイチ」,2016.1/27放送
  5. 慢性副鼻腔炎「3つのタイプ」「3つの治療法」.NHKテレビ「きょうの健康」,2015.9/14, 15放送
  6. 名医が警告!いま 気をつけるべき病ランキングスペシャル. テレビ朝日「たけしのみんなの家庭の医学」,2014. 4/1放送
  7. 慢性副鼻腔炎(蓄膿症).週刊朝日MOOK 新「名医」の最新治療2014.2013.12/20
  8. 慢性副鼻腔炎(蓄膿症).週刊朝日.2013.8/30
  9. 朝方のくしゃみ連発にご注意「花粉ではなく寒暖差」.朝日新聞.2013.5/7
  10. 子どもの長引く鼻水・鼻づまりに注意!.NHKテレビ「きょうの健康」,2013.4/24放送

学会活動

主な学会・研究会の役職:吉川 衛

日本耳鼻咽喉科学会  代議員 専門医制度委員
日本アレルギー学会  代議員
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会  理事(2017年~)
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会  理事(2019年~)
日本小児耳鼻咽喉科学会  理事(2017年~)
日本鼻科学会  代議員 鼻科手術指導医制度委員
耳鼻咽喉科臨床学会  運営委員
大橋ENT研究会  代表世話人
東京城南ENTセミナー(東京JOES) 代表世話人
目黒区耳鼻咽喉科合同医会  代表世話人
関東耳鼻咽喉科アレルギー懇話会  世話人
睡眠呼吸障害研究会耳鼻咽喉科部会  世話人
 OJENT研究会  世話人
お問い合わせ先

東邦大学 医学部

〒143-8540
東京都大田区大森西 5-21-16
TEL:03-3762-4151