理学部複合物性研究センター報告

理学部複合物性研究センター報告

~第5回 複合物性研究センターシンポジウム開催~

●複合物性研究センター長 幅田揚一

複合物性研究センターでは国際交流センターからのご支援をいただき,今年度はこれまで2件の講演会と1件のシンポジウムを開催しました。

講演会

世界的に著名な先生をお招きし、10月12日(水)にはMilan Melnik 教授(Slovak Institute of Technology, Slovakia)による講演会を、11月9日(水)にはShim Sung Lee 教授(Gyeongsang National Univ. Korea,元理学部客員教授)による講演会を開催しました。

シンポジウム

今年で第5回目を迎えた複合物性研究センターシンポジウムは、当センターの研究成果を国内外に発信する場としてスタートしましたが、現在では学内の教員間の共同研究のきっかけになるなど研究の活性化を促進するばかりでなく大学院生や学部学生に対する教育の場としての意味合いも加わり、より意義あるシンポジウムに発展してきました。

今年度は12月3日(土)に第5回複合物性研究センターシンポジウムを開催しました。これまでは一つの会場でシンポジウムを行ってきましたが、今年度はより議論を深めることを目的として第1,第2の二つの会場に分かれて開催しました。第1会場のメインテーマは「ディラック電子とスピントロニクス」1)、第2会場のメインテーマは「機能性分子の最前線-超分子からナノ炭素まで」2)とし、合わせて14件の口頭発表と30件のポスター発表が行われました。今回のシンポジウムには二つの会場合わせて約130名の参加者があり、特に多くの大学院生や学部学生諸君が熱心に講演とディスカッションに耳を傾ける姿が印象的でした。第2会場では韓国でも有数のX線結晶構造解析3)の専門家であるKi-Min Park 教授(Gyeongsang National Univ. Korea)をお招きしました。Park教授は日本語がご堪能なため、大学院生や学部学生にもわかるように日本語での講演となりました。

【プロフィール】

ディラック電子とスピントロニクス

2010年のノーベル物理学賞に輝いた単層グラファイト(グラフェン)に代表される物質では、電子が“質量ゼロ”の粒子として振い、非常に興味深い性質を示します。こうした系は“ディラック電子系”と呼ばれ、未来の電子デバイスとして注目を集めています。一方、電子のもつ電荷の代わりに、そのスピン(磁気モーメント)を使った電子デバイスが実用化されつつあり、省エネルギーデバイスとして世界的な注目を集めています。電子のスピンを制御するこのようなテクノロジーをエレクトロニクス(電子工学)にならい、“スピントロニクス”と呼びます。本シンポジウムでは、ディラック電子系のスピントロニクスへの応用や、それぞれの分野の最新の研究成果などについて、国際的に活躍されている研究者の方々にお集まりいただき、講演をしていただきました。

機能性分子の最前線-超分子からナノ炭素まで

原子や分子の世界ではこれまでには考えられなかったような構造や機能を持つ分子の概念を超える新しい化合物が精力的に研究されてきました。超分子とは通常の分子とは異なり,共有結合でなく水素結合,配位結合など弱い結合によってその構造が形成されているもので,共有結合ではつくることができない構造を簡単に作ることができたり,通常の分子では不可能な様々な機能をもたせたりすることができます。また,ナノ炭素は,C60で知られるバックミンスター・フラーレンやナノチューブ,ナノチューブコーンなどを指します.まだまだその機能が解明されていなものが多く,これからの発展が大いに期待される分野です。本学化学科は特に機能性分子の研究が盛んに行われており,今回のシンポジウムでは主として学内の研究者に講演をお願いしました。内容は,超原子価化合物,分子機械,ナノチューブ,イオン液体,ポルフィリンなど多岐に渡る内容でした.また,韓国における超分子のX線結晶構造解析の第一人者である朴基民教授には,様々な超分子錯体の構造について日本語で講演していただきました。

健康診断でレントゲンに使われているX線

健康診断でレントゲンに使われているX線を化合物の単結晶(分子などが規則正しく並んだ結晶)に照射すると一部のX線は化合物中の電子によって散乱します。この散乱したX線を観測・計算することによって分子の形を決定する方法です。